ザ・コミュニスト

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アメリカン・ファシズム?

2017-08-27 | 時評

筆者は、昨年、トランプの大統領当選直後の拙稿「アメリカン・ファシズムへ?」で次のように書いた。

一般得票数で下回った候補を勝たせてしまうアメリカの古式な間接選挙制度は、・・・・・危うい道を用意してしまったようだ。とはいえ、労働者階級の反動化がファシズムの底流になるという歴史法則どおりの結果ではある。しかし、現時点ではタイトルに?印を入れておくのは、トランプ次期政権がアメリカン・ファシズムの性格をはっきりさせるかどうかはまだ確定しないからである。

現在、トランプ政権は発足からすでに半年を過ぎているが、この間の政権の軌跡を見る限り、政策・政治手法の両面でそのファッショ的性格は濃厚である。特に大統領令の乱発、大統領自身のネット発信による情報操作、支持者を動員した喝采集会といった手法はファシスト特有のものである。大統領の巧妙に煽動的なネット発信に刺激され、白人至上主義やネオナチなどの極右勢力が蠕動し始めてもいる。

そのため、「アメリカン・ファシズムへ?」のクエスチョンマークは外してもよさそうであるが、しかし、政策面では政権に行き詰まりも見える。その要因は、トランプ当選前にものした連載「戦後ファシズム史」最終節の末尾で指摘した「アメリカにおける「自由主義」の牽制力」ということに集約されるだろう。

「アメリカにおける「自由主義」の牽制力」の内実をもう少し分節すれば、一つはアメリカ憲法である。憲法上、アメリカ大統領は法案提出権を持たないから、大統領は自身の政策の立法化に当たっては、議会に要請するしかない。そこで、トランプは議会を迂回できる大統領令を乱発してきたが、それにも限界がある。

そのこととも関連して、トランプ政権が独自の政党を持たず、「偉大なる古き党」(GOP)の異名を持つ伝統的な共和党の枠組みに収まっていることがある。そのため、議会で多数派を握る共和党との協調が避けられないところ、トランプ政権に懐疑的な議会共和党執行部との確執が見られることも政権の足かせとなっている。

しかし、本質的に日和見な議会以上に強力な「「自由主義」の牽制力」は、政権発足後もいまだ続き、今月のヴァージニア州シャーロッツヴィルでの白人至上主義テロ事件後はさらに高まっている反トランプ抗議活動に象徴される民衆の抵抗である。これも、元をただせば憲法上保障された言論の自由に基づく草の根の牽制力である。

この草の根牽制力はことのほか強く、実際、メディアが強調するほど社会の「分断」は進行していないように見える。トランプ政権は人事面でもイデオロギー上の助言者を放出するなど軌道修正を余儀なくされる方向にある。従って、「アメリカン・ファシズム?」のクエスチョンマークを外すのはまだ早計のようである。 

行き詰まりの根本的打開のためには、過去の多くのファシスト政権がしたように憲法改定に走るか、議会共和党に妥協して「共和党右派政権」に収斂されるか、半年を過ぎた政権は岐路に立っている。前者なら「アメリカン・ファシズム?」からクエスチョンマークが消え、後者なら「アメリカン・ファシズム」のタイトル自体が消える。

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