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南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第12回)

2021-04-24 | 南アフリカ憲法照覧

権利の制限

第36条

1 権利章典上の諸権利は、以下のすべての関連要素を考慮に入れつつ、人間の尊厳、平等及び自由に基づく透明かつ民主的な社会において合理的かつ正当な限度で、一般法の定めによってのみ制限される。

(a) 当該権利の性質

(b) 当該制限の目的の重要性

(c) 当該制限の性質及び程度

(d) 当該制限とその目的との関係

(e) 当該目的を達成するためのより制限的でない代替手段

2 法は、第1項またはこの憲法の他の条項で定められた場合を除き、権利章典において確立されたいかなる権利も制限しない。

 本条は、憲法上の諸権利を法により制限する場合の基準を明示している。その基準の軸は、第一項e号に示されているless restrictive alternative(より制限的でない代替手段)である。このように、南ア憲法は厳格な基準によってのみ基本権の制限を容認することで、人権保障を確保している。

非常事態

第37条

1 非常事態は、国会の法律によってのみ、かつ以下の場合にのみ宣言される。

(a) 国家の存立が戦争、侵略、暴動、無秩序、自然災害その他の公共的非常事態によって脅かされている場合、かつ

(b) 非常事態の宣言が平和と秩序を回復するために必要な場合

2 非常事態宣言及びそれに引き続くいかなる制定法またはその他の措置も、以下の限りで効力を有する。

(a) 将来に向かって、かつ

(b) 国民議会が宣言の延長を決定しない限り、宣言の日から21日以内。議会は、一度につき三か月を越えて非常事態宣言を延長することはできない。初度の延長は、議会の過半数の賛成で採択された決議によらなければならない。それ以上の延長は、議会の60パーセント以上の賛成で採択された決議によらなければならない。本号の決議は、議会における公開討論に引き続いてのみ採択される。

3 権限あるすべての裁判所は、次の事項の有効性について決定することができる。

(a) 非常事態宣言

(b) 非常事態宣言の延長全般、または

(c) 非常事態に引き続く制定法またはその他の措置全般

4 非常事態に引き続くいかなる制定法も、以下の限りにおいてのみ権利章典に違反することができる。

(a) 当該違反が当該非常事態によって厳格に必要とされていること。

(b) 当該法律が―

 (ⅰ) 非常事態に適用される国際法の下における共和国の義務に合致していること。

 (ⅱ) 第5項に従うこと。

 (ⅲ) 制定後合理的に可能な限りすみやかに官報で公表されること。

5 非常事態を授権する国会の法律及び宣言に引き続くいかなる制定法その他の措置も、以下のことを許可し、または容認してはならない。

(a) 不法な行為に関して、国家または何らかの個人を保護すること。

(b) 本条に違反すること、または

(c) 次の侵害不能な権利の表の第1段で言及された条項に、表の第3段に反対表示された限度まで違反すること。

侵害不能な権利の表
※ 編集の都合上、原典の表は略し、その内容のみを以下に記す。

第9条 平等

 人種、肌の色、または民族的もしくは社会的出自、性別、宗教もしくは言語のみを理由とする不公正な差別に関して

第10条 人間の尊厳

 全面的に

第11条 生命

 全面的に

第12条 人身の自由及び安全

 第1項(d)及び(e)並びに第2項(c)

第13条 奴隷、隷属及び強制労働

 奴隷及び隷属に関して

第28条 子ども

 第1項(d)及び(e)
 第1項(g)の(一)及び(二)の諸権利
 第1項(i)における15歳以下の少年に関して

第35条 逮捕、抑留、起訴された人

 第1項(a)、(b)及び(c)並びに第二項(d)
 第3項のうち、(d)を除く(a)乃至(o)までの諸権利
 第4項
 第5項のうち、審理を不公正にする恐れのある証拠の排除に関して

6 非常事態宣言に由来する権利の侵害の結果として、裁判なしに拘束されたいかなる人も、以下の条件が遵守されなければならない。

(a) 被拘束者の成人の家族または友人に対して合理的に可能な限りすみやかに連絡され、該当者が拘束されたことを告げられなければならない。

(b) 該当者の氏名及び拘束場所を明らかにし、かつ該当者が拘束されている根拠となる非常措置に言及した告示が、該当者が拘束されてから5日以内に官報で公表されなければならない。

(c) 被拘束者は、医師を選任し、適切な時にいつでも訪問を受けることが許されなければならない。

(d) 被拘束者は、法的代理人を選任し、適切な時にいつでも訪問を受けることが許されなければならない。

(e) 裁判所は、該当者が拘束されてから合理的に可能な限りすみやかに、しかし一〇以内に拘束について審査し、平和と秩序を回復するために拘束を続けることが必要でないときは、非拘束者を釈放しなければならない。

(f) e号に基づく審査によって釈放されない被拘束者または本条項に基づく審査によって釈放されない被拘束者は、前の審査から10日を経過した時はいつでも裁判所に再審査を求めることができる。裁判所は平和と秩序を回復するために拘束を続けることがなお必要でない限り、被拘束者を釈放しなければならない。

(g) 被拘束者は拘束について審理するいかなる裁判所にも自ら出席し、その審問で弁護士に代理され、かつ拘束の継続に反対する弁論をすることが許されなければならない。

(h) 国は拘束の継続を正当化する理由書を提出しなければならず、かつ裁判所が拘束について審査する少なくとも2日前に当該理由書の写しを被拘束者に交付しなければならない。

7 裁判所が被拘束者を釈放したときは、まず国が当該人物を再度拘束するための正当な理由を裁判所に示さない限り、当該人物は同一の理由で再度拘束されない。

8 第6項及び第7項は、南アフリカ市民でない者及び国際的武力紛争の結果拘束された者には、適用しない。ただし、国はそうした人物の拘束に関する国際人道法の下で共和国に課せられる基準に従わなければならない。

 本条は、非常事態に関する条項である。非常事態の要件、手続き等について極めて詳細に定められている。
 特に第5項では非常事態下にあっても、人間の尊厳、生命をはじめ、絶対に侵害されてはならない諸権利が別表で事細かに規定されている。さらに非常事態そのものをはじめ、非常事態下での身柄拘束の当否に至るまで、裁判所の司法審査が予定されている。
 このような規定は非常事態下にあっても国家の権限を抑制することで、立憲主義を貫徹しようとするものと言える。ここには、白人政権時代、反アパルトヘイト闘争弾圧のため、非常事態令が乱用され、その下で著しい人権侵害が生じていたことへの反省が横たわっている。
 この点、日本でも非常事態条項の新設を改憲の突破口にしようとする動きが見られるが、そこでは非常事態下での人権制約に専ら関心が向けられているように見える。しかし真に立憲的な非常事態条項とは、本条のように、非常事態下における国家の権力を制限することに力点を置くものであるということをわきまえる上で、本条は大いに参照に値する。


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