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比較:影の警察国家(連載第3回)

2020-07-24 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

1‐0:連邦警察集合体

 アメリカにおける複雑な多重警察機関体系は、これを概観するだけでも一苦労であるが、とりあえず、まずは頂上に当たる連邦全体の警察機関体系を概観するのが早道であろう。というのも、アメリカ流多重警察国家において最も管轄区域が広く、権限も強大なのがこの部分だからである。
 とはいえ、「アメリカに連邦警察は存在しない」というテーゼが依然として存在している。もっとも、歴史の古い公園警察をはじめ、議会警察とか最高裁判所警察等々、「警察」を冠する連邦機関がいくつか存在するが、これらはそれぞれ特化された領域に限定された部分警察機関であって、包括的な連邦警察機関がアメリカに存在しないことは事実である。
 しかし、最も著名で強力な連邦捜査総局(FBI)をはじめ、多数の連邦警察相当機関が林立する形で集合体―連邦警察集合体―を形成しており、実質的に見れば、アメリカにも連邦警察はそうした集合的な形態で立派に存在していると言えるのである。

 それにしても、この警察集合体に属する諸機関の数は多く、全体像の把握は困難であるが、それぞれが属する上部機関の別によって大きく分類すれば、司法省系・国土保安省系・国防総省系・内務省系・財務省系・その他系に大別することができる。
 さらに、正面からは警察機関に数えられないが、中央諜報庁(CIA)や国家安全保障庁(NSA)など、国家諜報長官が緩やかに束ねる諜報機関体系に属する諸機関も秘密政治警察的機能を果たしている。

 司法省系機関には著名な機関が多く、先のFBIを筆頭に、麻薬取締庁(DEA)、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締総局(ATF)、さらに最も歴史の古い保安官局が属する。
 次いで、9.11事件後に新設された国土保安省系には、歴史の古い合衆国機務局(シークレット・サービス)をはじめ、税関・移民関連の専従取締機関、さらにアメリカにおける海上警察に相当する沿岸警備隊(有事には海軍指揮下編入)などが属する。
 国防総省系警察機関は他国における憲兵隊に相当するが、アメリカでは憲兵隊とは別途、陸海空軍それぞれが独自の犯罪捜査局を擁している。中でも著名な海軍捜査局(NCIS)は要員が文官身分とされる独自の捜査機関としての地位を持つ。
 内務省系としては先の公園警察をはじめ、国土規制関連の法執行機関がある。財務省系は、かつてシークレット・サービスやATFも擁していたが、国土保安省創設に伴う省庁再編により移管されていき、現在は脱税捜査に当たる国税庁犯罪捜査部が主要な法執行機関として残されている。
 その他系は、先の議会警察や最高裁判所警察、歴史の古い郵政監察局など管轄が特化された部分警察機関である。
 さらに、諜報機関体系の諸機関は独立機関のCIAを除くと、NSAをはじめ国防総省系が大半を占めるが、一部に国土保安省、国務省、司法省、財務省、エネルギー省を上部機関とするものも含まれる。

 このようにアメリカの連邦警察は多数の諸機関の集合体として存在しているわけだが、警察機関を多岐に分散するのは、むしろ「自由の国」アメリカならではの高度な政治的知恵と評価することもできるかもしれない。
 たしかに、アメリカにおける連邦警察集合体をすべて単一の“合衆国警察庁”のような統合組織に一元化するという試みが現実になされるとは考えにくいし、そのような強大な包括警察機関は民主的でもないだろう。
 だからといって、このような警察集合体を理想のモデルと称賛することも適切とは思えない。これだけ多数の警察機関が林立し、権限関係の重複も整理されないまま、常時ばらばらに警察活動が実行されている状態は、決して市民的自由にとって好条件とは言えないだろう。それどころか、まさしく抑圧的な「影の警察国家」の象徴ともみなし得る。
 そこで、次節以降では、この連邦警察集合体を形成する主要機関の活動内容や実際の活動事例に立ち入って、アメリカ型警察国家の実態を分析してみることにしたい。


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