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共産論(連載第57回)

2019-07-10 | 〆共産論[増訂版]

第9章 非武装革命のプロセス

(6)共産主義社会が始まる

◇最初期共産主義
 移行期の一時的混乱を最小限に抑えることに成功し、この時期を無事に乗り切れば、いよいよ共産主義社会が始まる。この生まれたばかりの共産主義社会が「最初期共産主義社会」である。
 この時期は移行期を通過済みとはいえ、まだ不安定で、共産主義的な施策が本格的に推進されていく変動期のプロセスである。このプロセスにどれくらいの時間を要するかは難しい問題だが、少なくとも10年は見込んでおいた方がよいかもしれない。以下、この時期におけるメインのプロジェクトを項目的に列挙していく。

◇通貨制度の廃止
 最初期共産主義社会における経済革命のクライマックスと言えるのが、貨幣制度の廃止である。これは単にモノとしての貨幣を廃棄し、キャッシュレス化するということではもちろんなく、電子マネーのようなものを含めて交換手段としての強制通用力を与えられた通貨制度全般を廃止するということになるが、(※)それだけにいくつか慎重にフォローすべき点がある。
 本来、この施策は世界同時的に条約を通じて実施することが混乱を防ぐうえで理想的であるから、世界民衆会議の下に、各領域圏中央銀行を包括する通貨制度清算機構を設置して、各領域圏における通貨制度廃止を統一的に支援していくことが望ましい。
 このプロセスにおいては、特に銀行を中心とした金融機関の総清算作業が不可欠となる。この作業のために、各領域圏中央銀行内に金融清算本部を設置し、各銀行その他の金融機関の清算会社をすべて接収したうえ、全口座を整理する必要がある。  
 これらの清算口座の預金はすべて中央銀行の管理下で封鎖・無効化されるが、まだ資本主義経済下にある諸国の外国人(法人を含む)名義の口座については引き出し・返還の手続きを進める。なお、中央銀行は通貨制度廃止の全プロセスを見届けたうえ、最終的に自らも廃止される。 
 他方、革命が全世界に波及するには時間差が避けられず、まだ共産化されていない諸国との貿易を当面は継続するという場合、中央銀行は貿易決済に必要な外貨準備を保有している必要がある。こうした未革命諸国との残存貿易に関しては、全貿易会社を統合したうえで一元的な貿易窓口機関となる暫定的な「統合貿易公社」を設立して対応することになろう。  
 ところで、通貨制度を廃止した場合に生じ得る切実な難問は、まだ通貨制度が廃止されていない海外から、無償で物品を取得しようとする外国人のツアー客が殺到しかねないということである。  
 これに対しては、さしあたり永住者や所定期間の長期滞在者以外の一時滞在外国人については、中央銀行が監督する一部の外貨決済店舗でのみ物品の購買を認める特例をもって規制的に対応せざるを得ないであろう。
 従って、最初期共産主義社会においては、残存貿易の継続と合わせて、対外的な関係ではなお貨幣交換を伴う商品形態が一部残存することになる。

※ここで廃止の対象となるのは、国家が発行する公式の通貨であって、民間で発行され、特定の取引界でのみ通用する私的通貨(仮想通貨のような電子化されたものも含む)の流通を認めるべきかどうかは経済政策上の問題である。このような私的通貨による取引を一種の物々交換とみなすならば、持続可能的計画経済の外にある生産・流通過程における物々交換の範疇でこれを認めることはあってよいと考えられる。

◇計画経済の始動
 移行期に準備されていた包括会社が各種生産事業機構に転換され、計画経済移行準備協議会が経済計画会議として正式に発足すると同時に、最初の計画経済(第一次三か年計画)が始動する。計画外の自由生産制を採る分野でも、株式会社制度の廃止に伴い、第3章で見たような新しい生産組織が続々と発足する。

◇社会革命の進行
 経済分野以外でも、家族、福祉、教育、メディアなどの諸分野で、各章で見たような大規模な社会革命が進行していく。
 ただ、こうした分野の変革は経済分野以上に歴史的な時間を要することもあり、最初期共産主義社会のプロセス内では完了しない場合もあり得るであろう。

◇全土民衆会議の発足
 最初期共産主義社会における政治制度面の重点は、領域圏レベルの全土民衆会議が正式に発足することである。すなわち初期憲章公布・施行の後、すみやかに第一期民衆会議代議員の抽選が実施される。(※)
 反面、移行期の革命中枢機関であった革命移行委員会はその名称を「革命参事会(以下、「参事会」と略す)」と変え、役割も全土民衆会議に対する諮問機関に転換される。
 すなわち参事会は全土民衆会議で審議中の案件について諮問を受け、または意見を表明し、これを通じて、発足したばかりの民衆会議に対する顧問的な役割を担うのである。参事会の議員は革命功労者の中から6年程度の任期をもって全土民衆会議が選出する。

※同様に、地方の各圏域民衆会議も正式に発足する。

◇政府機構の廃止
 移行期にはまだ残存していた中央政府機構が解体され、民衆会議による一元的統治が開始される。これに伴い、旧省庁の多くは全土民衆会議に直属する政策シンクタンクに転換されるが、財務省・国税庁などのように、通貨制度の廃止と運命を共にする省庁もある。
 なお、外務省は次章で見る世界共同体が正式に発足するまでは、全土民衆会議の外交機関(外交本部)として当面存続するが、世界共同体が発足した後は、現在のような主権国家間の外交関係自体が消失するため、世界共同体の出先代表機関である「世界共同体連絡代表部」に取って代えられる。
 また、この段階では旧自治体機構の廃止・転換も完了し、各圏域の民衆会議が正式に活動を開始する。

◇軍廃計画の実行
 移行期に策定された軍廃計画が実行段階に入る。最終的に、世界共同体憲章が正式発効し、憲章に基づく軍備廃止条約が締結された場合は、条約上義務づけられた行程に従って、常備軍の廃止プロセスを進めていくことになる。

◇完成憲章の制定
 全土民衆会議は上述のような重要な工程が一段落したところで、その成果を踏まえつつ、完成憲章の起草作業に着手する。
 完成憲章は最初期共産主義社会に続くプロセスとしての「成熟期共産主義社会」に対応するもので、ここでの重要な改正点は参事会が廃止されて全土民衆会議に完全に一本化されることである。言わば民衆会議が一本立ちするわけで、これによって共産主義社会はいよいよ成熟期を迎えるのである。
 この完成憲章の最終的な確定のためには、領域圏民衆による直接投票で過半数の承認を経ることを要するものとすべきである。ただし、連合領域圏では、連合を構成する準領域圏の四分の三以上における直接投票による過半数の承認を要する。

◇成熟期共産主義から高度共産主義へ
 この成熟期共産主義社会を経由して社会の全人口の大半が「資本主義を知らない世代」となった時に、発達した共産主義社会すなわち「高度共産主義社会」に入っていく。
 この時に初めて、第3章で展望したような純粋自発労働制の社会が実現するのかどうか━。これについては、未来世代の賢慮に委ねるほかはない。


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