たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

レプトスピラ、運の感染症よ、いつからおまえは

2010年03月24日 16時51分45秒 | フィールドワーク

レプトスピラ症は、鼠などの動物の尿のなかに保菌されている菌を、ヒトが経口あるいは経皮感染した場合に発病するという。鼠などの尿が川のなかに流れ、土壌のなかにたまり、そのなかの細菌が運悪く、いつかしらわたしの身体に侵入したのであろう。日に二度も三度も裸で川で水浴びをする習慣がある熱帯の狩猟民の生活環境では、水を浴びて経皮感染するという状況は、避けることができない。レプトスピラは、洪水の後に大発生すると言われているが、わたしの調査地で洪水があったわけでもない。鼠は小屋の周りをウロウロしていて、プナンは捕まえると食べるのであるが、今回は、わたしは、鼠そのものを眼にする機会がなかった。いったい、いつその菌はわたしに侵入したのか皆目見当がつかない。運が悪かったとしか言いようがないのか。あるいは、よくぞこれまでこの感染症に罹らなかったというべきなのか。

実直でシャキっとした担当医の先生は、レプトスピラは、ボルネオ島では2000年にエコチャレンジの大会があって、参加者がそれぞれの国に帰ってから発病して話題になったことがあると教えてくれた。なんでもパシャパシャと川の水を浴びただけで感染したらしい。
チーム医療の別の先生は、日本では年間20例くらいの症例があり、なかでも、料理店などで働く店員が鼠の尿から感染する都市型のレプトスピラもあると言っていた。

An outbreak of leptospirosis was reported among participants in the Eco-Challenge Sabah 2000 Expedition Race held in Borneo from August 20 to September 3, 2000. Illness was associated with exposure to water from the Segama River. Symptoms included fever, chills, headache, muscle aches, joint pains, and conjunctivitis. No deaths were reported. See MMWR and Emerging Infectious Diseases for further details. Leptospirosis is transmitted to humans by exposure to water contaminated by the urine of infected animals. Travelers who participate in activities which place them at risk for leptospirosis should take doxycycline 200 mg once weekly as prophylaxis
http://www.mdtravelhealth.com/destinations/asia/malaysia.php

3月10日にクアラルンプールで、わたしは、まず最初に首筋から背中にかけて酷い凝りに襲われ、その翌日(11日)、突然の悪寒とその後の発熱に見舞われた。38度台の後半。頭痛と発熱に苦しめられ、12日の夜行便に乗るために養生しようとして、一日中眠っていた。バファリンを一日4回処方するも、症状はほとんどやわらぐことはなかった。わたしは病院に行くかどうか迷った。行けば、入院となって、予定便では帰国できないどころか、いつ帰国できるか分からない。マラリアだろうか、デング熱であろうか、おそらくそうした類の感染症のような気がした。そうこうしているうちに、12日の夜になって、熱は引き、ダルさはあるものの、飛行機には乗れると踏んでKLIAへ向かった。夜行便の飛行機のなかではとにかく眠った。幸い高熱は出ず、両脚がだるくてどうにかなってしまうのではないかと思われたが、翌13日の朝、なんとか成田空港に到着した。ふたたび高熱に襲われたのは、13日に帰国した午後のことである。激しい頭痛と高熱、倦怠感。都内の専門の病院を訪れ(なんとわたしは車を運転して救急外来にたどり着いた)、血液検査をして標本で反応を調べもらって分かったのは、マラリアでもデング熱でもないということであった。しかし、症状としては、眼の充血、黄疸、肝臓、腎臓機能の低下、血糖値の上昇などが顕著に見られ、より詳しく検査して病気を特定した上で、加療する必要があると言われ、わたしはその日から入院することになった。

ときどき脳の内側に走る激痛、高熱、倦怠感。鎮痛剤を処方してもらっても、ほんの暫時しか、ほんの僅かしか熱が下がらない。苦しかった。マラリアの高熱はいったん引くが、その高熱がずっと持続する苦しみ。16日になって、ようやくレプトスピラ症であると診断された。治療として、日に4回、ペニシリンが点滴投与されることになった。ああ、アレクサンダー・フレミングよ。最初は、アレルギー反応からか、40度の熱が出たが、ペニシリン投与2日目から徐々に症状は安定するようになった。問題は、機能低下の数値が回復するかどうかである。腎機能の経過を観察するために、ずっと点滴も投与され、夜中も含めて、1時間ごとに小水を出しにトイレに立つのが辛かった。検査をしてもらって分かったのは、リスキーな熱帯のフィールド状況のなかで、わたしの健康はじょじょに蝕まれきたということであった(詳細省略)。いかに予防に迂闊であったことか。幾つかの点でフォローアップが必要であるとされるが、入院12日目の今日になって退院することができた。

<マラリア闘病記は以下>
http://blog.goo.ne.jp/katsumiokuno/e/4962e74a56965adf303c9f2ecb7b03fc
http://blog.goo.ne.jp/katsumiokuno/e/b725492aa964841502547364b698343d

いったいこの間の入院生活とは何であったのか。時間のリアリティーが著しく欠けている。

今回の入院中に、たくさんの方々からお見舞いや励まし、さらには申し出などのメールや電話(手紙も)をいただいた。日本国内で入院するのは初めてであるが、前二回のマレーシアでのマラリア時の孤独な入院生活に比べていっそうそう感じるのかもしれないが、人の温かい言葉が支えになるということを、わたしはうっとりとするくらい有り難いと感じた(できればもう一度入院してもいいくらいだ!)。この場を借りて、謝意を述べさせていただきます。奥野克巳


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3 コメント

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Unknown (萌芽)
2010-03-25 12:17:01
初めまして、以前から拝読させていただいており
毎日仕事の合間や、お昼休みの楽しみにしていましたが、フィールドワークへ出てから更新がない日々を寂しく感じていた折の、入院の知らせにただただ無事を祈る日々でした。
やっと、退院されたのですね。
ご無事で何よりです、どうかご養生されてお大事にして下さい。
退院の文字に嬉しくて、つい書き込んでしまいました。
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Unknown (レベル上げのお手伝いいたします。)
2010-04-02 15:04:09
こんにちは。
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★ お問い合わせ先:igxelive@live.jp
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引用のお願い (成田 雅)
2013-12-31 11:59:16
はじめまして。現在Leptospirosisに関する原稿を執筆中なのですが、このブログの闘病記は臨床症状をとても詳細に提示してあると思いました。お名前とブログを引用させて頂いても宜しいでしょうか?

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

成田 雅
太田総合病院附属太田西ノ内病院
masashi.narita@gmail.com
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