goo blog サービス終了のお知らせ 

ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第21回)

2021-08-19 | 南アフリカ憲法照覧

 全州評議会

全州評議会の構成

第60

1 全州評議会は、各州ごとに10人の代議員から成る単一の代議員団で構成される。

2 10人の代議員は、以下のとおりである。

(a)次の者から成る4人の特別代議員

 (ⅰ) 州首相または州首相に支障があるときは一般的か、もしくは全州評議会における何らかの特定任務のいずれかのために州首相によって指名された州議会の任意の代議員

 (ⅱ) その他3人の特別代議員

(b)第61条第2項の規定によって任命される6人の常任代議員

3 州首相または州首相に支障があるときは州首相に指名された代議員が、代議員団長となる。

 本条から第72条までは、国民議会とともに二院制の対を成す全州評議会の構成や権限等に関する細目が規定されている。本条に示されるように、全州評議会は各州の代議員団で構成される州の代表機関としての性格を持つ。連邦国家ならではの構成である。
 全州評議会代議員は基本的に州議会による複選制であるが、特別代議員と常任代議員の二種類があり、任命方法も異なり、複雑である。

代議員の配分

第61条

1 州議会に議席を有する政党は、附則第3条B部に示された方式に従い、州の代議員団に代議員を出す権利を有する。

2 
(a)州議会は、その選挙結果が公布された後30日以内に‐

 (ⅰ) 国の法律に従い、各政党の代議員のうち常任議員となる者の数及び特別代議員となる者の数を決定しなければならず、かつ

 (ⅱ) 政党の指名に従い、常任代議員を任命しなければならない。

(b)削除

[b号は2008年第14次憲法修正法第1条により削除]

[第2項は2002年第9次憲法修正法第1条及び2008年第14次憲法修正法第1条により改正]

3 第2項a号で想定される国の法律は、少数政党が民主主義にかなった仕方で常任及び特別代議員双方を出すことを保障しなければならない。

4 州議会は、州首相及び全州評議会に特別代議員を出す権利を有する政党の党首の合意をもって、州議会議員の中から、必要な時に応じて特別代議員を任命しなければならない。

 本条は、全州評議会議席の配分に関して、州議会における議席数に応じた配分の方式を定める。少数政党への配慮条項がここにも見られるのは、南ア憲法の特徴である。

常任代議員

第62条

1 常任代議員の候補者は、州議会議員の被選挙権者でなければならない。

2 州議会議員が常任代議員に任命されたときは、州議会議員ではなくなる。

3 常任代議員は、次の時に満了する任期をもって任命される。

(a)次期選挙後、州評議会の最初の会期の直前

(b)削除

[b号は2008年第14次憲法修正法第2条により削除]

[第3項は2002年第9次憲法修正法第2条及び2008年第14次憲法修正法第2条により改正]

4 以下の各場合に、常任代議員は議席を失う。

(a)常任代議員への任命以外の何らかの理由で州議会議員の被選挙権を失った場合。

(b)閣僚となった場合。

(c)州議会の信任を失い、当該議員を公認した政党から召還された場合。

(d)当該議員を公認した政党の党員でなくなり、その政党から召還された場合。または

(e)州議会の規則及び命令が常任代議員の議席喪失を規定する状況で、許可なく全州評議会を欠席した場合。

5 常任代議員の欠員は、国の法律の定めるところにより補充されなければならない。

6 常任代議員は、全州評議会でその職務を開始する前に、附則第2条に従い、共和国への忠誠及び憲法への服従を宣誓し、または誓約しなければならない。

 本条は全州評議会の中核的なメンバーとなる常任代議員の資格や議席喪失について、細目を定めている。政党ベースであるため、所属政党による召還が議席喪失に直結する。また当然とはいえ、法令が認めない無断欠席は議席喪失事由となる。ただし、国民議会議員とは異なり、全州評議会代議員の場合は州の法令の定めによる。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第20回)

2021-08-08 | 南アフリカ憲法照覧

国民議会の権限

第55条

1 立法権を行使するに当たり、国民議会は‐

(a)議会に上程されたいかなる法律をも審議し、可決し、修正し、または否決することができる。

(b)立法を開始し、または準備することができる。ただし、財政法案についてはこの限りでない。

2 国民議会は、以下のような目的を持つ仕組みを定めなければならない。

(a)国の領域のあらゆる行政機関が議会に責任を負うよう保証すること。

(b)次のものへの監督を維持すること。

 (ⅰ) 法律の適用を含む国の行政権の行使

 (ⅱ) あらゆる国家機関

 本条から第59条までは国民議会の権限や議員特権等に関する細則である。本条では、立法と監督という国民議会の二大権限の内容が簡潔にまとめられている。なお、財政法案に限っては、財政担当閣僚が発議する例外がある(第77条)。

国民議会に提出される証拠または情報

第56条

国民議会またはそのいかなる委員会も‐

(a)宣誓もしくは誓約に基づき証言し、または文書を提出するため、あらゆる人を召喚することができる。

(b)あらゆる個人または組織に対して議会への報告を求めることができる。

(c)国の法律もしくは規則及び命令の定めるところにより、あらゆる個人もしくは組織に対して、a号もしくはb号に定める召喚または要求に応じるよう強制することができる。

(d)利害関係を持つあらゆる個人もしくは組織から請願、説明または上申を受けることができる。

 本条は日本の国政調査権に相当する国民議会の権限を定めている。前条の権限、とりわけ監督権を行使するための補助的な権限である。

国民議会の内部的協議、議事及び手続き

第57条

1 国民議会は‐

(a)内部的な協議、議事及び手続きを決定し、統制することができる。

(b)代議的かつ参加的民主主義、説明責任、透明性及び公衆関与に適正な配慮をしつつ、その任務に関する規則及び命令を作成することできる。

2 国民議会の規則及び命令は以下のことを定めなければならない。

(a)委員会の設立、構成、権限、機能、手続き及び存続期間

(b)議会の少数政党が議会及び委員会の議事に民主主義にかなった方法でする参加

(c)議会に議席を持つ各党及びその党首が議会でその役割を有効に果たせるようにするための議席割合に応じた財政的及び事務的支援

(d)議会における最大野党党首の野党首班としての認知

 本条は国民議会の内部的諸事項を定める規則の内容を列挙している。いわゆる自律権の規定である。注目されるのは、大衆参加や少数政党の参加に関しても配慮が要求されていることである。これは現状、旧反アパルトヘイト運動体の与党アフリカ民族会議(ANC)の圧倒的な優位が揺らがない中で、一党独裁化を避けるためには鍵となる規定であろう。なお、最大野党党首を野党首班(the Leader of the Opposition)として公式に遇するのは、英国議会制度からの影響と思われる。

特権

第58条

1 閣僚、副大臣及び国民議会議員は‐

(a)議会及び委員会において、その規則及び命令に従い、言論の自由を有する。

(b)次のことを理由に、民事もしくは刑事の起訴、逮捕、投獄または損害賠償の責任を負わない。

 (ⅰ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し 
     た事柄

 (ⅱ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し
     た事柄の結果として明らかにされた事柄

[第1項は2001年法律第34号第4条により修正]

2 その他の国民議会、閣僚及び議員の特権並びに免責事項は、国の法律によって定めることができる。

3 国民議会議員に支払われる報酬、手当及び給付は、国庫基金の直接負担である。

 本条は、国民議会議員や議会に出席する閣僚、副大臣らの特権に関する規定である。南アは大統領制のため、閣僚や副大臣は議員ではないが、議会に出席する限りで議員に準じた特権を有する。第1項b号ⅱで、言論の免責範囲が結果的な判明事項まで及ぶのは手厚い保障である。

国民議会への公衆のアクセス及び関与

【第59条】

1 国民議会は‐

(a)議会と委員会の立法及びその他の手続きへの公衆の関与を促進しなければならない。

(b)その任務を開かれた方法で行い、かつ議会及び委員会の議事を公開しなければならない。ただし、次の目的のために合理的な措置を取ることができる。

 (ⅰ) メディアの取材を含む公衆の議会及び委員会へのアクセスを規制するこ
     と。

 (ⅱ) 特定の人を捜索し、及び適切な場合は特定の人の入場を禁止し、または強  
     制退場させること。

2 国民議会は、開かれた民主社会において合理性及び正当性が認められない限り、メディアを含む公衆を委員会の議事から排除しない。

 本条は議会への公衆関与に関する先進的な規定である。議会は、要件がやや不明確ながら(特にメディアの取材等を規制するb号のⅰ)、一定の規制権限を保持しながらも、立法やその他の議会手続きへの公衆関与を義務付けられている。特に第2項で委員会議事も原則的に公開されるのは徹底している。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第19回)

2021-08-08 | 南アフリカ憲法照覧

会期及び休会

第51条

1 選挙の後、国民議会の最初の会期は、選挙結果が公表されてから14日を越えない範囲で首席裁判官によって決定された期日及び時間に開かれなければならない。国民議会は、他の会期及び休会の時期及び期間を定めることができる。

[第1項は2001年法律第34号第1条により修正]

2 大統領は、特別の任務を行なうため、いつでも国民議会の臨時会を召集することができる。

3 国民議会は、公益、治安及び便宜を理由としてのみ、かつ議会の規則及び命令で定められている限り、議会の所在地以外の場所で開くことが許される。

議長及び副議長

【第52条】

1 選挙後の最初の会期で、または必要に応じて空席を補充するため、国民議会はその議員の中から各1名の議長及び副議長を選挙しなければならない。

2 首席裁判官は議長の選挙を主宰し、または他の裁判官にそれを指示しなければならない。議長は副議長の選挙を主宰する。

[第2項は2001年法律第34号第2条により修正]

3 附則第3条A部に掲げられた手続きは、議長及び副議長の選挙に適用される。

4 国民議会は、決議により議長及び副議長を解任することができる。その決議が採択されるには、総議員の過半数の出席を要する。

5 その規則及び命令の定めるところにより、国民議会はその議員の中から議長及び副議長を補佐する他の役員を選挙することができる。

議決

【第53条】

1 この憲法が別に定めている場合を除き‐

(a)法案または修正法案に投票される際には、国民議会の議員の過半数が出席しなければならない。

(b)議会におけるその他の議案に投票される際には、少なくとも議員の3分の1が出席しなければならない。

(c)議会におけるすべての議案は、多数決による。

2 議会の会議を主宰している国民議会議員は、投票権を持たない。ただし‐

(a)議案に対する可否が同数の場合は、決裁票を投じなければならない。

(b)議案が議員の3分の2以上の賛成票によって議決されなければならない場合は、投票しなければならない。

国民議会における一定の閣僚及び副大臣の権利

【第五四条】

大統領及び国民議会議員でないいかなる閣僚または副大臣も、議会の規則及び命令に従い、国民議会に出席し、発言することができる。ただし、投票することはできない。

[本条は2001年法律第34号第3条により修正]

 第51条から第54条までは、国民議会の会期や議長以下の役員の選挙、議決方法や大統領・閣僚の出席権等の細目が簡潔に定められている。選挙後最初の会期の決定や議長選挙の主宰を憲法裁判所長官でもある首席裁判官に委ねる点が特色である。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第18回)

2021-07-04 | 南アフリカ憲法照覧

国民議会の期間

第49条

1 国民議会は、5年の任期で選挙される。

2 国民議会が第50条の規定により解散され、またはその任期が満了したときは、大統領は布告により、議会の解散もしくはその任期満了の日から90日以内の選挙日程の設定を求めなければならない。選挙日程の設定を求める布告は、国民議会の任期満了の前または後に発せられる。

[第2項は1999年法律第2号第1条で改正]

3 国民議会の選挙結果が第190条の規定で設けられた期間内に宣言されないとき、または選挙が裁判所によって差し止められた場合は、大統領は布告により、その期間の満了もしくは選挙が差し止められた日から90日以内の別の選挙日程の設定を求めなければならない。

4 国民議会は、それが解散され、またはその任期が満了した時から次期議会の最初の投票日の前日まで活動する。

国民議会の任意満了前の解散

第50条

1 大統領は以下の場合に国民議会を解散しなければならない。

  (a)  議会が多数決により解散の決議を採択し、かつ

  (b)  議会が選挙されて3年を経過した場合。

2 大統領代行は、以下の場合に国民議会を解散しなければならない。

  (a)  大統領が欠け、かつ

  (b)  大統領が欠けてから30日以内に議会が新たな大統領を選挙しない場合。

 第49条と第50条は、国民議会の活動期間に関する規定である。議員の任期は5年と下院としては長い部類であるが、議会は3年を経過すると自主的に解散を決議できるなど、議会の活動は自律性が高い。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第17回)

2021-06-20 | 南アフリカ憲法照覧

 国民議会

構成及び選挙

第46条

1 国民議会は、以下のような選挙制度に従って選ばれた350人を下らず、400人を越えない男女によって構成される。

(a)国の法律によって明記されていること。

(b)全国共通の選挙人登録に基づくこと。

(c)選挙年齢を18歳以上とすること。

(d)おおむね比例代表の結果となること。

[第1項は2003年第10次憲法修正法第1条及び2009年第15次憲法修正法第1条により改正]

2 国会の法律は、国民議会議員の定数を決定するための方式を定めなければならない。

 第46条から第59条までは、議会の中核を成す国民議会(下院/衆議院に相当)の制度概要が規定されている。おおむね比例代表制とすることが明記されている。定数は上限と下限を憲法上明記して、議会の立法裁量を制約している。全国共通の選挙人登録に基づくことを特に明記しているのは、アパルトヘイト時代、有色人種の参政権が排除または制限されていたことを転換し、全人種参加選挙制度を樹立するためでと考えられる。

議員の資格

第47条

1 国民議会の選挙権を有するすべての市民は、以下の場合を除き、国民議会議員の被選挙権を有する。

(a)次の者を除き、国によって任命され、または国の公務に就いており、かつその任命または公務により報酬を受け取っている者

 (ⅰ)  大統領、副大統領、大臣及び副大臣

 (ⅱ)  その職務が国民議会議員の職務と両立し、かつ国の法律により両立すると宣言されているその他の公務員

(b)全州評議会の常任代議員または州議会の議員もしくは市評議会の議員

(c)更生していない破産者

(d)共和国の裁判所によって精神障碍を宣告された者、または

(e)本条項の発効後、共和国内で、または共和国外の場合は共和国においても罪となる犯罪行為を犯し、罰金刑を選択できない1年以上の拘禁刑に処せられた者。ただし、有罪判決または量刑に対する上訴審判決が確定するか、上訴期間が満了するまでは、何人も刑を受けたものとはみなされない。この号の下での欠格は、刑期の満了から5年後に終了する。

2 第1項a号またはb号の規定により国民議会議員の被選挙権を持たない人は、国の法律によって定められた何らかの制限または条件に従う限り、候補者となることができる。

3 国民議会議員は、以下の場合にその資格を失う。

(a)被選挙権を失った場合。

(b)議会の規則及び命令が資格喪失を規定する状況で、許可なく議会を欠席した場合。または

(c)議員候補者に指名された政党の党員ではなくなった場合。

[第3項は2003年第10次憲法修正法第2条及び2009年第15次憲法修正法第2条により改正]

4 国民議会の欠員は、国の法律の規定によって補充されなければならない。

 本条は国民議会議員の資格について詳細に定めている。原則として公務員との兼職は禁じられるが、正副大統領や閣僚が除外されるのは、これらの行政職は国民議会議員から選出または任命されるからである。比例代表制を基本とするため、指名を受けた政党の党員でなくなれば、自動的に議員資格を失う。無許可での欠席が資格喪失事由とされているのは、当然とはいえ議員の議会出席を確保する趣旨である。

宣誓及び誓約

第48条

国民議会議員は、議会でその職務を開始する前に、附則第2条に従い、共和国への忠誠及び憲法への服従を宣誓し、または誓約しなければならない。

 国民議会議員は国家及び憲法への忠誠服従を宣誓または確約することが義務付けられている。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第16回)

2021-06-13 | 南アフリカ憲法照覧

国の立法権

第44

1 国会に帰属する国の立法権は―

(a) 国民議会に以下の権限を授与する。

 (ⅰ)  憲法を改正すること。

 (ⅱ)  附則第4条に掲げられた権限領域内の問題を含むあらゆる問題(ただし、第2項に従い、附則第五条に掲げられた権限領域内の問題は除く。)に関連する法案を通過させること。

   (ⅲ)   憲法改正を除くあらゆる立法権限を他の統治領域のあらゆる立法機関に委任すること。

(b) 全州評議会に以下の権限を授与する。

 (ⅰ)  第74条に従い、憲法改正に参加すること。

 (ⅱ)  第76条に従い、附則第4条に掲げられた権限領域内のあらゆる問題及び第76条に従い通過させることを要求される他のあらゆる問題に関連する法案を通過させること。

 (ⅲ)  第75条に従い、国民議会を通過した他のあらゆる法案を審議すること。

2 国会は、以下のことが必要なときは、第76条第1項に従い、附則第5条に掲げられた権限領域内に当てはまる問題に関連する法案を通過させることにより、介入することができる。

(a) 国家の安全を維持すること。

(b) 経済的統合を維持すること。

(c) 基本的な全国基準を維持すること。

(d) サービスの提供に必要とされる最低基準を定めること、または

(e) 他の州もしくは国全体の利益に害を及ぼす州の不合理な行動を抑止すること。

3 附則第4条に掲げられたあらゆる問題に関連する権限の実効的な行使にとって合理的に必要であるか、付随しがちな問題に関連する法案は、あらゆる点において、附則第4条に掲げられた問題に関連する法案である。

4 立法権を行使するときは、国会はこの憲法にのみ拘束され、この憲法に従い、かつその限界内で行動しなければならない。

 本条は、国の立法権の内容を総則的に示したものである。本条で言及されている附則第4条とは、国と州が競合的に管轄する領域を掲げたリストであり、附則第5条とは州が独占的に管轄する領域を掲げたリストである。連邦国家ではこうした国(連邦)と州の権限関係を憲法上明確に定めておく必要がある。国会が立法権を有するのは、基本的には競合領域内の事項に関してであるが、第2項では一定の国家的重要性のあるときは、州の独占領域内の問題に関しても立法権を行使できることとされる。

合同規則及び命令並びに合同委員会

第45条

1 国民議会及び全州評議会は、以下のことを規定する規則及び命令を含む両院の合同任務に関連する規則及び命令を制定する合同規則委員会を設置しなければならない。

(a) 立法過程のあらゆる段階を完了する時間制限の設定をはじめ、立法過程を円滑にするための手続きを決定すること。

(b) そうした委員会に付託された第74条及び第75条で想定される議案について審議し、かつ報告するための両院代表者から成る合同委員会を設置すること。

(c) 少なくとも毎年憲法を審査するための合同委員会を設置すること。

(d) 以下の委員会の任務を規制すること。

 (ⅰ)  合同規則委員会

 (ⅱ)  両院調整委員会

 (ⅲ)  憲法審査委員会

 (ⅳ)  b号に基づいて設置されるあらゆる合同委員会

2 閣僚、国民議会議員及び全州評議会議員は、両院合同委員会の前において、両院の前に有するのと同様の特権及び免責事項を有する。

 本条は、両院で構成する合同委員会とその権限について定める規定である。二院制を採りつつ、合同の活動を重視する趣旨である。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第15回)

2021-06-13 | 南アフリカ憲法照覧

第四章 国会

 第四章は、国会に関する章である。第42条から第82条まで41か条に及ぶ長大な章であり、国会は統治機構中で重要な位置づけを持つ。実際、国家元首たる大統領の選出も行なう国会の権限は強く、議会中心主義が樹立されている。

国会の構成

第42条

1 国会は、次の二院から成る。

(a) 国民議会

(b) 全州評議会

2 国民議会及び全州評議会は、この憲法に定められた方法で立法過程に参加する。

3 国民議会は、人民を代表し、この憲法の下で人民による統治を確保するべく選出される。国民議会は、そのことを大統領の選出、諸問題を公開で検討するための国民審議会の設置、法案の議決及び行政行為の監査並びに監督によって行なう。

4 全州評議会は、国家領域の統治において州の利益の考慮が確保されるべく州を代表する。全州評議会は、そのことを主として国家の立法過程への参加及び州に影響を及ぼす諸問題を公開で検討するための国民審議会の設置によって行なう。

5 大統領は、特別の任務を行なうため、いつでも国会の臨時会を召集することができる。

6 国会の所在地はケープタウンである。ただし、第76条第1項及び第5項に従って制定される国会の法律は国会の所在地を他の場所に定めることができる。

 南ア国会は国民議会と全州評議会の二院制を採用する。州の利益を国政に反映させる必要のある連邦制国家にはよく見られる二元的構制である。南アは三権所在地を三箇所に分散する複都制を採用し、国会の所在地は西部沿岸のケープタウンであるが、州に影響を及ぼす法案に関する特別な手続きを踏めば、遷都も可能となる。

共和国の立法権

第43条

共和国において、立法権は以下のとおりである。

(a) 国家領域における統治の立法権は、第44条に定めるとおり、国会に属する。

(b) 州領域における統治の立法権は、第104条に定めるとおり、州議会に属する。

(c) 地方領域における統治の立法権は、第156条に定めるとおり、市評議会に属する。

 本条は、立法権の所在に関する権限分配条項である。国‐州‐地方の三層の統治構造に応じ、国会・全州評議会・市評議会がそれぞれ立法権を分有する。機関名称はともかく、これも連邦国家では標準構制と言える。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第14回)

2021-05-30 | 南アフリカ憲法照覧

第三章 協同的統治

 本章から第13章までは、統治機構に関する規定の体系となるが、その筆頭たる本章では、統治における全体構造が示されている。表題の「協同的統治」がそのキーワードとなる。南アは連邦制に分類される統治構造を採るが、国‐州‐地方の三層は分別されつつも、協同的に機能するとされる点で、分権性より統一性に重心を置く統合的な連邦制を志向していると言える。

共和国の統治

第40条

1 この共和国において、政府は相互に分別され、相互に依存的かつ相互に連関的な国、州、地方の領域として構成される。

2 政府の全領域は、この章の諸原則を遵守し、かつ固守しなければならず、この章が定める範囲内でその活動を遂行しなければならない。

協同的統治及び相互統治関係の諸原則

第41条

1 政府の全領域及び各領域内の全機関は―

(a) 平和、国民統合及び共和国の統一を保持しなければならない。

(b) 共和国人民の福祉を保障しなければならない。

(c) 共和国全般のために、効率性、透明性、責任性及び一貫性のある統治を提供しなければならない。

(d) この憲法、共和国及びその人民に忠実でなければならない。

(e) 他の領域における統治の憲法的地位、組織、権力及び機能を尊重しなければならない。

(f) この憲法の規定により与えられた以外のいかなる権力または機能も行使してはならない。

(g) 他の領域における統治の地政学的、機能的または組織的な統合性を侵害しない方法で、自身の権力を行使し、その機能を果たさなければならない。

(h) 以下の要領で相互の信頼と誠実さをもって互いに協調しなければならない。

 (ⅰ) 友好的な関係を醸成すること。

 (ⅱ) 互いを援助し、支援すること。

 (ⅲ) 共通の利益に関わる問題に関して互いに情報交換し、協議すること。

 (ⅳ) 統治行為と立法行為を互いに調整すること。

 (ⅴ) 合意された手続きを厳守すること。

 (ⅵ) 互いに対する法的措置を回避すること。

2 国会の法律は―

(a) 相互統治関係を推進し、助長するための枠組み及び組織を樹立し、または規定しなければならない。

(b) 統治機関相互の紛争の解決を助長するための適切なメカニズム及び手続きを規定しなければならない。

3 統治機関相互の紛争の当事機関は、その目的で規定されたメカニズム及び手続きによってその紛争を解決するためにあらゆる努力をしなければならず、それを決着させるために裁判所に提訴する前に他のすべての解決策を尽くさなければならない。

4 裁判所は、第3項の要求が満たされていないと認めるときは、紛争を当事機関に差し戻すことができる。

 第40条で規定された「協同的統治」の一般原則に基づき、第41条でその具体化がなされている。そこでは、国‐州‐地方の三層の相互尊重と協力が強く求められており、とりわけ第3項と第4項で法的紛争の防止に注意が向けられている。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第13回)

2021-05-16 | 南アフリカ憲法照覧

権利の実現

第38条

本項に掲げられたいかなる人も、権限ある裁判所に提訴し、権利章典における権利が侵害され、または脅かされていることを申し立てる権利を有する。裁判所は権利の宣言を含む適切な救済を与えることができる。裁判所に提訴できる人は、以下のとおりである。

(a) 自分自身の利益のために行為する者

(b) 自分自身の名義で行為できない他人のために行為する者

(c) ある集団もしくは階級の一員として、またはその利益のために行為する者

(d) 公益のために行為する者

(e) その構成員の利益のために行為する団体

 本条は、人権訴訟を起こす権利と、そうした訴訟を起こす適格者について規定する。人権を絵に描いた餅に帰さないため、提訴権を憲法上保障するとともに、訴訟適格を広く定めている。特に、集団や階級のためにする代表訴訟や公益訴訟、団体訴訟の形態も認めるのは先進的と言える。

権利章典の解釈

第39条

1 権利章典を解釈するに際して、裁判所、審判所または審査会は―

(a) 人間の尊厳、平等及び自由に基づく開かれた民主的な社会の礎となる諸価値を推進しなければならない。

(b) 国際法を考慮しなければならない。

(c) 外国法を考慮することができる。

2 いかなる法律を解釈するに際しても、またコモン・ローまたは慣習法を発展させるに際しても、すべての裁判所、審判所または審査会は、権利章典の精神、趣旨及び目的を推進しなければならない。

3 権利章典は、これに合致する限り、コモン・ローもしくは慣習法によって認められ、もしくは与えられたいかなる権利または自由の存在をも否定しない。

 第二章権利章典の最終条の本条は、権利章典の解釈に当たっての一般的な基準を定めている。いずれも基本的な内容であるが、第1項で裁判所その他の評定機関に国際法の考慮を義務付け、外国法の考慮をも容認するのは、狭量な国内法優先主義を排する先進的な規定である。なお、第3項でコモン・ローや慣習法を尊重するのは、かつて植民地支配を受けた英国の系譜を引くコモン・ロー主義の伝統を守るものだろう。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第12回)

2021-04-24 | 南アフリカ憲法照覧

権利の制限

第36条

1 権利章典上の諸権利は、以下のすべての関連要素を考慮に入れつつ、人間の尊厳、平等及び自由に基づく透明かつ民主的な社会において合理的かつ正当な限度で、一般法の定めによってのみ制限される。

(a) 当該権利の性質

(b) 当該制限の目的の重要性

(c) 当該制限の性質及び程度

(d) 当該制限とその目的との関係

(e) 当該目的を達成するためのより制限的でない代替手段

2 法は、第1項またはこの憲法の他の条項で定められた場合を除き、権利章典において確立されたいかなる権利も制限しない。

 本条は、憲法上の諸権利を法により制限する場合の基準を明示している。その基準の軸は、第一項e号に示されているless restrictive alternative(より制限的でない代替手段)である。このように、南ア憲法は厳格な基準によってのみ基本権の制限を容認することで、人権保障を確保している。

非常事態

第37条

1 非常事態は、国会の法律によってのみ、かつ以下の場合にのみ宣言される。

(a) 国家の存立が戦争、侵略、暴動、無秩序、自然災害その他の公共的非常事態によって脅かされている場合、かつ

(b) 非常事態の宣言が平和と秩序を回復するために必要な場合

2 非常事態宣言及びそれに引き続くいかなる制定法またはその他の措置も、以下の限りで効力を有する。

(a) 将来に向かって、かつ

(b) 国民議会が宣言の延長を決定しない限り、宣言の日から21日以内。議会は、一度につき三か月を越えて非常事態宣言を延長することはできない。初度の延長は、議会の過半数の賛成で採択された決議によらなければならない。それ以上の延長は、議会の60パーセント以上の賛成で採択された決議によらなければならない。本号の決議は、議会における公開討論に引き続いてのみ採択される。

3 権限あるすべての裁判所は、次の事項の有効性について決定することができる。

(a) 非常事態宣言

(b) 非常事態宣言の延長全般、または

(c) 非常事態に引き続く制定法またはその他の措置全般

4 非常事態に引き続くいかなる制定法も、以下の限りにおいてのみ権利章典に違反することができる。

(a) 当該違反が当該非常事態によって厳格に必要とされていること。

(b) 当該法律が―

 (ⅰ) 非常事態に適用される国際法の下における共和国の義務に合致していること。

 (ⅱ) 第5項に従うこと。

 (ⅲ) 制定後合理的に可能な限りすみやかに官報で公表されること。

5 非常事態を授権する国会の法律及び宣言に引き続くいかなる制定法その他の措置も、以下のことを許可し、または容認してはならない。

(a) 不法な行為に関して、国家または何らかの個人を保護すること。

(b) 本条に違反すること、または

(c) 次の侵害不能な権利の表の第1段で言及された条項に、表の第3段に反対表示された限度まで違反すること。

侵害不能な権利の表
※ 編集の都合上、原典の表は略し、その内容のみを以下に記す。

第9条 平等

 人種、肌の色、または民族的もしくは社会的出自、性別、宗教もしくは言語のみを理由とする不公正な差別に関して

第10条 人間の尊厳

 全面的に

第11条 生命

 全面的に

第12条 人身の自由及び安全

 第1項(d)及び(e)並びに第2項(c)

第13条 奴隷、隷属及び強制労働

 奴隷及び隷属に関して

第28条 子ども

 第1項(d)及び(e)
 第1項(g)の(一)及び(二)の諸権利
 第1項(i)における15歳以下の少年に関して

第35条 逮捕、抑留、起訴された人

 第1項(a)、(b)及び(c)並びに第二項(d)
 第3項のうち、(d)を除く(a)乃至(o)までの諸権利
 第4項
 第5項のうち、審理を不公正にする恐れのある証拠の排除に関して

6 非常事態宣言に由来する権利の侵害の結果として、裁判なしに拘束されたいかなる人も、以下の条件が遵守されなければならない。

(a) 被拘束者の成人の家族または友人に対して合理的に可能な限りすみやかに連絡され、該当者が拘束されたことを告げられなければならない。

(b) 該当者の氏名及び拘束場所を明らかにし、かつ該当者が拘束されている根拠となる非常措置に言及した告示が、該当者が拘束されてから5日以内に官報で公表されなければならない。

(c) 被拘束者は、医師を選任し、適切な時にいつでも訪問を受けることが許されなければならない。

(d) 被拘束者は、法的代理人を選任し、適切な時にいつでも訪問を受けることが許されなければならない。

(e) 裁判所は、該当者が拘束されてから合理的に可能な限りすみやかに、しかし一〇以内に拘束について審査し、平和と秩序を回復するために拘束を続けることが必要でないときは、非拘束者を釈放しなければならない。

(f) e号に基づく審査によって釈放されない被拘束者または本条項に基づく審査によって釈放されない被拘束者は、前の審査から10日を経過した時はいつでも裁判所に再審査を求めることができる。裁判所は平和と秩序を回復するために拘束を続けることがなお必要でない限り、被拘束者を釈放しなければならない。

(g) 被拘束者は拘束について審理するいかなる裁判所にも自ら出席し、その審問で弁護士に代理され、かつ拘束の継続に反対する弁論をすることが許されなければならない。

(h) 国は拘束の継続を正当化する理由書を提出しなければならず、かつ裁判所が拘束について審査する少なくとも2日前に当該理由書の写しを被拘束者に交付しなければならない。

7 裁判所が被拘束者を釈放したときは、まず国が当該人物を再度拘束するための正当な理由を裁判所に示さない限り、当該人物は同一の理由で再度拘束されない。

8 第6項及び第7項は、南アフリカ市民でない者及び国際的武力紛争の結果拘束された者には、適用しない。ただし、国はそうした人物の拘束に関する国際人道法の下で共和国に課せられる基準に従わなければならない。

 本条は、非常事態に関する条項である。非常事態の要件、手続き等について極めて詳細に定められている。
 特に第5項では非常事態下にあっても、人間の尊厳、生命をはじめ、絶対に侵害されてはならない諸権利が別表で事細かに規定されている。さらに非常事態そのものをはじめ、非常事態下での身柄拘束の当否に至るまで、裁判所の司法審査が予定されている。
 このような規定は非常事態下にあっても国家の権限を抑制することで、立憲主義を貫徹しようとするものと言える。ここには、白人政権時代、反アパルトヘイト闘争弾圧のため、非常事態令が乱用され、その下で著しい人権侵害が生じていたことへの反省が横たわっている。
 この点、日本でも非常事態条項の新設を改憲の突破口にしようとする動きが見られるが、そこでは非常事態下での人権制約に専ら関心が向けられているように見える。しかし真に立憲的な非常事態条項とは、本条のように、非常事態下における国家の権力を制限することに力点を置くものであるということをわきまえる上で、本条は大いに参照に値する。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第11回)

2021-04-18 | 南アフリカ憲法照覧

逮捕・抑留・訴追された人

第35条

1 犯罪の疑いで逮捕されたすべての人は、次の権利を有する。

(a) 黙秘すること。

(b) 直ちに次のことについて告知されること。

 (ⅰ) 黙秘する権利について。

 (ⅱ) 黙秘しないことの結果について。

(c) 不利な証拠として使用され得るいかなる自白または自認も強制されないこと。

(d) 可能な限り直ちに、しかし以下の時間内に、裁判所に引致されること。

 (ⅰ) 逮捕から48時間後、または―

 (ⅱ) 48時間が通常の開廷時間外に満了するか、または通常の開廷日でない日に満了する場合は、48時間の満了後、最初の開廷日の終了時

(e) 逮捕された後、最初の出廷時において、告発され、もしくは抑留を継続する理由を告知され、または釈放されること。

(f) 正当な理由が認められれば、適正な条件に従い、釈放されること。

2 全受刑者を含む抑留されたすべての人は、次の権利を有する。

(a) 抑留された理由を直ちに告知されること。

(b) 弁護人を選任し、相談すること、及びこの権利を直ちに告知されること。

(c) 実質的な不正義が生ずる場合は、抑留された人に国の費用で国選弁護人が付けられること、及びこの権利を直ちに告知されること。

(d) 抑留の合法性について裁判所で直接に争い、もし抑留が違法であれば、釈放されること。

(e) 少なくとも運動を含む人間の尊厳に合致した抑留の条件及び国の費用による適切な収容環境、栄養、読書、医療を得られること。

(f) 以下の人と通信し、またはその訪問を受けること。

 (ⅰ) 配偶者または伴侶

 (ⅱ) 近親者

 (ⅲ) 選任された教誨師

 (ⅳ) 選任された医師

3 訴追されたすべての人は、次の権利を含む公正な裁判を受ける権利を有する。

(a) 答弁するために起訴事実の充分な詳細を告知されること。

(b) 弁護の準備をするのに適切な時間及び手段を持つこと。

(c) 通常裁判所の面前で公開裁判を受けること。

(d) 不合理な遅延なしに裁判を開始させ、終結させること。

(e) 審理の際、在廷すること。

(f) 弁護人を選任し、代理されること、及びこの権利を直ちに告知されること。

(g) 実質的な不正義が生ずる場合は、抑留された人に国の費用で国選弁護人が付けられること、及びこの権利を直ちに告知されること。

(h) 公判中は、無罪を推定され、黙秘し、証言しないこと。

(i) 証拠を提示し、または争うこと。

(j) 自己に不利な証拠の提供を強制されないこと。

(k) 被告人が理解できる言語で審理を受け、またはそれが実際的でない場合は、手続きを翻訳させること。

(l) 当時の国内法もしくは国際法の下では犯罪でなかった作為または不作為を理由に有罪判決を受けないこと。

(m) 当該被告人が以前に無罪もしくは有罪の判決を受けた作為または不作為に関わる犯罪で裁かれないこと。

(n) 当該犯罪の法定刑が犯行時と判決時の間に変更された場合は、その軽いものによること。

(o) 上級裁判所に上訴し、またはその審査を受けること。

4 本条が個人への情報提供を要求する場合は必ず、その情報は当該個人が理解できる言語で与えられなければならない。

5 権利章典中の何らかの権利を侵害する方法で得られた証拠を容認すると、裁判を不公正なものにし、または司法の運営に害をもたらすおそれがある場合は、その証拠は排除されなければならない。

 本条は、現代的憲法では定番となっているデュー・プロセス条項である。内容的には、相当詳細に定められており、デュー・プロセスの現代的な水準が過不足なく網羅されている。特に、刑が確定した受刑者についても、抑留された人全般の権利として、国選弁護を含む弁護人選任権が保障されているのは先進的である。
 また、多言語主義がデュー・プロセス条項にも反映され、公判審理のみならず、すべての情報提供に際して該当者が理解できる言語によるべきことが憲法上保障されていることも特徴的である。
 このように南ア憲法がデュー・プロセスの保障に手厚いのは、旧アパルトヘイト時代、特に反アパルトヘイト運動関係者に対するデュー・プロセス無視の苛烈な弾圧が加えられたことへの反省に基づくものであろう。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第10回)

2021-04-04 | 南アフリカ憲法照覧

情報へのアクセス

第32条

1 何人も、以下の情報を得る権利を有する。

(a) 国が保有するあらゆる情報

(b) あらゆる権利の行使または保護に必要とされる他人が保有するあらゆる情報

2 この権利を実効化するため、国の法律が制定されなければならず、その法律は国の行政的及び財政的な負担を軽減するための合理的な手段を提供するものとする。

 本条から第34条までは、個人の法益のために、公権力の何らかの行動を要求する受益権の規定であるが、筆頭は情報公開請求権である。簡単な規定であるが、国に対しては全面的に、私人に対しても一定範囲の情報開示を請求できる包括的な規定である。

公正な行政行為

第33条

1 何人も、合法的で、合理的かつ手続き的に公正な行政行為を求める権利を有する。

2 行政行為によってその権利に不利な影響を受けるすべての人は、書面で理由を示される権利を有する。

3 これらの権利を実効化するため、国の法律が制定されなければならず、その法律は次のようなものでなければならない。

(a) 裁判所、または必要に応じて独立かつ公平な審判所による行政行為の審査を提供すること。

(b) 第1項及び第2項の権利を実効化する義務を国に課すこと。

(c) 効率的な行政を推進すること。

 本条は公正な行政行為を求める権利の規定である。第2項によれば、不利な行政行為を受ける場合は書面による理由の開示を要求することができる。これは、前条の情報開示請求権の補充規定でもある。第3項a号の行政行為に関する司法審査は、次条の裁判を受ける権利の先取り的な特則となっている。

裁判を受ける権利

第34条

何人も、あらゆる紛争について、裁判所、または必要に応じてその他の独立かつ公平な審判所もしくは審査会における公開の聴聞で決定される法の適用によって解決される権利を有する。

 公開裁判を受ける権利の規定であるが、狭義の裁判所に限らず、必要に応じて独立かつ公平な準裁判機関による審査を受ける権利も含まれている。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第9回)

2021-03-21 | 南アフリカ憲法照覧

教育

第29条

1 何人も、次の権利を有する。

(a) 成人基礎教育を含む基礎教育を受けること。

(b) 継続教育を受けること。国は、合理的な手段を通じて、それを漸次利用可能かつアクセス可能なものとしなければならない。

2 何人も、適度に実用的な教育が行なわれる公的教育機関において、公用語または自身が選択する言語で教育を受ける権利を有する。この権利への実効的なアクセス及びその実施を確保するため、国は次の点を考慮に入れつつ、単独の中学校を含むあらゆる合理的な代替教育について検討しなければならない。

(a) 公平性

(b) 実用性

(c) 過去の人種差別的な法及び慣習の結果を是正する必要性

3 何人も、自身の費用で、以下のような私立の教育機関を設立し、維持する権利を有する。

(a) 人種に基づく差別をしないこと。

(b) 国に登録されること。

(c) 同等の公的教育機関の水準に劣らない水準を維持すること。

4 第3項の規定は、私立学校への国の補助金を排除するものではない。

 子どもの権利に続いて、教育を受ける権利の保障に厚いことも、南ア憲法の特色である。これもアフリカの社会発展上の課題が教育にあることを反映している。特に、アパルトヘイト時代、黒人の教育を受ける権利が制度的に侵害されていたことへの反省が規定にも込められている。もっとも、本条の内容は先進国にもほぼ妥当するもので、ことに第1項b号で継続教育を受ける権利を保障していることは先進的である。

言語及び文化

第30条

何人も、言語を使用し、自身の選択による文化生活に参加する権利を有する。ただし、この権利を行使する者は、この権利章典のいずれかの条項に矛盾する方法では行使しないものとする。

 多言語・多文化主義は第一章の創立条項でも明記された南ア憲法の柱の一つであり、国が政策的に推進することが責務とされているが、本条はそれを個人の権利の観点から改めて示したものと言える。ただし、権利章典すなわち憲法第二章の条項と矛盾する権利行使は認められない。具体的には、人種差別的・排他的な形態での権利行使が想定されているであろう。

文化的、宗教的及び言語的共同体

第31条

1 一つの文化的、宗教的または言語的共同体に属する者は、当該共同体の他の構成員とともに、次の権利を否定されない。

(a) その文化を享受し、その宗教を実践し、その言語を使用すること。

(b) 文化的、宗教的及び言語的団体及びその他の市民社会を形成し、参加し、維持すること。

2 第1項の権利は、この権利章典のいずれかの条項と矛盾する方法では行使されないものとする。

 前条に続く本条は、多言語・多文化主義の集団的な保障条項である。権利行使に当たっては、同様の条件が付せられている。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第8回)

2021-03-07 | 南アフリカ憲法照覧

住宅

第26条

1 何人も、適切な住宅を得る権利を有する。

2 国は、この権利の実現を推進するため、利用可能な財源の範囲内で、合理的な立法及びその他の手段を講じなければならない。

3 何人も、あらゆる関連状況を考慮した裁判所の命令なくしては、その住居から退去させられ、またはその住居を解体されることはない。立法は、恣意的な強制退去を許容することはない。

 本条から第31条までは社会権に関する規定である。その筆頭に住居に関する権利が来ているのは、人間的な生存を支える第一の物質的基盤が住居であることからして的確な体系である。
 住居の恣意的な剥奪を厳格に禁ずる第3項は住居権の自由権的側面を示すが、これはアパルトヘイト時代、黒人の住居権が著しく侵害されたことへの反省からであろう。

医療、食糧、水及び社会保障

第27条

1 何人も、次のものを得る権利を有する。

(a) 生殖医療を含む医療

(b) 充分な食糧及び水

(c) 自身及び扶養家族を支えることができない場合における社会的扶助を含む社会保障

2 国は、これらの各権利の実現を推進するため、利用可能な財源の範囲内で、合理的な立法及びその他の手段を講じなければならない。

3 何人も、救急医療を拒否されない。

 本条は、生存権に関する規定である。第1項で食糧・水への権利が明記されるのは、食糧難・水不足が課題であるアフリカならではのことであろうが、本来は全世界共通課題である。 
 第1項の諸権利は、前項の社会権としての住居権とともに国が財源の範囲内で立法等の措置を講じて実現する抽象的な権利であるが、憲法規定としては比較的珍しい救急医療の拒否を禁止する第3項は自由権的な規定である。 

子ども

第28条

1 子どもは、次の権利を有する。

(a) 出生時に名前及び国籍を得ること。

(b) 家族もしくは両親による養育または家族的環境から引き離された場合は適切な代替的養育を受けること。

(c) 基本的な栄養、養護、基本的な医療及び社会サービスを受けること。

(d) 不適切育児、育児放棄、虐待または堕落から保護されること。

(e) 搾取的な労働慣習から保護されること。

(f) 以下のような仕事の遂行もしくはサービスの提供を要求され、または許可されないこと。

 (ⅰ) 当該の子どもの年齢にふさわしくないもの

 (ⅱ) その子どもの福祉、教育、心身の健康または精神的、道徳的もしくは社会的な発達を危険にさらすもの 

(g) 最後の手段として以外は、拘禁されないこと。その場合も、第12条[訳出者注:人身の自由条項]及び第35条[訳出者注:デュ―プロセス条項]の下で子どもが享受する諸権利に加え、子どもは最小限の期間のみ拘禁され、かつ次の権利を有する。

 (ⅰ) 18歳以上の被拘禁者からは分離収容されること。

 (ⅱ) その子どもの年齢を考慮した方法及び条件で処遇・収容されること。

(h) 子どもに影響を及ぼす民事手続きにおいて、実質的な不公平を結果する恐れがあるときは、国の費用で国選弁護士を付けられること。

(i)  武力紛争で直接に利用されないこと、かつ武力紛争時に保護されること。

2 子どもの最良の利益は、子どもに関わるあらゆる問題において、最高度の重要性を持つ。

3 本条において、「子ども」とは18歳未満の者をいう。

 子どもの権利を包括的に厚く保障する本条は、南ア憲法の真髄の一つである。これも、しばしば子どもが過酷な状況に置かれてきたアフリカ的状況を反映しているが、内容上は国連子どもの権利条約にも沿った標準的・普遍的なものである。

コメント

南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第7回)

2021-02-14 | 南アフリカ憲法照覧

財産権

第25条

1 何人も、一般法の定める場合を除き、財産を剥奪されることはなく、いかなる法も財産の恣意的な剥奪を許容することはない。

2 財産は一般法が定める次の場合に限り、収用される。

 (a) 公共目的または公益のためであること。

 (b) 補償を条件とし、その額や時、支払い方法は利害関係者もしくは当事者の合意または裁判所の承認によること。

3 補償の額、時及び支払い方法は、公益と利害関係者の利益の公平な均衡を反映し、以下のような全関連状況を考慮した公正かつ公平なものでなければならない。

 (a) 当該財産の現在の利用状況

 (b) 当該財産の取得及び利用の履歴

 (c) 当該財産の市場価値

 (d) 当該財産の取得及び有益な設備改良への国の直接投資及び補助の程度

 (e) 収用の目的

4 本条の目的のために―

 (a) 公益には土地改革、及び南アフリカのあらゆる自然資源への公平なアクセスを実現するための改革への国の関与を含む。

 (b) 財産は土地に限定されない。

5 国は、市民が公平に土地へのアクセスを獲得できる条件を整備するため、利用可能な財源の範囲内で、合理的な立法またはその他の手段を講じなければならない。

6 過去の人種差別的な法もしくは慣習の結果として土地の保有が法的に不安定な個人または地域社会は、国会の法律が定める限度で、法的に安定な保有または相当の救済の権利が与えられる。

7 過去の人種差別的な法もしくは慣習の結果として1913年6月19日以後に財産を剥奪された個人または地域社会は、国会の法律が定める限度で、財産の返還または公平な救済の権利が与えられる。

8 本条のいかなる規定も、過去の人種差別の結果を救済する目的で、国が土地、水その他関連する改革を実現するための立法その他の手段を講じることを妨げない。ただし、およそ本条の規定から離脱する場合は、第三六条第一項の規定に合致していなければならない。

9 国会は、第6項で言及された法律を制定しなければならない。

 本条は財産権に関する詳細な規定である。第3項までは、個人の財産権の保障と補償を伴う収用という財産権を一定限度で社会化する社会民主主義的な標準規定である。南ア憲法における財産権条項を詳細にしている原因は、第5項以下でアパルトヘイト時代の人種差別的な土地制度の改革が目指されているためである。
 アパルトヘイト時代は、1913年の原住民土地法により、黒人は国土のわずかな範囲で「居留地」として指定された領域以外での土地の保有を禁じられ、大半の土地を白人支配層が保有する極端な土地独占政策が採られていた。
 脱アパルトヘイト体制はこうした差別的土地政策の撤廃と原状回復も大きな使命としたことから、憲法上も国による土地改革の基本原則が盛り込まれている。
 ただし、それは白人地主層からの強制的な土地の没収・返還という革命的な手法ではなく、金銭補償の可能性や任意性を確保した立憲的な原状回復による。このような手法は穏当ではあるが、実効性に欠ける面があり、立憲主義とアパルトヘイトの清算の矛盾というジレンマに立たされている。

コメント