見もの・読みもの日記

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唐代の書と仏像/名品抄 墨香耽美(センチュリーミュージアム)

2020-03-14 23:11:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

センチュリーミュージアム 『名品抄-墨香耽美-』(2020年1月6日~3月28日)

 新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、開館を続けているという情報を得たので、久しぶりに訪ねてみた。自分のブログを検索すると2013年の秋以来のようだ。ずいぶん行っていなかったな!(2013年当時は北海道に住んでいて、連休に東京の美術館めぐりに出て来たのだが、確かこの美術館に手帳を置き忘れ、翌日、慌てて取りに寄った記憶がある)

 今季の展覧会は、中国の書とその影響を受けながら確立された和様の書を、古筆・懐紙・墨跡などさまざまなジャンルの中にたどるもの。4階、5階に2つの展示室が設けられており、主に4階がこのテーマ展の会場になっている。展示室に入ると、他のお客さんは誰もいなくて、ほぼ文字ばかりの掛軸が並んだ静謐な空間だった。作品以外、余計な装飾バナーとか説明パネルがないのもよい。その代わり、1階の受付で貰った無料パンフレット(16頁)の説明が展示図録並みに詳しく、これを読みながら作品を見ていくと、とても勉強になった。

 たとえば『群書治要巻30断簡』は、かつて九条家が秘襲し、いま東博が所蔵する最古写本と一具と推定されるとか、『山城切(和漢朗詠集巻上断簡)』は、大阪住吉社の社家津守家に伝来した和漢朗詠集の断簡であるとか、私はこういう伝来情報を参照しながら作品を見るのが好きなのだ。もちろん「群書治要」や「和漢朗詠集」がどのような作品かという解説もあるし、書風の見どころ、筆者や成立時代の推定、それに釈文も添えられている。自分が学生だった頃に、こういう美術館があったら、もっと原資料を読めるようになっていたのではないかと思った。

 鑑賞用の書としては、冒頭の『貞観政要断簡』(唐時代)に惹かれた。もとは遣唐使がもたらした屏風に貼られていた色紙形の一枚ではないかと推定されている。それほど大きな文字ではないが、字間にも行間にも十分な余白があり、堂々とした王者の風格を感じる。特に「下」「千」などの縦棒の太さが力強い。中国の書では、環渓惟一の『偈』(宋時代)の少し右上がりの端正な行書も好きだ。江雪宗立筆『五大字』(江戸時代)は「地獄在目前」という横書きの大字で、禅宗らしい問答無用感がよいと思った。「地獄」がやたら大きく「在目前」が次第に寸づまりになっているのも好き。

 仮名の書は、蒐集者の趣味と見識だと思うが、連綿の美しさが目立った。古筆手鑑『武蔵野』に収められた「興風集」とか「大江切」とか。『香紙切(麗花集)』は、ところどころ横棒の筆画を長くしたり、カタカナを混ぜたり、連綿が切れそうで切れないのが面白くて魅力的だと思った。後半にほんの少し絵画資料があって、『三十六歌仙色紙』(角倉素庵賛、江戸時代)は人麻呂・小町・左近の3点が出ていたが、女流歌人の顔立ちが、現代の基準で見ても美人だった。

 5階は、藤原定信筆『戸隠切』(5行あり)や明恵さんの『書状』などもあったが、仏像の常設展示が主である。入ってすぐの木造の増長天像2躯(平安時代)は記憶のままで懐かしかった。窓の外のベランダに並んだ「特青砥」も変わっていなかった。平安・鎌倉の古い仏像はよく記憶していたのだが、『木造菩薩立像』(唐時代・9世紀)の存在はあまり覚えていなくて、今回あらためて注意を向けた。花を飾ったような宝冠、玉をつないだ瓔珞、左手は体の横で天衣をつまみ、右手は胸の前で蓮華の蕾を掲げる。技巧的には粗削りなところもあるが、若々しく華やかで朗らか。

 その隣りの『石造観音菩薩半跏像』(唐時代・8世紀)は、腰の細い逆三角形の体形でエキゾチックな雰囲気。『石像彩色菩薩頭部』(唐時代・7世紀)は、頭部だけだが髪型・宝冠の手の込んだ造形がよく分かる。赤や緑の彩色も残っており、パンフレットには「原彩色」とあった。都内で唐代の仏像が見たくなったらここにくればよい、ということが分かった。

 無駄なもののない、都心の隠れ家的な美術館。また行きます。


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