じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

太宰治「竹青」

2021-06-06 16:18:00 | Weblog
★ 「現象学」というものを理解しようと書物を読むが、どうもしっくりこない。「エポケー」とか「現象学的還元」とか、結局何なのだろうか。哲学者の竹田青嗣さんがわかりやすい解説書を書かれているというので、近くの書店に寄ってみたが見当たらず、アマゾンで買おうかなどと考えている。

★ ところで竹田青嗣さんというのはペンネームで、その所以は太宰治の「竹青」にあるとか。ということで、太宰治の「竹青」(青空文庫)を読んでみた。

★ 舞台は中国。魚容という男が主人公。そこそこの家柄に生まれ、そこそこの容姿を備えていたが、両親に先立たれたことから、親戚の家を転々とする生活に甘んじる。学問をかじって聖人君主になることを夢見るが、どうも運に見放され田舎暮らしに埋没していた。

★ 恩ある伯父に勧められ、気は進まなかったものの嫁を貰う。容姿は醜く瘦せ細り、更には伯父の妾の払い下げとのうわさも。見かけ共々気も荒く、魚容は鬱屈した日々を過ごしていた。しかし、彼は尊大な自尊心と生活とのギャップに堪え切れず、周りを見返すべく、遂に妻を殴り、科挙試験をめざして故郷を出た。しかし、試験には失敗。

★ 重い足取りで故郷への帰り道。喰うにも困り行倒れ寸前。横になってウトウトしていると「竹青」という雌のカラスがやってくる。湖の神の使者、神鳥だという。一層のことカラスになりたいという魚容の願いが叶い、容姿も心も美しい「竹青」と楽しい夫婦生活を営む。しかし、ある日、軍船の兵が放った矢にあたり、瀕死の傷を負う。もはやこれまでというときに、ふと目が覚め、現実に戻る。

★ 気を取り直して、魚容は故郷に帰るが、また退屈で鬱屈した日常の繰り返し。再び出世を夢見て故郷を出るが、またしても試験に失敗。失意のどん底で「竹青」への再会を希うが、思いは通じず、いよいよ湖に身を投げようとするのだが・・・。

★ 中島敦の作品のようでもあり。芥川龍之介の作品のようでもある。しかし中島敦ほどガチガチの漢文調ではないし。芥川龍之介の「杜子春」ともちょっと違う。よくはわからないがやはり太宰流だ。

★ 最後はハッピーエンドで「良かった良かった」ということなのだが、どうも環境が変わったのは、魚容の心が変わったのが原因ようだ。人は見たいものしか見ない。見たいようにしか見ない。いわゆる「エポケー」によって、世界はガラッと変わってしまうのかも知れない。

★ それにしても「竹青」は魅力的だ。なまじ太宰の生きざまを聞きかじっているだけに、結局は女性なくしては生きること(あるいは死ぬこと)ができない彼の生き方が二重写しになる。
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