黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『夜毎に石の橋の下で』レオ・ペルッツ(国書刊行会)

2012-09-11 | 読了本(小説、エッセイ等)
1589年秋、プラハのユダヤ人街で疫病が流行った。そんな中、貧しい老芸人・熊のコッペルと阿呆のイェケレは、死んだはずの靴直し屋の娘クヴェティンカや最近亡くなった近所の子供たちの幽霊を見かけた。
高徳のラビの元に相談に行くと、彼らに再度子供をつかまえて、病が流行っている理由を聞くようにという。結果、モアブ(姦通)の罪を犯した者がいる、との言葉に、ラビは罪を告白せよと呼びかけるが、名乗り出るものは誰もいなかった……“ユダヤ人街のペスト禍”、
1598年夏のはじめ、二人のボヘミア青年貴族がいた。一人は、プラハ大学で法律を学ぶペトル・ザールバ・ゼ・ジュダー。野心家でボヘミア独立を夢見る青年。もう一人は、イジー・カプリーシュ・ゼ・スイヴィツ。政治や宗教には無関心だが、ユダヤ人のせいで時代が悪くなったのだと憎む青年だった。二人は先頃身内の婚姻により、親戚になったばかり。
そんな中、イジー・カプリーシュは、宮廷の第二書記に宮廷の借金の取り立てに行く話をする。昼に皇帝の食卓に招いてくれるという話をするが、ペトル・ザールバはヤン・ジシュカの予言について…一族に語り伝えられる、皇帝の卓で食事をすることの災いを語る……“皇帝の食卓”、
1609年冬。生まれつき運のないユダヤ人の男、ペルル・ラントファーラーが処刑されることになった。見せしめとして共に処刑される二匹の野良犬たち。そのうちの一匹であるむく犬は、文無しで亡くなった大富豪モルデカイ・マイスルの飼い犬だった。
ペルルは、牢獄で騒ぐ犬たちを静かにさせるための術を掛け間違えたところ、犬の会話を聞くことに……“犬の会話”、
枢密顧問官にしてボヘミア行政長官を兼ねるズデニェク・ズ・ロプコヴィツの初孫洗礼祝いの宴で、無骨な皇帝軍将校のユラニツ男爵がベルカ卿の三姉妹の末娘にちょっかいを出したのに反感を持った洒落者の青年伯爵コラルトは男爵を転ばせ、笑い者に。その流れから決闘することになって……“サラバンド、
皇帝ルドルフ二世は、不眠の夜を過ごしていた。恐ろしい化け物の幻影を見ては、筆頭侍従のフィリップ・ラングを呼ぶ。
不安に陥り、すでに亡くなった侍従を呼んだり、新たに取り立てた者を亡くなった者にうり二つだと言い出したりと、おかしな言動が目立っていた。
そんな中、皇帝は、挨拶に現われたモロッコ公使を、かつての宮廷厩舎の飼育係だったインドジフ・トヴァロフだと言い出して……“地獄から来たインドジフ”、
若き日のルドルフ二世。
ある日、供も連れずにプラハを出て、ベナーテクにある自分の小さな城へ向かっていた。森奥深くまで入り込んでしまった彼は、宝の山の番をしている二人の悪鬼に出会う。曰く、虐げられた族(ユダヤ人)モルデカエウス・マイスルのために番をしているという。その言葉に反感を持ったルドルフは、そこからターレル銀貨を一枚抜き取ったところ、悪鬼たちは、定められた持ち主に戻さぬ限り、災厄に見舞われるという言葉を残して、消えた。
その言葉通り、ルドルフの周辺で災厄が続いたことから、その人物を探すことに……“横取りされたターレル銀貨”、
夜風が河の漣を掠めて吹く頃になると、ローズマリーの花はひときわしっかりと赤い薔薇に寄り添う。
その姿は皇帝と幻の恋人との逢瀬へと投影され、彼らに夢を見せる……“夜毎に石の橋の下で”、
ヨハネス・ケプラーは偉大なる数学者にして天文学者であったが、1606年にはプラハ旧市街の廃屋で食うや食わずの暮らしをしていた。そんな彼の元にアルブレヒト・ヴァーツラフ・エウゼビウス・ズ・ヴァルトシュテインという青年貴族が「天の件」で、と相談にやってきた。てっきり運勢を見て欲しいのだと思っていたところ、彼の用件は、明日の夜、燃え荒ぶる火星は大熊座の元にあるか、という一点のみだった。火星ではなく金星だと答えたケプラー。
一方、バルウィティウスという老人が率いる盗賊団。そろそろ捕まる危険が迫っているらしいことから、その前に最後の大仕事をして逃げようと考えていた。その計画の為、人手がひとり足りないことから、手下のイジー・ライトニツァーは心当たりの男に声をかけることに……“ヴァレンシュタインの星”、
かつてプラハには、名の伝わらぬ画家がいた。ブラベネツという姓だったが、シニョール・ブラバンツィオと呼ばれるとまんざらでもない顔をしたという。
彼は描いた絵が、ある時、美術を愛するルドルフ皇帝の目に止まった。
お忍びで町へと出かけたルドルフは、その画家の絵を褒め、城に持って行っては、と勧めるが……“画家ブラバンツィオ”、
最愛の妻エステルを亡くし、久しいあいだ悲しみと苦しみばかりに満ちていた、モルデカイ・マイスルの心に功名心が芽ばえた。皇帝の側近フィリップ・ラングと手を組み、その皇帝の偉光を借りて恩恵を受ける代わりに、浪費癖のある皇帝の為、負債に追われる宮廷に金を渡すことに。
一方、二年前に皇帝に雇われた錬金術師ヤコブス・ファン・デッレ。彼には宮廷道化のアントニーン・ブロウザという友がいた。そんなある日、機嫌の悪かった皇帝と、聖ヴァーツラフの日…ボヘミアで大祝祭が行なわれる日に、自らの首をかけて、純金を作り出して献上するという約束をしてしまったファン・デッレ。
そんな彼を助けたいと、ブロウザは宮廷の外に連れ出すことに……“忘れられた錬金術師”、
阿呆のイェケレと熊のコッペルは、呼ばれた婚礼の席での騒動から逃げ出した折に、そこからうっかり火酒の入った壺を持ち出してしまう。
そんな中<アヴィヌ・マルケヌ>を歌う声が聞こえ、死の天使が人々の名を呼ぶのを聞く……“火酒の壺”、
1621年6月21日。皇帝ルドルフ二世の逝去から9年後。ブロウザは、今は駄弁で人を面白がらせて食料にありつく生活を送っていた。ボヘミアの命運を決した白山の戦いから半年が過ぎ、さまざまなことがあった……“皇帝の忠臣たち”、
妻を亡くし、子も授からなかったモルデカイ・マイスル。病を得た今、妻が死の間際に発した言葉が気にかかっていた。
協定を結んでいた皇帝の名代として、モルデカイの元に現われるフィリップ・ラングは、彼の体調が思わしくないのを見て取り、皇帝との面会を先延ばしにしようとする……“消えゆくともし火”、
新月の夜になると教えの天使が空より降り、高徳のラビの部屋を訪う。
アサエルに罪を頚木として生きていると告白し、皇帝の為に罪に陥った日を思うラビ……“天使アサエル”、
15歳の<わたし>の先生は、モルデカイ・マイスルの末裔で、彼にまつわるさまざまな話を聞かせてくれた。
そして代々受け継がれているという遺書を見せて……“エピローグ”、を収録。

美術品に執着し金を浪費する、神聖ローマ帝国皇帝にしてボヘミア王であるルドルフ2世とその宮廷、ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスル、その美しく年若い妻エステルらを中心にした挿話により形作られる物語。
現在過去未来の時の流れ、現実と幻想、そして皇帝から貧しい国民まで幅広い人物の様子が描かれています。
さながらパズルのように、読み進めるごとに、エピソードの断片が繋がり、謎が明らかになっていく様が面白いです。

<12/9/10,11>


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