黒猫書房書庫

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『備前風呂屋怪談 湯女の櫛』岩井志麻子(角川書店)

2011-07-22 | 読了本(小説、エッセイ等)
岡山城下町の名物として数えられる、風呂屋・和気湯の湯女お藤。
年の頃は本人によれば二十。京の太夫にでもなれそうな立ち居振る舞いと芸達者で、何故か湯女などしているのか。天女だ、いや前の前の城主である小早川秀秋が、朝鮮出兵の折に、向こうの娘に生ませた御落胤ではないかとの皆の憶測を呼んでいた。
そんな噂を、否定するでもなく肯定するでもなく受け流す彼女は、人を騙すというよりも、あからさまに冗談だ戯れ言だと顔にはっきり出してはぐらかす。
お藤には、さらに、奇妙な話、奇怪な話を巧みに語るという特技がある。
それを目当てで通うのは、もと町医者の老人であるご隠居。彼が執心するのは、女郎の崎尾の話だった……“第一章 お藤の櫛”、
岡山ではかなりの大店として知られる小間物屋吉備屋の末っ子は、お藤に執心。妾として囲われてくれないかと持ちかける、そんな彼にお藤が語る話。
ある南の、冬でも暖かい地方の港町にいた頃、唐の商人・李に、その李は幼い頃祖父に、祖父は出会った男から聞いた話だという。
ある時、男の口の中に腫れ物ができ、その腫れ物を夢想しているときや退屈しているとき、ふっと舌でなめると、妙な光景がふっと見えてきたという……“第二章 夢幻の人”、
和気湯には、お藤を入れて五人の湯女がいる。もっとも昔からいるのは、フナ姐さんと呼ばれる大年増。おかめ顔の田舎女だが、人気者。そのフナは最近、奇妙な話を語るという。それはフナが見た夢の話だった。
岡山の北の果ての貧乏な水呑み百姓の子として生まれたフナだが、夢の中では別の女…南蛮人の姫になっているという。同じフナという名前で……“第三章 死の彷徨”、
和気湯の主人・大吉もなかなかに面白い男。下手の横好きだが彫物を趣味としている。その大吉が、このところずっと座敷にこもって大作に取り組んでいるという。
そんな中、大吉の元にやってきていた彫物の先生のひとりが、お藤を閨に呼んだ。東洋という名のその男は、生きた猿を彫ったという人物。彼は、その人生を語る。
やがて、大吉が完成させたのは、お富士という生き人形で……“第四章 彫物師”、
和気湯の女将おヨシは、地味で目立たない女。
ある日、若い色男が、湯女ではなく女将と風呂に入りたいと言い出した。女将は代わりにお藤を勧め、彼女は男に商人の女房に聞かされた話を語る。
息子がまだ小さかった頃、流浪の末、ある町の外れに、一軒のあばら家を借りた。そのうち、息子が熱い熱いと騒ぎ出し、何が熱いかとたずねると“黒い人”と答えたという……“第五章 焼かれた骸”、
このところ、男しか来ないはずの和気湯に女がいたとの噂が。だがその女は、いつの間にか消えてしまうらしい。
その女が出没するようになってから、ひと月が過ぎた。
そんなある日、ひとりの五十がらみの男が、お藤を一晩買い切りたいという。リッつぁんと呼ばれるその男は、これまで湯女も買わず、風呂にだけ入りにきていた変わり者だった。
そんな彼はお藤に自分の体の秘密と過去を打ち明ける……“第六章 眠れない男”、
和気湯にカヨという、耳も聞こえず、口もきけぬ娘が湯女になりたいとやってきた。
話すことはできないが、その唇の言葉を読み取るお藤。
カヨは、自分は鳥だという……“第七章 籠の鳥”、
和気湯にやってきた一見客の相手を、お藤がすることに。
白い朝鮮服をきており、目の下からすっぽり鮮やかな紅色の布で覆っている。
スンシンと名乗る彼の、その顔には鼻がなく……“第八章 朝鮮からの使者”を収録。

江戸の初めの頃の岡山が舞台。風呂屋の湯女(銭湯敵なお風呂ではなく、今でいうところのソープ嬢的な)のお藤が、いろんな奇妙な話を聞いたり話したり、な連作。
“怪談”とついているけれど、特に怖い話ではないですね~。
表紙が『ぼっけえ、きょうてえ』同様、甲斐庄楠音なのが、怖い(笑)。

<11/7/21,22>


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