ゆるゆるらいふ

とりあえず、今日も一日機嫌よく・・・

【観劇メモ】蜜柑とユウウツ ~茨木のり子異聞~

2015年06月20日 | 演劇
大好きな作家の一人、長田育恵さんの作品が続く。

5月の「夜想曲集」は原作が小説だったけれど、今回はオリジナル。

演じるのはグループる・ぱる

松金よね子さん、岡本麗さん、田岡美也子さんの3人のユニットだ。

詩人の茨木のり子さんが亡くなったところから始まり、彼女の半生を回想しつつ、没後の世界も繰り広げる、
というちょっと不思議なシチュエーション。

今まで、長田さんが実在の人物を描いた舞台は、その人の一生の中のある数年間にスポットをあてて、掘り下げて行っていたように思う。

今回は茨木さんの「気がかり」にスポットが当たる。

舞台は主がいなくなった茨木さんの自宅。

訪ねてきた甥っ子役の岡田達也さんや、編集者役の野添義弘さんに完全に無視され続けている「たもっちゃん」役の小林隆さんが
実は生きている人間ではないことがわかるのは、あとのこと。

夕方の時間に階段から落ちて急逝したという茨木さんは毎日同じ時間を繰り返して、成仏できていない。
宝塚の男役のようだったと言われる大柄なのり子役は、基本的には松金よね子さん。
え?ちっちゃくない?と思ったら、
どうやらのり子本体ではなく、亡くなったのり子の「気がかり」の部分だけらしい。
この気がかりがなんだったのかが思い出せずに同じ時間をぐるぐると繰り返している。

この同じ日同じ時間に別の場所、別の出来事で亡くなった典子(田岡美也子さん)と紀子(岡本麗)さん。
この二人のノリコは、生まれ変わってよりいいもの、それも人間になりたいために徳をつんでるらしい。
さしあたっては、茨木のり子の気がかりを思い出させて成仏させよう、と同じ時間の繰り返しに付き合っている。

のり子の若き日の回想シーンのときに、この二人が茨木のり子を演じることもあり、
不思議な味わいを見せている。

熱い想いをもてあますのり子の 最大の理解者で優しく頭のいい夫も小林さんが演じている。
結構早い段階で亡くなってしまうので、夫の魂が家を守っているのかと思ったら、どうも違う。
けれど、夫の時と同じように、とにかく温かいまなざしで、のり子を包み込む感じがなんともうらやましい。

木野花さんが演じる葉子さんが女性では唯一生きていて、時にクールに時に優しく生前の のり子を叱咤激励し、
没後も彼女の想いをくみ取ろうとする。
テレビドラマのいい人っぽい感じではなく、芸術的かつ冷静で理知的な女性を素敵に演じてらっしゃる。

「気がかり」がなんだったのかわかり、3人のノリコが舞台から去り、舞台の端に腰かけて足をぶらぶらさせているたもっちゃんのもとに
のり子の「気がかり」が戻ってきて、あなたは蜜柑の木ね、などと言う。

結婚したときに植えて、夫の葬儀の時に初めて花を咲かせた蜜柑の木はずっとのり子を見守っていたようだ。

気がかりの一つは、夫への想いを書いたまるでラブレターのような詩集を出版してもらうこと。
その原稿と一緒に保管してある夫の喉仏と共に埋葬してほしいこと。

もう一つは蜜柑の木の精がたもっちゃんだと理解することだったのだろうか。

恥ずかしながら、この舞台のチケットを買うまで、茨木のり子さんのことはぜんぜん知らなかった。

詩を読む、ってことが無いからだ。

劇中、のり子が詩を紹介する本を出版するというくだりがあるが、一緒に行った友人が
「なるほどそういう本は必要だ」と言っていた。
詩は難しくてよくわからない、と。

確かに詩は言葉への想いの込め方が強いせいか、ちょっとよくわからないことが多くて敬遠しがち。
あまり感性が豊かでない私には何を言いたいのかわからないことの方が多い。
作者の詩に込めた思いが読み取れないのだ

ただ、劇中、何度ものり子の詩が朗読されるが、これはわかりやすかった。
誰かが読んでくれると、すっと入ってくるのかもしれない、なんて他力本願にもほどがある

この気がかりだった遺作は「歳月」という、と長田さんが書いてらっしゃる。
長田さんが絶賛してらっしゃったのでちょっと読んでみようかな、と思ったり。

る・ぱるの3人の軽妙なオバサントーク的なやり取りと、穏やかに見守る小林さんの絶妙な立ち位置。
時々異界を感じる木野花さんのちょっと何かもってるな、的な雰囲気。
なんだかとっても普通で、あの世とこの世の境目みたいなところが不自然じゃなくて、なんとも気持ちがよかった。

今回一緒に行ってくれた友人とは、長田さんの作品を今までに一緒に3本観ていて、二人でファンになっている。

「おもしろかったね~」と話しながら、さて今日の夕飯は・・・と現実に戻っていく。

次回もまた一緒に行きましょう













コメント
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