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共産論(連載第56回)

2019-07-09 | 〆共産論[増訂版]

第9章 非武装革命のプロセス

(5)経済移行計画を進める

◇経済移行計画
 移行期における最大のイベントが、資本主義市場経済から共産主義計画経済への移行である。資本主義のグローバル化に伴い、革命の時点では、ほぼすべての諸国が名実ともに、または実質上(社会主義市場経済や暗黙の市場経済化のような形で)資本主義経済システムによっているであろうと想定されることから、このような経済体制の移行は大掛かりなものとならざるを得ず、慎重な計画に則って遂行する必要がある。

◇基幹産業の統合  
 共産主義経済の基軸が計画経済(持続可能的計画経済)にあることはすでに見たが、資本主義的市場経済から一挙に共産主義的計画経済へ移行することは無理であるから、まずは計画経済の対象分野の企業統合を通じた再編に着手する。  
 具体的には、鉄鋼、電力、石油、造船、機械工業に加え、運輸、通信、自動車等々、計画経済の導入が予定される分野に関して、将来の生産事業機構化へ向けた単一の包括会社を設立することである。  
 そのうえで、将来の計画機関である経済計画会議の前身となる「計画経済移行準備協議会」を設立し、各包括会社の担当役員を中心に経済計画を実際に立案してみる図上演習を行う。  
 こうした包括会社と同様の会社の設立は、一般消費分野でも行われる。すなわちスーパーマーケットやコンビニエンスストアの合併による地方圏(または準領域圏)ごとの包括小売会社の設立である。これは将来の消費事業組合の前身となる組織である。

◇貨幣経済廃止準備  
 真の共産主義経済は貨幣交換によらないこともすでに見てきたが、貨幣経済の廃止は生産様式を越えて、ほとんど「文明史的な」と形容しても過言でないほどの大変革となるために、人々の生活様式も大きく変容する。そのため一気に施行することはできず、とりわけ慎重なプロセスを要する経済移行計画の中核を成す。  
 移行期にはまだ連鎖的な貨幣交換で成り立つ資本主義は完全には廃されず、その相当部分が残されたままである(残存資本主義)。しかし、この時期からほとんどの人にとって未知の共産主義経済という新経済システムに適応するためのある種予行演習を展開することが不可欠である。  
 その際、まずは消費財の貨幣交換によらない無償供給(取得数量規制付き)の試行から開始する。特に食糧を中心とした日常必需品と一部の雑貨的有益品である。こうした部分的な物資の無償供給は戦時/災害時配給制に似ているが、臨時措置ではなく、来る貨幣経済廃止に向けた準備プロセスである。(※)
 この試行は、上述の包括小売会社を中心に、既存の農業/漁業協同組合とも連携しながら、指定供給所を通じて移行期の全期間にわたって行なう。

※旧版では、代表的な都市部及び典型的な農漁村部に「共産主義経済試行区」を設置し、試行区内で先行的に共産主義経済の実践を開始するという一種の経済特区制度を提唱していたが、このような地域限定の二重経済システムは経済の公平性や統一性という観点からひずみをもたらすため、当版以降、撤回する。

◇土地革命  
 移行期における経済政策で最も政治的な論議を惹起するものが土地革命、すなわち全土地の無主物化と公的管理体制への移管である。
 この政策は、おそらく最も強い反発・抵抗を呼び起こしかねないから、移行委はすみやかに政令を発布して土地管理機関を設立し、土地私有権の消滅手続きを進めつつ、旧所有者による土地囲い込みなどの実力行使に対する取り締まりの体制を整備する必要がある。そのためにも、土地管理機関は法務部門のほか、独自の捜査部門と警備部門も備えている必要がある。

◇農業の再編  
 農業生産機構を軸とする共産主義的な農業統合化は土地改革に伴う農地の所有権消滅問題とも絡んで、大きな反発を招く恐れもあるため、十分な経過措置を講じて農業者の理解と信頼を醸成することを要する。  
 まずは、農業協同組合のような既存の農業者連合団体を全土包括的な農業法人にまとめ、農業生産機構の前身組織として再編したうえ、農業統合化に向けた物的及び人的準備を実施する。ここでも、上述基幹産業分野にならい、農業生産計画の図上演習を行なう。(※)

※同様の再編過程は、漁業分野にも妥当する。

◇告知と試行  
 移行期経済計画は多岐にわたり、全産業界に影響が及ぶことから、共産主義経済への移行プロセスの全体像と具体的な施策を解説した文書を各産業界にも配布して、自発的な準備を促す。また、共産主義経済の下での新たな生産と労働、生活全般の仕組みをわかりやすく解説した冊子を全世帯に配布するなど情報提供・周知徹底を通して不安の解消に努める。  
 このように、経済移行計画においては事前の告知による情報提供と図上演習を含む試行の組み合わせにより、社会経済システムの大変動期にありがちな混乱を最小限に抑制することが目指される。


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