たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

『らくだ』

2010年11月26日 17時01分38秒 | 宗教人類学

ここ数年間、死と葬儀というトピックについての講義(宗教人類学)の最後に、談志師匠の『らくだ』を見ている。今日、その回だった。その試みは、講義としては、医療によって判定され、行政によって管理される現代の死とは異なる、江戸町民文化における死との向き合い方に関して、落語をとおして、想像力をもって捉えるというのが、だいたいの趣旨であるが、それよりも、教養としての話芸に触れ、知的センスを養うという面のほうが強い。それにしても、談志師匠の熱演よ。わたしが『らくだ』を聞いたのは(CDで)、志ん生、可楽、小さんの話芸だが、そのなかでも、談志師匠のものは、とびっきりスゴイと思う。第一級作品だ。死骸として登場するらくだの生前の乱暴狼藉ぶりが、話の向こうに、まざまざと浮かんでくる。酒を酌み交わす場面での兄貴分と屑屋の立場の逆転は、見事だ。以下、余分かもしれないが、話の概略。

長屋に住む図体のでかい、らくだとあだ名される嫌われ者の家を兄貴分が訪ねていくと、当のらくだが、フグにあたって死んでいた。兄貴は弔いを出してやりたいと思うが金がない。ちょうどそこに、「くず~い」と、屑屋の声がする。兄貴分は、屑屋に家財道具を売り払って金をこしらえようとするが、売れるようなものなどらくだの家には何もない。兄貴分は、仕方なく、屑屋の仕事道具一式を取り上げて、長屋の月番のところに行かせる。月番から、らくだが死んだことを喜んでいるので、なんとか香典を集めてくるという約束を取りつけて戻ってきた屑屋に対して、兄貴分は、今度は、大家から、弔いのために、酒と肴をもらってくるように命じる。兄貴分は、大家に断られたときには、「死骸のやり場に困っているので、カンカン踊を踊らせる」と言わせるという秘策についても伝授する。案の定、酒と肴を断られた屑屋。そのことを聞いた兄貴分は、屑屋に死骸を担がせて、大家の家に運びこみ、カンカン踊をほんとうに踊らせる。驚いた大家は、酒と肴を出すことをようやく承知する。その後、屑屋は、棺桶代わりに漬け物樽を出すように八百屋に使いに出され断られるが、カンカン踊の話をすると、八百屋は、勝手に持って行ってもいいという。屑屋が、らくだの家に戻ると、大家からの酒と肴がすでに届けられており、屑屋は、兄貴分に勧められて酒を飲まされる。屑屋は、三杯を飲むまでは、なんとか断ろうとしていたのだが、逆に、兄貴分が酒を勧めなくなり、注がなくなったことに反発するようになり、酒の勢いをつうじて、屑屋と兄貴分の立場が、その後、ころっと入れ替わってしまう。今度は、兄貴分が、長屋の女所帯に使いに出されて、剃刀を借りてくる。死に支度をさせた上で、死骸を漬け物樽に入れて、二人で担いで、芝を出て落合の寺へ。しかし、その途中で、樽の底が抜けて、死骸をどこかに落としてきてしまったようなのである。彼らは、道を引き帰して、らくだの死骸を探そうとする。酔っ払っているせいか、橋の下で酒に酔っ払って眠っている願仁坊主を間違って拾って来て、それを、そのまま火のなかへと放り込んだのである。熱さで目を覚ました願仁坊主。二人が、死人なのに口を聞くなと言って殴りかかると、願仁坊主の頭に瘤ができる。それを見て、あ、らくだだ。

『立川談志 ひとり会 落語ライブ92~93 「らくだ」「幽女買い」』竹書房

 


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