見もの・読みもの日記

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少年たちの夏/中華ドラマ『隠秘的角落』

2020-07-10 23:58:13 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『隠秘的角落』全12集(愛奇藝、2020)

 ネットの評判があまりに高いので見てみたら、現代劇を得意としない私もあっという間に引き込まれてしまった。少年少女を主人公にした犯罪サスペンス。たぶん今年の中国ドラマNo.1だと思う。まだこの作品を見ていない人は、以下の文章【ネタバレあり】など読まずに、とにかく作品を見て、驚き、怯え、震えてほしい。

 2005年夏、中国南部の(広東省らしい)のんびりした港町。少年宮で数学教師をつとめる張東昇は、妻の徐静を愛していたが、妻の心は離れ、妻の両親からは離婚を急かされていた。聞き分けのよい婿を演じる張東昇は、妻の両親を山登り観光に誘い、崖下に突き落として殺害する。

 同じ町に住む中学一年生(13歳)の朱朝陽は、数学が得意で成績はよいが内向的な男子。両親は離婚して母親と二人暮らしだった。その朝陽の前に、夏休み前の最後の日、幼い頃の友人・厳良が現れる。厳良は、父親が事件を起こして刑務所に入って以来、福利院(児童保護施設)で暮らしていたのだが、親友だという10歳の少女・普普を連れて脱走してきた。普普の弟は難病に苦しんでおり、手術には30万元の大金が必要だという。気晴らしに山に遊びに行った三人が撮影した記念写真(動画)には、背景に張東昇の殺人シーンが映っていた。

 朝陽は警察に届け出ようとするが、施設を脱走中の厳良と普普は警察を嫌がる。そして、殺人犯が少年宮の数学教師であることを知った三人は、普普の弟の手術代30万元を張東昇からゆすり取ろうとする。

 さて、朝陽の父親は別の女性と再婚し、幼い娘・晶晶と暮らしていた。ときどき朝陽を気にかけてはいるものの、比較にならないほどの愛情を晶晶に注いでいた。寂しい気持ちをうまく表現できない朝陽。正義感の強い普普は、紛れ込んだ少年宮で出会った晶晶を問いつめて反省を迫る。その様子を発見して慌てる朝陽。激昂した晶晶は、二人を脅かそうと窓枠によじ登り、足を滑らせて転落死する。誰にも言えない秘密を背負ってしまった朝陽と普普。

 晶晶の母親は、娘の死に関して朝陽の関与を疑う。しかし父親はそれを否定し、朝陽への愛情を思い出し、父と息子は久しぶりに心の通った時間を持つ。厳良は父親の所在を知っているはずの警察官・陳冠声を訪ねる。厳良の父親は、刑務所を出たあと、精神を病んで病院で暮らしていた。陳冠声は、厳良の保護観察人となることを決意する。一方、張東昇は、最初の殺人を隠蔽するための殺人を次々に重ね、次第に追いつめられて、少年たちとの距離を縮めていく。

 結末は、張東昇の死によって訪れた平和な新学期の始まり。陳冠声の家に迎え取られた厳良は「俺は勉強して警察官になりたい」と語って、陳おじさんを喜ばせる。朝陽は以前のとおり、母親の自慢の息子に戻って学校に向かう。朝陽のもとには普普からの手紙。普普は「少年宮の事件を私は誰にも言わない。でもいつか勇気を出して話すべき」と告げる。そして朝陽が、警察官の葉おじさんを伴って、晶晶の転落事件の現場検証をしているシーンで全編が終わる。

 私は初めこのシーンを見たとき、朝陽が「晶晶の転落現場にいた」という秘密を周囲に打ち明ける結末だと思った。殺人犯の張東昇は、少年たちに「お前たちも俺と同じように生きろ」という呪いをかけていく。張東昇が、一見さわやかな好青年なのに、実は若禿げでカツラ愛用者という、本筋にあまり関係のない設定をされているのは、「秘密」(嘘)を持つことの形象化ではないかと思った。朝陽が人に言えない「秘密」を持ち続ける限り、彼は張東昇のようになってしまう危うさを持ち続ける。だから、秘密を告白することでその呪いを解いたのだと思った。しかし、いろいろな考察・感想を読んでいると、真逆の解釈もあることが分かった。ドラマにおける晶晶転落事件の真相は、よく分からないのである。

 このドラマは、少年が父親に出会う物語でもある。厳良は実の父親に失望を味わうが、陳おじさんという新しい父親に出会う。朝陽は、実の父親の愛情を取り戻すが、その父は朝陽をかばって張東昇に殺される。父親を失った朝陽を守るのは、やはり警察官の葉おじさん。射殺された張東昇の姿を朝陽に見せないように、朝陽の顔を覆って連れ去るときの断固とした足取りに父性を感じた。このとき、朝陽の白いシャツが張東昇の返り血を点々と浴びている演出が残酷で美しかった。葉おじさんは、朝陽の同級生の父親でもあるのだ。これからも葉おじさんが傍にいてくれたら、朝陽は決して張東昇のようにはならないだろう。少年たちに比べると、普普の結末は漠然としていて、ただの狂言まわしのように感じられた。

 朱朝陽を演じた栄梓杉くん、実は『那年花開月正圓』の小杜明礼や『軍師聯盟』の小司馬師でも見ていた。これからの活躍が楽しみ。葉おじさんの蘆芳生は初めて現代劇で見たが、自然な演技でよかった。張東昇役の秦昊は、終始微笑みを浮かべ、礼儀正しく理性的な態度を崩さないのだが、ひとりになってカツラを外したときの別人のように陰険な表情がなんとも言えなかった。ドラマの陰惨さとは裏腹に映像は本当に美しい。伝統的な街並みと普及し始めたデジタル機器の共存、十分に豊かで、まだどこかのんびりしていた「あの頃」の生活感が画面に満ち満ちていて、外国人の私がいうのもおかしいが、懐かしい。

 ドラマがあまりにも面白かったので、いまネットで原作小説『壊小孩』を探し出して、読み始めている。私の中国語力で長編小説は無理と思うが、時間がかかってもいいから読んでみたい。もっと現代中国文学の翻訳を出してほしいなあ。日本の小説は、たくさん中国語に訳されているのに!


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2 コメント

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Unknown (jchz)
2020-12-29 09:45:44
コメントありがとうございます!
原作の小説は子どもたちのキャラクターがかなり違っているんですよ(途中で挫折)。

たぶん原作のままだと、主人公たちにあまり共感が得られなくて、これほど人気は出なかったんじゃないかと思います。

最後まで面白いので楽しんでください!
来年の日本上陸(wowowだっけ?)がとても楽しみです。
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Unknown (Unknown)
2020-12-28 21:02:00
今日これを見始めたんだけどヤバい面白い。
子供たち、全然坏小孩じゃないと思うんですがどう思いますか。。
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