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卍の城物語

弘前・津軽地方の美味しいお店と素晴らしい温泉を紹介するブログです

海と毒薬/遠藤周作

2007-07-14 20:15:16 | 
「あ」アタック25、司会の児玉清です。
「い」いつものように、VTR問題からスタートです、どうぞ。
「う」海と毒薬などで知られる、クリスチャンとしても有名な作家は?
「え」遠藤周作!
「お」おみごと!
(華丸大吉の児玉清のあいうえお作文のネタより)

大戦末期の九州大学でのアメリカ人捕虜の人体実験という、実話を基にした物語。

しかし、残酷なテーマとは裏腹に、実験に関わった人物の現在・過去の心理描写が主立って書かれている。

第一章は、主人公勝呂が、実験の数十年後に、しがない町医者となり、ある男の患者に過去を調べられる。
その過去に振り返って、若き勝呂と同僚の戸田がいかに実験に関わっていくかが描かれる。

第二章では、実験に参加した看護婦の手記と、戸田の幼年期からの回想による手記。
そしていよいよ行われる実験に迎える勝呂の心理が描かれる。

第三章は、ついに行われた実験を通して、今まで登場した人物たちの錯綜する心理・思惑が描かれ、終わりを迎える。

幾人の主人公が場面によって変わり、過去を振り返っての手記を通して、人物たちの人生が細やかに、如何にして実験に参加することになったかを明確に表した。

この手法は、映画などでもよく見られるが、個人的に好きな手法である。
一人の主人公の人生より、多くの主人公の交錯が、現実として他人の共同体によって形成される「私」の多方面から見た描き方が好きなのである。

人体実験など、大戦中では致し方ない行為であると思うし、それ以上の実験を島国で二回も行われたと思うと、残酷性など微塵も感じないが、その時代に各々が、医療の進歩のため、実験行為そのもののため、自分の将来のため、名誉挽回のため、報復のため、そして、何のためでもない、という様々な思惑が、ドラマティックに流動する。

空襲で死ぬ者、病死する者、戦って死ぬ者、実験によって死ぬ者。全ての命は平等か? 倫理的疑問を投げかける。

一番好きな場面は、看護婦の手記。
女の情念、嫉妬、空虚感。男の強欲的な行動に相反する自暴自棄的な感覚的に生きる姿に美しさを覚える。

この傑作には「悲しみの歌」という続編があるらしいので読んでみたい。

オススメ度(本評価)・☆☆☆☆