『フロム・ミー・トゥ・ユー 東京バンドワゴン』小路幸也（集英社）

皆があちこちに出かけ、珍しく息子・研人と二人きりになってしまった夜。ふと弟の青も同じようだったと思い出し、青が初めて我南人から家に連れてこられた時のことひゃ、青が自分の生い立ちについて知った時のことを、研人に語る……“紺に交われば青くなる　　堀田紺”、
ある日、紺が勘一が探していたという『小説宝玉』の昭和三十三年十月号を見つけてきた。そこには、新人コンテストの入選作として、土合英昭という人物の書いた『空家の少女　真夏の女』という作品が掲載されていた。
翌日、それをもって、幼なじみの勇造を見舞いに行くという勘一に同道することになり……“散歩進んで意気上がる　　堀田すずみ”、
怪しいライターから、マードック・モンゴメリーという人物が、危ないことに関わっているらしいと聞いた、雑誌記者の木島。
我南人ファンである木島は、堀田家が騒動に巻き込まれてはと、ひそかに真偽を確かめるべく、藤島社長経由でマードックに話を訊くことに……“忘れじの其の面影かな　　木島主水”、
一人出かけた旅先の函館で、ボストンバッグを無くしてしまった亜美。
交番で盗難届を出している最中、自分の盗まれたバッグと同じものを若い男の人が持っているのを見てしまい、つい跳び蹴りをしてしまう。とんだ早とちりであったが、怒らずに許してくれたのが、紺だった。
おまけに車に乗っていかないかと提案され、その前にある用事につきあうことに……“愛の花咲くこともある　　脇坂亜美”、
IT企業社長である藤島は、会合の急なキャンセルによりできた時間で、ずっと行ってみたかった古本屋・東亰バンドワゴンに出かけることに。
ところがそこでうっかり店の本を全部買いたいと聞いて、勘一に怒鳴られてしまう。
本への思いは本物だと伝え、何とか勘一の機嫌が直ったところに現れたのは、一度会ったことのある我南人だった……“縁もたけなわ味なもの　　藤島直也”、
ある日、秋実はチンピラに絡まれているところを、我南人らバンドメンバーに救われる。
孤児院で育った秋実の事情も、騒動に巻き込まれていた理由もなにも聞かず、自分の家に連れていってくれるという彼は、LOVEを語る……“野良猫ロックンロール　　鈴木秋実”、
その容貌と人あたりの良さから人気のツアーコンダクターである青。
ある日、常連になっている神保町の多摩蘭堂という喫茶店で、以前特別講師をした折に会った女子大生たちと再会。その時の講師のメンツで合コンをすることになった。
その二次会からさりげなくフェイドアウトするつもりだった青だったが、その後ろにすずみがいて、そのまま一緒に話すことに。その後付き合った二人だったが……“会うは同居の始めかな　　堀田青”、
六月の終わりの学校のバザーで、平本芽莉依（メリー）と一緒に、<東亰バンドワゴン・ワゴン>をすることになった研人。
その当日、そこで本をみていた校長先生が突然おかしな様子に。その瞬間、彼が手に持っていたのは、古いグラビア誌だったが、そこにメリーの母そっくりの女性が写っていて……“研人とメリーの愛の歌　　堀田研人”、
有楽町でたまたま藍子の娘・花陽と出会った真奈美。
お茶しつつ、花陽が気にしている、ある秘密を語る…花陽の父・槙野春雄のことを。
十三年前、たまたま隣町の産婦人科で会って、藍子の妊娠を知った真奈美。藍子の相手は、妻子持ちの大学教授・槙野だったが、彼に妊娠の事実を知らせるつもりはないという藍子に一喝した真奈美は……“言わぬも花の娘ごころ　　千葉真奈美”、
小料理居酒屋はるの板前として雇われた甲。
ある日、女将の真奈美が、柿のコロッケについて訊いてきた。高校時代の同級生・松谷さやかが先頃若くしてなくなったのだが、彼女が生前小学二年の息子・順平の為に作っていた件のコロッケについて相談を受けたという。その思い出の味を探す手伝いをすることになったが、その中で、松谷氏から真奈美の手酷い失恋をしたという過去を聞く……“包丁いっぽん相身互い　　甲幸光”、
幽霊となって堀田家を見守るサチ。
ある朝、朝刊が届かないという出来事があった。いつも新聞を届けてくれる大学生の土井彰太が、なぜか入れ忘れたのだという。近所の花屋にいるという彼の従姉妹に話を訊くと、最近祖母を亡くしたばかりだという。その日、遊びに出かけて、おまけに携帯の電源も切っていたことから連絡がつかない状態だったのを後悔していたという……“忘れものはなんですか　　堀田サチ”の11編収録の短編集。

シリーズ番外編。キャラクタの馴れ初めなど過去エピソードが、それぞれの視点で描かれています。
ちょっとほろりとしつつもいつも通り安定の面白さ♪

<13/5/22,23>