ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

晩期資本論(連載第74回)

2015-11-09 | 〆晩期資本論

十六 資本主義的階級の形成(1)

 『資本論』第三巻の最終篇は全巻の総括を兼ねた補遺に相当し、一部未完に終わっている未整理部分から成るが、全体の趣旨としては、資本主義における資本家‐労働者‐地主の三大階級の形成要因に関わっている。

労賃、利潤、地代をそれぞれの収入源泉とする単なる労働力の所有者、資本の所有者、土地所有者、つまり賃金労働者、資本家、土地所有者は、資本主義的生産様式を基礎とする近代社会の三大階級をなしている。

 ただし、この三大階級編制はあくまでもモデル的な規定であり、「争う余地なく、近代社会がその経済的編制において最も著しく最も典型的に発展している」英国ですら、「中間階級や過渡的階層が・・・・・・到る所で限界設定を紛らわしくしている」。現実の階級編制は複雑多岐にわたるわけである。

・・・まず答えられなければならないのは、なにが階級を形成するのか?という問いである。そして、その答えは、なにが賃金労働者、資本家、土地所有者を三つの大きな社会階級にするのか?とう別の問いに答えることによって、おのずから明らかになるのである。

 ここでのマルクスの問題提起は、経済学的というより、社会学的である。すなわち三大階級の形成要因を解明しようというのである。

一見したところでは、それは収入が同じだということであり、収入源泉が同じだということである。三つの大きな社会的な群があって、その構成分子、それを形成している個々人は、それぞれ、労賃、利潤、地代によって、つまり彼らの労働力、彼らの資本、彼らの土地所有の経済的実現によって、生活しているのである。

 ここで、マルクスは階級の形成要因を収入源泉によって分類する立場を示している。そこで、第三巻最終の第七篇も「諸収入とそれらの源泉」と題されている。このような収入源泉による階級分類は、今日の社会調査でも利用されているところである。

とはいえ、この立場から見れば、たとえば医者や役人も二つの階級を形成することになるであろう。なぜならば、彼らは二つの違った群に属しており、二つの群のそれぞれの成員の収入はそれぞれ同じ源泉から流れ出ているからである。同じことは、社会的分業によって労働者も資本家も土地所有者もそれぞれさらにいろいろな利害関係や地位に無限に細分されるということ―たとえば土地所有者ならばぶどう畑所有者や耕地所有者や森林所有者や鉱山所有者や漁場所有者に細分されるということ―についても言えるであろう。

 収入源泉別の社会階級分類による限り、ここで指摘されているとおり、その分類は無限細分化され、三大階級論は失効する。この後、細分化された「階級表」のようなものを展開する意図がマルクスにあったかどうかは、マルクスの草稿が途切れているため、想像するほかないが、経済原論の性格が強い『資本論』の分析においては、細部は捨象し、三大階級論モデルを基本とすることになるだろう。

・・・生産手段をますます労働から切り離し、分散している生産手段をますます大きな集団に集積し、こうして労働を賃労働に転化させ生産手段を資本に転化させるということは、資本主義的生産様式の不断の傾向であり発展法則である。そして、この傾向には、他方で、資本と労働からの土地所有の独立的分離が対応している。言い換えれば、資本主義的生産様式に対応する土地所有形態へのすべての土地所有の転化が対応している。

 これこそ、『資本論』全巻を通じての基本命題であった。三大階級編制もこの発展法則の展開過程で形成される。


コメント    この記事についてブログを書く
« 海の非領有化 | トップ | 晩期資本論(連載第75回) »

コメントを投稿