昨夜ゼミの打ち上げ(写真)から帰宅して試験の採点を始めた。260枚ぶっ通しで、今日丸々一日かけて、いましがたようやく終了した。今日は、これ以外のことにほとんど何も手をつけられなかった(まだもう一科目130枚残っている!)。大人数のクラスを毎年担当しているある先生は、試験問題の採点をやり終えなければならない状況で体調を崩し、点滴を打って、必死に成績評価に取り組んだという話を聞いたことがある。O大学の文化人類学の授業の場合には、2005年までは、だいたい250人規模のクラスだったが、リベラルアーツ学群へ改組されて、このところ毎年150人規模だったのが、今年はふたたび増加に転じた。採点作業って、こんなにシンドいもんだったんだと、改めて思った次第である。単純計算で、一枚平均3分としても、750分、12時間以上もかかることになる。おまけに、字が汚い学生が多いのだ!解読に難儀する、それは、いったいどういうことだろう!字は人格だというようなことよく聞かされた。ワープロが主流となって、字はどうでもよくなったのだろうか?加えて、今年の文化人類学の授業は、おそらくここ数年来なかったことであるが、騒がしかった。最初は、そのうちに収まるだろうと楽観的に考えて、あまり気にならなかったが、ほぼ毎回に近いかたちで、出席票の裏にクレームが書かれていたのである。これにはほんとうに難儀した。O大学の恥を語ることになるが、これまではまったくそんなことなかったのに、小説を読んだり、エントリーシートを書いたりする行儀のよくない学生がいたし、べちゃくちゃお喋りをしている学生もいた。今から考えると、まずは、話を聞くことができる空間をつくるのに、ずいぶんと骨が折れた。来年以降は、この規模の受講者数は、なんとか免れたいものだ(はなから学ぶ志のない学生は、なんとかして断りたいものだ)。あるいは、教員の導きが悪かったのだろうか。最初に、ビシッと言わなかったわたしが。そうかもしれない。そんなんかで、わたしとしては、内容に関しては、かなりはっきりと、文化人類学の考え方について、事例を引き出し、解説できたと自負している。それらを、そのまま試験問題として出した(必修問題と選択問題の2つの出題)。採点したところ、問題文をあらかじめ言っておいたこともあってか、できている学生が多かった。しかし、大学当局からの、本年度最初のいきなりの成績評価ガイドラインの通達。各クラス、A評価、B評価は、それぞれ10%、30%にせよ、と。それに関しては、まだ十分な議論がなされていないと個人的には感じているが、はたして、わたしの評価結果は、どうなることやら。以下、問題と模範回答。
【必修問題】
以下の問いに答えなさい。
アイヌのイヨマンテ儀礼の概要を示した上で、それを、どのように理解すればいいのかについて論述しなさい。
◆模範回答
わたしたちは、日常生活で、スーパーで動物肉を買ってきて、料理して食べて生きている一方で、その肉片が、もはや、かつて生きた動物だったということを想像することは皆無であろう。アイヌのイヨマンテでは、熊をいつくしんで飼い育てて殺すという点で、一見、残酷であるように思えるが、実は、それは、わたしたち人間誰しもが、やらなければ生きていけない事柄を拡大して見せてくれている。そうした儀礼の背後に、アイヌの人たちは、熊が神の化身であり、自然=神が人に純粋に贈与をしてくれているというコスモロジーを用意している。イヨマンテを残酷だ、野蛮だというのは、ただうわべだけを見ているからであり、事柄の本質を見るならば、生きた動物を殺害するためだけに育てて、それを血のしぶきを上げさせて切り刻んだ後に売買いし、生命ある存在物に対して何も感じないという点で、わたしたちのほうこそ、野蛮なのではあるまいか、というようなことが、自分の言葉で書けていれば及第。
【選択問題】
以下の3問のうちから1問を選択して、問いに答えなさい。
【1】ポトラッチの概要を示した上で、人間の根源的な精神性との関わりにおいて、それを、どのように理解すればいいのかについて論述しなさい。
◆模範回答
競争して贈り物をし、相手から贈り物が欲しくないために、持っている貴重なものを破壊するだけでなく、その競争をどんどんエスカレートさせていく、アメリカ西海岸地域の先住民のポトラッチ(競覇的消費)が、バタイユが『呪われた部分』で取り上げた「蕩尽」(エネルギーを貯めておいて一気に放出することに快楽を感じること)という人間の根源的な精神性に根ざしたものであるということが、自分の言葉で書けていれば及第。
【2】ニューギニアの制度化されたホモセクシュアリティーの概要を示した上で、それを、現代社会のホモセクシュアリティーと比較して、どのように理解すればいいのかについて論述しなさい。
◆模範回答
ニューギニア高地の社会で行われている、男性性を即物的に注入するために行われる儀礼的同性愛が、ライフサイクルの一時期における同性愛行動であって、その点で、現代社会における人間の(永続的)「属性」としてのホモセクシュアリティーとは異なるという点が、自分の言葉で書けていれば及第。
【3】シャーマニズムの概要を、授業で取り上げたビデオの内容を踏まえて具体的に示した上で、それを、どのように理解すればいいのかについて論述しなさい。
◆模範回答
シーマニックな能力というのは、この世とあの世を自由に行き来することができるという、人間の潜在的な能力の一種であり、現代社会は、そうしたシャーマニズムを抑圧した上に成立している。時に、胡散臭いもの、戯れにすぎないとして批判されることがあるけれども、ビデオで見たスピカンの活動に寄り添って、その本質に迫るならば、スピカンの活動は、人類社会が長い間頼りにしてきたシャーマニズムであることが見えてくる。シャーマンとしてのスピカンもまた、あの世と交信して、問題を解決し、人間に癒しをもたらしてくれるというようなことが、自分の言葉で書かれていれば及第。