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比較:影の警察国家(連載第23回)

2020-11-22 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

4:部分社会警察の二面性

 これまでに見てきたアメリカにおける連邦―州―自治体の三層の公的権力にまたがる警察集合体に加えて、特殊アメリカ的な制度として、大学、学校区、博物館、企業体などの自律性を保障された部分社会ごとに設置された部分社会警察と呼ぶべき特殊警察機関がある。
 こうした部分社会警察は、連邦や州の公的権力の介入を許さず、各部分社会が独自に警察業務まで自己完結的に担うことにより、その自律性を確保しようとしている点では、アメリカ的な自由主義の表れと見ることもできる一方、極細分化された警察機関の林立により、警察国家化を促進する要因ともなるという二面性を備えている。
 そうした部分社会警察の中でも最も典型的なものは、大学警察である。大学警察は大学キャンパス及びその周辺域のみを管轄する警察であり、その管轄内に限っては、通常の警察と同等の権限を持つまさしく警察組織である。アメリカでは私立大学を含む大半の大学が大学警察を擁し、大学警察の大半は武装している。
 例えば、ハーバード大学警察部(Harvard University Police Department:HUPD)は80人以上の警察官を擁し、同大学構内の警備から講内犯罪の捜査までを一貫して担い、大学警察官は逮捕などの法執行の権限も保持している。
 一方、アメリカの学校区は各州内にあって、それ自体が独立した自治体に準じて扱われるため、独自の警察組織を備えていることがある。例えば、ロサンゼルス学校警察局(Los Angeles School Police Department)は、500人以上の要員を擁し、各学校区の学校敷地内やその周辺での警察活動を行う。
 博物館警察としては、スミソニアン協会が運営する博物館等の警備を担当する警備警察として、スミソニアン協会警護局(Smithsonian Institution Office of Protection Services)がある。
 ただし、スミソニアン協会系の博物館等自体は、連邦政府が保有・運営主体となっているため、警備局も連邦系の警察機関と見ることもできるが、協会の運営は自律的であるので、これも部分社会警察の一種とみなし得る。
 企業体警察としては、鉄道企業や港湾企業などの公共交通系企業体が運営する固有の警察組織が代表的なものである。
 例えば、全米最大級の長距離旅客鉄道網を運営する通称アムトラック(National Railroad Passenger Corporation:Amtrak)には、同社固有の鉄道警察として、アムトラック警察部(Amtrak Police Department)が設置されている。
 アムトラックは連邦政府系の公営企業だが、全米最大の貨物鉄道会社ユニオン・パシフィック鉄道のような完全な私鉄にさえ、固有の鉄道警察として、ユニオン・パシフィック警察部(Union Pacific Police Department)が設置されている。
 港湾警察としては、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社警察部(Port Authority of New York and New Jersey Police Department)がある。同警察はその名称にもかかわらず、港湾以外にも、ニューヨーク周辺の空港からハドソン川架橋・トンネル、都市間鉄道に至る広汎な公社の管轄域・施設に係る警察活動全般を担う警察である。
 興味深いところでは、アメリカ動物虐待防止協会(American Society for the Prevention of Cruelty to Animals:ASPCA)に、2013年まで愛護法執行部(Humane Law Enforcement Division)があり、動物虐待事案専門の警察(言わば、動物警察)として機能していたが、現在は廃止され、協会本部のあるニューヨークで市警と連携して動物虐待事案の捜査を支援するプログラムに再編された。
 これは部分社会警察から自治体警察に権限が移管された一例であるが、部分社会警察は一般的に小規模で、要員の経験や練度にも限界があるため、現代では一般警察と連携せざるを得ないことが多い。そのため、部分社会の自律性を文字通りに貫徹できるわけではなく、むしろアメリカ型多重警察国家の補完的役割が大きいと言える。


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