じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

大岡昇平「野火」

2022-03-20 17:49:27 | Weblog
★ NHK「100分de名著」、「エドガー・アラン・ポー スペシャル」で取り上げられた「アーサー・ゴードン・ピムの冒険」、極限状態の中で、人肉を食べるシーンがあった。この作品に関連して、大岡昇平さんの「野火」が紹介されていた。太平洋戦争、フィリピン戦線、絶望的な極限状態に置かれたある日本兵の物語だ。

★ 本棚に昭和30年初版(昭和56年改版)の色褪せた文庫があったので読み始めた。読みながら映画化されていることを思い出し、早速観ることにした。

★ 「野火」は2度映画化されている。市川崑監督の1959年のものと、塚本晋也監督の2015年のもの。

★ 市川作品はずっと昔、1度見た記憶がある。ただ断片的にしか覚えていなかった。作品はモノクロだが、それが効果的だ。主人公の田村一等兵役は船越英二さんだが、その痩せ具合、演技が絶妙だ。もはや戦後ではないと言われた昭和30年初頭とはいえ、終戦からの日が浅く、戦争はまだ人々の身近にあったのかも知れない。

★ 塚本作品はカラー作品。くっきりとした色彩が印象的だ。それゆえのグロさもある。しかし、戦争とはそもそも、グロテスクで醜いものなのだろう。前半イマイチ作品に入り込めなかったが、それはキャストの歯の白さだ。餓死寸前の極限状態のはずが、どうもまだ余裕があるように感じられた。後半から終盤にかけて、状況の深刻さが増したせいか、痩せ具合、歯の汚さにリアリティを感じた。

★ そして、映画を2本観てから原作を読んだ。映画では映像で語っているところを原作は当然ながら言葉で表現している。そのイメージは読者に委ねられている。出来事は映画で知っているが、小説では主人公のさらに深い内面が描かれている。

★ 結局、彼は復員し精神病院に入院。この作品はそこでの手記という設定だ。彼は今で言うPTSDか。

★ 「もし人間がその飢えの果てに、互いに喰い合うのが必然であるならば、この世は神の怒りの跡にすぎない」、グサッと刺さるセリフだ。
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