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近代科学の政治経済史(連載第11回)

2022-07-02 | 〆近代科学の政治経済史

三 産業学術としての近代科学(続き)

発明資本家階級の誕生
 18世紀産業革命の原動力となる実用科学の分野は、多くは職人階級に属した発明家の出現に支えられていた。中でも、英国における輩出が際立っていたことが、同国を産業革命の発祥地としたのであった。
 それらの人士を逐一挙げていれば限界がないほどであるが、産業革命全体の端緒ともなった綿織物工業分野では、飛び杼(フライング・シャトル)を発明したジョン・ケイ、ジェニー紡績機を発明したジェームズ・ハーグリーブス、水力紡績機を発明したリチャード・アークライト(ただし、疑義あり)、ミュール紡績機を発明したサミュエル・クロンプトン、蒸気機関を利用した力織機を発明したエドモンド・カートライトなどがいる。
 また、最初の大容量動力源として広汎な応用性を示した蒸気機関の改良で名を残すジェームズ・ワットも、後の蒸気船や蒸気機関車といった最初の人為的な動力交通手段の開発につながる貢献をしている。
 さらに、産業革命を促進したもう一つの分野である製鉄関連でも、コークス製鉄法を開発したエイブラハム・ダービー(及びその子孫)、攪拌精錬法(パドル法)を開発したヘンリー・コートを挙げることができる。
 これらの発明家たちは、エドモンド・カートライトのように旧家の出でオックスフォード大卒(ただし、当初は牧師)というエリート出自の例外はあったが、ほとんどが職人階級出自であり、高等教育を受けた科学者ではなかった。
 しかし、実地で学んだ工学的知識に基づいて各種の発明をし、かつ自身が特許権を法的手段としつつ、起業するという形で資本家ともなった。18世紀の発明家の多くが、こうして言わば発明資本家階級という新しい社会階層を形成した。
  かれらは王立学会の威光とは無縁の者たちばかりであったが、まだ未発達だった不安定な特許権に支えられつつ、発明収入で一財産築き、ブルジョワ階級に上昇する資本主義的起業家の元祖ともなった。
 その点、自らコンピューターソフトやアプリケーションを開発しつつ、それをもとに起業する現代の情報資本家にも通ずるところがあり、かれらは18世紀発明資本家の現代的バージョンと言えるかもしれない。


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