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近代革命の社会力学(連載第432回)

2022-05-26 | 〆近代革命の社会力学

六十二 ユーラシア横断民衆諸革命

(1)概観
 2000年代に入って最初の革命事象は、セルビア(2000年)に始まり、グルジア(現ジョージア:2003年)、ウクライナ(未遂革命:2004年)、キルギス(2005年)と、東欧からコーカサス、中央アジアに至るユーラシア大陸の広い領域で群発した民衆革命である。
 未遂を含むこれら四つの革命は必ずしも連続的ではなく、むしろ散発的と言える事象であるが、起点となったセルビアの革命が後の三つの革命に波及的な影響を及ぼし、セルビア革命で主導的な役割を果たした青年運動組織が後発の革命を「指南」したというつながりもあるため、一定の連関性は認められる。そのため、ユーラシア横断革命と呼ぶことができる。
 これらの革命のうち、起点となったセルビアは旧ユーゴスラヴィア連邦、残りの三国は旧ソヴィエト連邦という、冷戦時代に対立的ながら共に相似形の構制を持っていた社会主義連邦共和国に属した旧連邦構成国に由来するという共通性もある。
 これら諸国では、社会主義連邦体制が内戦(ユーゴ)または革命(ソ連)によって解体された後の空隙を利用し、旧体制下で育成された権威主義的な人物が改めて権力を掌握し、独裁的な体制を再編していたところへ、民主化を求める民衆が蜂起し、革命に至ったものである。
 また、いずれの革命も選挙における政権による不正操作疑惑を契機とする抗議運動から民衆蜂起へと至っている点で、一定の民主化が進展する中、体制が選挙制度を有利に操作する形で権力維持を図らんとする時代趨勢を反映しているとも言える。
 この四革命に2005年のレバノンにおける民衆革命を含めて、しばしば「色の革命」としてくくられることもある。これは、それらの革命のいくつかで民衆がオレンジや赤などのシンボルカラーを使用したことにちなんでいる。
 しかし、すべての革命でそうしたシンボルカラーが使用されたわけではなく、またここでの「色」はイデオロギーの色とは異なり、ある意味では祝祭的なシンボルにすぎない。むしろ、これらの革命は脱イデオロギー化された民衆の蜂起によって長期支配体制が崩壊した民衆政変に近い革命であり、その点で20世紀末から今世紀にかけての新たな革命潮流を特徴づけるものであった。
 ちなみに、「色の革命」にしばしば包含される2005年レバノン革命は体制そのものよりも、駐留軍を通じてレバノン内政に干渉し、事実上属国化していた隣国シリアに対する自立革命という特殊な性格を持っていることから、本章のユーラシア横断諸革命とは別途、論じることにする。


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