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南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第7回)

2021-02-14 | 南アフリカ憲法照覧

財産権

第25条

1 何人も、一般法の定める場合を除き、財産を剥奪されることはなく、いかなる法も財産の恣意的な剥奪を許容することはない。

2 財産は一般法が定める次の場合に限り、収用される。

 (a) 公共目的または公益のためであること。

 (b) 補償を条件とし、その額や時、支払い方法は利害関係者もしくは当事者の合意または裁判所の承認によること。

3 補償の額、時及び支払い方法は、公益と利害関係者の利益の公平な均衡を反映し、以下のような全関連状況を考慮した公正かつ公平なものでなければならない。

 (a) 当該財産の現在の利用状況

 (b) 当該財産の取得及び利用の履歴

 (c) 当該財産の市場価値

 (d) 当該財産の取得及び有益な設備改良への国の直接投資及び補助の程度

 (e) 収用の目的

4 本条の目的のために―

 (a) 公益には土地改革、及び南アフリカのあらゆる自然資源への公平なアクセスを実現するための改革への国の関与を含む。

 (b) 財産は土地に限定されない。

5 国は、市民が公平に土地へのアクセスを獲得できる条件を整備するため、利用可能な財源の範囲内で、合理的な立法またはその他の手段を講じなければならない。

6 過去の人種差別的な法もしくは慣習の結果として土地の保有が法的に不安定な個人または地域社会は、国会の法律が定める限度で、法的に安定な保有または相当の救済の権利が与えられる。

7 過去の人種差別的な法もしくは慣習の結果として1913年6月19日以後に財産を剥奪された個人または地域社会は、国会の法律が定める限度で、財産の返還または公平な救済の権利が与えられる。

8 本条のいかなる規定も、過去の人種差別の結果を救済する目的で、国が土地、水その他関連する改革を実現するための立法その他の手段を講じることを妨げない。ただし、およそ本条の規定から離脱する場合は、第三六条第一項の規定に合致していなければならない。

9 国会は、第6項で言及された法律を制定しなければならない。

 本条は財産権に関する詳細な規定である。第3項までは、個人の財産権の保障と補償を伴う収用という財産権を一定限度で社会化する社会民主主義的な標準規定である。南ア憲法における財産権条項を詳細にしている原因は、第5項以下でアパルトヘイト時代の人種差別的な土地制度の改革が目指されているためである。
 アパルトヘイト時代は、1913年の原住民土地法により、黒人は国土のわずかな範囲で「居留地」として指定された領域以外での土地の保有を禁じられ、大半の土地を白人支配層が保有する極端な土地独占政策が採られていた。
 脱アパルトヘイト体制はこうした差別的土地政策の撤廃と原状回復も大きな使命としたことから、憲法上も国による土地改革の基本原則が盛り込まれている。
 ただし、それは白人地主層からの強制的な土地の没収・返還という革命的な手法ではなく、金銭補償の可能性や任意性を確保した立憲的な原状回復による。このような手法は穏当ではあるが、実効性に欠ける面があり、立憲主義とアパルトヘイトの清算の矛盾というジレンマに立たされている。


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