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NATOの第二次冷戦開始宣言

2022-06-30 | 時評

・・・・中国がロシアと結び、NATOを通じた米欧と対峙し、米欧対中露という対立構図が現れると、本格的な第二の冷戦となりかねない。

2013年の拙連載『世界歴史鳥瞰』中の記事において、冷戦終結後の世界が同盟主超大国の消滅により、枢軸を失い流極化していく状況を踏まえつつ、このように記したことがあった。

29日のNATO首脳宣言(以下、宣言)がロシアを最大脅威と断じて主敵に定め、さらに副次的に中国を国際秩序への挑戦者と指弾したのは、まさに如上の「第二の冷戦」―第二次冷戦―の開始宣言と言ってよいものであった。ただし、拙稿では、如上箇所に先立って、次のようにも指摘していた。

ロシアは一時的ないし個別的にアメリカと関係悪化に陥ることはあっても、もはやアメリカとの間に根本的な対立を抱えていないのに対し、米中間では南北朝鮮や中台関係のほか、中国の軍備増強やアジア太平洋地域での領土拡張策などをめぐって根本的な対立の芽があり、中国の軍事力のいっそうの伸長いかんでは、かつての米ソ対立と類似の状況が生じる恐れはある。

この点、今般の宣言では、ロシアが主敵と断じられており、筆者が読み違えたようにも見える。しかし、ロシアが主敵とみなされたのは、言うまでもなく当面のウクライナ侵略戦争を念頭においてのことであるのに対し、副次的に言及された中国はまさにNATOが体現する西側国際秩序への挑戦者と名指されたことで、むしろこの宣言の重心は対中国の冷戦布告にあると読むことも可能である。

そうした意味において、今般の宣言は単なるロシア非難声明のようなものとは質が異なり、まさに中国を新たな東側盟主とみなしての冷戦開始宣言の性質を潜在的に持つものである。こうして開始される第二次冷戦はしかし、第一次冷戦の単純な焼き直しとはならないだろう。

第一に、ここにはもはや資本主義vs共産主義の体制イデオロギー対立は存在していない。現ロシアは共産党支配国家ではないし、中国も共産党支配下で「社会主義市場経済」≒共産党が指導する資本主義の道を行っているからである。―自由主義vs全体主義の対立軸は設定できそうに見えるが、西側の「自由」もテロ対策・コロナ対策等々の名の下に損なわれており、相対的な差にすぎない。

第二に、東西が経済的にも分断され、独自の国際分業と相互援助でまかなっていた東側社会主義陣営が国際市場に参入していなかった第一次冷戦当時とは異なり、第一次冷戦終結後の30余年でグローバル化された資本主義のネットワークが第二次冷戦による分断により損なわれるなら、資本主義総体にとって打撃となる。―すでに生じているグローバルな燃料価格高騰、食糧危機はその最初の兆候である。

第三に、第一次冷戦当時の米国とソヴィエトのような圧倒的な盟主国家が存在しておらず、「流極化」状況は変わらないことである。米国も欧州連合の成立以降、西側盟主の地位を失っている一方、中国も経済大国ではあるが、自身を盟主とする同盟体を擁していない。―ただし、既存の「上海協力機構」が今後、軍事同盟として確立された場合には、旧ワルシャワ条約機構に近い同盟体となる可能性はある。

如上の第二点目は特に重要な相違であり、第二次冷戦はNATO首脳らが奉じる資本主義を瓦解に追い込むリスクを負うことになる。それを知らずして第二次冷戦にのめり込むのは、まさに自ら墓穴を掘るようなものである。


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