〇陳思誠監督『唐人街探偵 東京MISSION』(2021年)
ぱあっと楽しい映画が見たくなって、映画館で見てきた。中国映画の人気シリーズ「唐人街探案」の第3作である。冒頭に短い解説編があり、作品世界には、世界の探偵たちを順位づけするクライマスタ―(CRIMASTER、犯罪大師)というランキングがあることが示される(琅琊榜みたい)。登場する探偵たちは、いずれもその上位ランカー(唐仁を除く)。ただし最上位の「Q」の正体は謎に包まれている。
本作では、中国の若き天才探偵・秦風(劉昊然)とその叔父でやはり探偵業の唐仁(達者なのは口だけ)が、日本の名探偵・野田昊(妻夫木聡)の招きで東京にやってくる。東京では、ニューチャイナタウンの開発利権を巡って、ヤクザの黒龍会とタイ・マフィアの東南アジア商会との間で争いが起きていた。先だって、黒龍会組長の渡辺(三浦友和)と、東南アジア商会の会長スーチャーウェイが二人きりで会談をおこなったが、スーチャーウェイは殺され、渡辺に殺人の嫌疑がかかっている。しかも現場は密室である。
秦風と唐仁と野田は、渡辺の無罪を証明すべく奔走する。一方、東南アジア商会側が渡辺の犯罪を追究するためにタイから呼び寄せた探偵がジャック・ジャー(トニー・ジャー)。日本の警視正の田中(浅野忠信)も捜査に乗り出す。
さらに事件の鍵を握る、スーチャーウェイの秘書・小林杏奈(長澤まさみ)が誘拐され、その救援に駆けつけた秦風は、強姦殺人容疑の指名手配犯である村田(染谷将太)の罠に嵌り、村田を高所から突き落として死に至らしめ、殺人容疑で逮捕されてしまう。秦風を救うため、唐仁、ジャックらは世界に散り、隠された人間関係を掘り出し、スーチャーウェイ殺害事件の真相を明らかにする。
隠されていた人間関係(血縁)が明らかになると、その関係に起因する愛憎が見えて、事件の真相が腑に落ちるというのは、横溝正史作品などを思い出すところがあった。陳思誠監督は、映画作品を見るのは初めてだが、彼が監督・主演をつとめた連続ドラマ『遠大前程』はものすごく面白くて、何でもありのサービス精神、ジェットコースターのような展開のスピード感に加えて、歴史と人情を大切にする作劇が大好きだったので、本作にも通じるところが多いように感じた。
本作に描かれる「東京」は、秋葉原のコスプレパレード、渋谷の交差点、全身刺青のヤクザ、大浴場、パチンコ屋、女子高生、相撲レスラー、剣道、東京タワー、レインボーブリッジ、打ち上げ花火など、ああ、なるほどね~と納得する「いまの東京」の魅力がてんこ盛りで、同時に、現実から少しズレた「虚構」であるところが面白い。
劇中では、超小型の自動翻訳機を耳につけているという設定で、日本語・中国語・タイ語・英語のセリフが飛び交う。これは虚構なんだけど、多様なルーツの人々が行き交う、現実の東京からそんなに遠くない気がした。コロナの影響で、そうした光景をやや忘れかけていたけれど。
日本人俳優は、癖があって魅力的な俳優さんを実に巧く使っていた。誰の趣味なのかなあ。ネタバレになるので詳しく書いていないが、染谷将太くんがよいし、六平直政さん、鈴木保奈美さんもよい。妻夫木聡さんは、中国語?タイ語?も堂々としたものだった。劉昊然(リウ・ハオラン)くんは、古装ドラマの悩める貴公子でしか見たことがなかったけど、こういう作品も楽しそうでよかった。日本人ファンが増えてほしいな。