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人類史概略(連載第6回)

2013-09-03 | 〆人類史之概略

第3章 農耕革命と共同社会

農耕の始まり
 農耕(及びそれと密接に関わる牧畜)の始まりはおよそ1万年前とされる。それは現生人類史20万年の中では、比較的「近年」のことにすぎない。それほど長きにわたって、現生人類は狩猟採集生活を続けていたわけだが、ここには現生人類の意外に保守的な生活様式の一端が窺える。
 最初に農耕が始まったのは西アジアと見られている(稲作に関しては、中国の長江流域が西アジアと同程度もしくはそれ以上に古いとする説もある)。
 西アジアは「出アフリカ」した人類がいち早く定住したアフリカ外の代表的な地域であったし、ここには栽培に適した食用植物や家畜化しやすいヤギやヒツジのような中型動物が豊富に存在したことも幸いし、その地で人類は初めて栽培と飼育という習慣を身につけたのだろう。
 このことの意義は画期的であった。まず用具生産という点から見ても、農具という新しいジャンルの用具を発明するきっかけを成した。また従来生産行為と言えば用具の生産に限られていたのが、新たに食料の生産という重要な生産行為が加わったのである。
 このことは、人類が自然の食物連鎖サイクルの中に組み込まれていた状態を脱し、自然に働きかけ、自然に手を加えることで自らの生活を維持・発展させる可能性を確保し得たことを意味している。人類はこの時から、単なる自然の一部ではなくなり、自然からはみ出し始めたのだとも言える。
 こうした最初の生産経済革命とも呼ばれる農耕は、西アジアを出発点に周辺に伝播するだけでなく、順次連続的にアフリカ、南アジア、中国、中南米などでも開始されていった。
 この事実をいわゆる単一起源説、多源説のいずれで説明するかという枝葉の論議はさておき、おおむね前10000年から前5000年頃にかけて、各地に拡散・定着した人類は農耕を開始することが可能な段階に達し、地球の気候条件もそれを許したのである。
 同時に、農耕という画期的な生活様式の開始は、従来の狩猟採集という伝統的な生活様式が気候条件にも規定されつつ、おそらくは人口増と乱獲によって限界に達し始めていたことをも示唆する。
 ここで用具生産に関して特筆すべきは、農耕の開始にほぼ前後して新たに土器が発明され、普及したことである。土器は石器や骨角器に比べより高度な加工技術を要する用具であって、土器の発明は人類がより複雑な用具生産の道へ進んだことを意味している。
 土器は食物の調理や貯蔵にも適しているから、土器の発明は農耕の開始にとってはタイムリーであって、それは新時代の到来にふさわしい用具革命の新たな段階であったと言える。

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