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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(32)

2015-08-15 | 〆リベラリストとの対話

30:本源的福祉社会について③

リベラリスト:ご推奨の本源的福祉社会に関して一つ懸念されるのは、福祉サービスがすべて無償ということで、果たして質を担保できるかどうかです。これは特に医療サービスに関しては、かなり深刻な問題になると思われるのですが。

コミュニスト:つまり、タダだと質の悪い医療しか提供されないのではないかというご懸念ですね。では、逆に有償であることが質の担保になっているでしょうか。もしそういう法則が成り立つとするなら、医療は全額自己負担制としたときに最も高い質が確保できることになるでしょうが、そうなのですか。

リベラリスト:我々アメリカ人はそう考える傾向にあります。アメリカでは医療費を公的に補助する公的医療保険制度への反対・懐疑が少なくないのも、一つにはそのためなのです。

コミュニスト:あらゆるものは有償の商品として売買されることで質が担保されるというまさしくアメリカ的な商品神話ですね。しかし現実には、貧困者はそもそも医療へアクセスすることが難しいという途上国的状況に陥る一方で、質は二の次の営利主義が横行しているのではないでしょうか。

リベラリスト:私個人は公的医療保険制度に基本的に賛成の立場です。自己負担をゼロとすべきではなく、一定額は個人負担の有償とすることで、質と平等の両立が可能になるという考えです。

コミュニスト:社会保険制度の教科書的には、それが正論でしょう。しかし日本では特にそうなのですが、実際のところ、社会保険サービスと営利サービスとが雑居することによって、営利主義の部分が隠蔽されている観もあります。

リベラリスト:英国の公的医療制度のように税財源を使って実質無償化する方式では、やはり質の担保が難しいという実証もあります。本源的福祉社会だとして全面無償化されれば、そうした問題はいっそう深刻化するでしょう。

コミュニスト:私の考えでは、医療の質は医療者の資質によって人的にコントロールすべき問題で、有償・無償という物的な側面とは無関係です。共産主義社会では無償でも医療に従事したいという志の高い人が医療者となるので、質の人的担保は高度に保証されるでしょう。

リベラリスト:その点は解決するとしても、医師の計画配置や診療予約原則など、サービスの量的コントロールも容易ではなさそうです。

コミュニスト:本来、医療には計画経済が適しており、市場経済によって適切にコントロールすることこそ困難であることは、公的医療保険制度がありながら民間病院中心かつ医師の計画配置なしの日本で医療サービスの地域格差が著しいことにも示されています。

リベラリスト:私自身は、公私のサービスを別建てにして、民営医療は市場経済に委ね、公営医療ではある程度計画経済的な手法を導入するという混合主義を支持します。

コミュニスト:混合医療とは、つまり階級医療のことですね。富裕層は民営医療、一般大衆は公営医療という階級的住み分けが生じるでしょう。英国でそうなっているように。

リベラリスト:私の予測では、本源的福祉社会ではそもそも病院が激減し、最寄の病院は隣の隣の市の病院というような始末になりかねないと思うのですが。

コミュニスト:医師の計画配置=病院の計画設置ですから、そういう事態はあり得ません。むしろ、そのような病院過疎現象は市場経済の下で倒産する病院が続出することによって起こり得るでしょう。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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