たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

ミツバチが飛んで来たら矢毒の準備にかかれ

2016年03月06日 23時45分48秒 | フィールドワーク

2月末から一週間ほどブラガの森の狩猟キャンプで過ごした。

季節性のない熱帯のボルネオ島の森(混交フタバガキ林)では、数年に一度の頻度で、花が一斉に咲き、続いて、実が一斉に成るという現象が知られる。広い地域で一斉開花・結実がある場合もあれば、限られた一帯だけでそれらの現象が起こったりする。その時期、虫や動物たちが花蜜や果実を求めて、果樹を目指して集まり、森の生命活動が次第に活発になる。

一斉開花には、ミツバチが最初にやって来る。プナンの古くからの教えは、「ミツバチが飛んで来たら矢毒の準備にかかれ」というものである。木を削って矢をこしらえ、植物毒を採取して、毒矢をふだんよりもたくさん作って、吹き矢の準備をする作業に取り掛かる。

吹き矢の準備

彼らは、ミツバチが花蜜を吸いにやって来ると、その後しばらくして、イノシシがやって来ることを経験的に知っている。イノシシたちは、花が咲く木の下で交尾をし、それから数か月後、一斉結実の前に出産する。

一斉結実の時期のイノシシは、「歩き回るイノシシ」と呼ばれる。「歩き回るイノシシ」は、広い地域に食べ物を求めて、集団で歩き回っているとも言われる。そのイノシシたちは、川を泳いで、別の場所に移動することで知られる。遊動の民プナンは、こうした採食行動をまねたのではあるまいか。

歩き回るイノシシたちがやって来ると、今度は、オジロウチワキジがやって来る。イノシシが実を食べていると、そこには、オジロウチワキジがいる。

一斉結実の時期、森には食べきれないほどの実が溢れ、イノシシは太って、脂身が多くなる。森は、イノシシやその他の動物たちにとってのユートピアというだけではない。人間も、果実を持ち帰る。人間は、次から次にイノシシを手に入れて、肉を食べて食べてお腹を満たす。

ヒゲイノシシの頭

一斉結実が終わると、森はユートピアであることをしばらく止める。森の生命は、次にやって来るミツバチを待つことになる。

締め殺しイチジクの木


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