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近代革命の社会力学(連載第224回)

2021-04-19 | 〆近代革命の社会力学

三十二 エジプト共和革命

(4)革命政権の展開~スエズ危機まで
 1952年の無血革命に成功した自由将校団は、引き続いて最高機関となる革命指令評議会(以下、評議会)を設置した。この評議会は、自由将校団長ナギーブを議長とし、ナーセル率いる自由将校団のメンバーが主体となった事実上の軍事政権であった。
 評議会の設置から1956年のスエズ危機(第二次中東戦争)勃発までの期間が革命移行期に相当する。この間には様々なめまぐるしい動きがあったが、まずは政体の問題である。
 これについては、前回も触れたように、ファルーク前国王の処遇をめぐる自由将校団内部の意見対立が、ナギーブ及びナーセルの主張に沿って、国王一家亡命で処理され、共和制樹立の流れが確定した。
 とはいえ、当初は上述したような革命的軍事政権の形態であり、それを中和するべく、戦前からのベテラン政治家、アリ・マヒ―ル・パシャを首相とする文民内閣を組織した。しかし、心情的に親英派であった彼は間もなくナーセルらと不和となり辞任、ナギーブが代わって首相に就いた。
 そして、53年には戦間期立憲革命の産物でもあった1923年憲法を廃棄し、立憲革命を担ったワフド党を含むすべての既存政党を強制解散したうえで、正式に共和制移行を宣言、初代大統領(兼首相)にナギーブが就いた。
 この新体制は自由将校団主体の軍事政権の衣替えといった観が強いものであったが、新たな政党として解放大会議が結成された。政権の実質的な最高実力者であるナーセルが率いるこの新党は翼賛団体としての性格が強いもので、言わば自由将校団の衣替えであった。
 政策的な面で、革命政権最初の課題は農地改革であった。革命から二か月後の52年9月には農地改革法が発布され、従前の大土地所有制にメスが入れられた。具体的には、土地所有に上限面積を設定したうえ、農民への再配分が実施された。このような軍主導での非常手段による大規模な農地改革は、ほぼ同時期の占領下日本における農地改革とも通じるものがある。
 新体制のイデオロギーの軸は世俗主義と社会主義にあったが、社会主義に関しては、比較的穏健な社会主義であり、共産主義は否定されていた。そのため、革命直後、ナイルデルタの都市カフル・エッ・ダワールで共産主義者が主導した労働者の暴動は力で弾圧された。
 革命政権初期の展開の中で、より権力闘争の争点となったのが世俗主義であった。ここでは、戦間期に結成されたイスラーム主義の社会団体ムスリム同胞団(以下、同胞団)との衝突が焦点となる。
 同胞団は立憲革命後もなお形ばかりの「独立」によりイギリスの支配が続く中、西欧文明からの解放とイスラームの復興を掲げて旗揚げされた社会改革団体であったが、1952年革命の時点では、エジプトにおける最大級の急進的な政治社会団体に成長し、当初は革命を支持・協力した経緯がある。
 しかし、自由将校団政権の世俗主義とはすぐにぶつかり、53年以降、翌年にかけて、同胞団が扇動する大衆運動が盛り上がり、しばしば暴動・騒乱に発展した。これに対して、革命政権は同胞団を非合法化したうえ、幹部らを投獄・処刑とする弾圧策で応じた。
 その過程で、ナギーブとナーセルの対立関係も顕在化してくる。ナギーブはイスラーム主義者ではなかったが、軍事政権型の体制の存続に否定的であり、早期の民政確立を構想していたことから、それに否定的なナーセルとの確執が表面化してきた。
 その結果、ナギーブがムスリム同胞団と結託し、独裁権力の掌握を狙っているとするプロパガンダ宣伝が行われ、首相職を解任された末、54年に同胞団によるナーセル暗殺計画が発覚したことを奇貨として、ナギーブが同胞団と共謀していたとする裏付けを欠く口実の下、同年11月には大統領を解任され、以後自宅軟禁状態に置かれた。
 これはナギーブ追放を狙った政権内部のクーデターに等しい動きであったが、これを受けて、ナーセルが第二代の大統領に就任し、名実ともに新体制の最高指導者の座に就いた。
 こうして、満を持して自らが政権の前面に立つと、ナーセルは大統領権力を強化し、産業の国有化など農地改革に続く社会主義的な政策を鋭意推進していくが、彼の最大のターゲットは、革命後も独占受託企業のスエズ運河会社を通じて実質的に英仏によって管理されていたスエズ運河であった。
 そこで、ナーセル政権は、手始めにイギリスとの間で英軍の撤退を約する協定を締結した。しかし、ナーセルの狙いは、エジプト経済の自立的な発展の土台とするべく、スエズ運河を国有化することにあった。この野心的な政策は英仏の忍耐を超え、戦争への動因となる。


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