見もの・読みもの日記

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古画の臨模と見極め/狩野派(出光美術館)

2020-02-20 23:16:49 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 『狩野派:画壇を制した眼と手』(2020年2月11日~3月22日)

 室町時代から江戸時代まで、400年にわたって画壇の中心に君臨した狩野派の豊かな絵画世界を紹介する展覧会。狩野派は、古画の模倣という実践的な訓練を重視した。そこで本展では、狩野派が間近に接した可能性の高い古今の絵画を、彼らの実作品と同じ空間に展示する。これはこれの模倣なのか!という、思わぬ関係性に気づいたり、初めて見る絵画も多くて面白かった。

 狩野探幽には、名画を縮小模写した「縮図」が多数伝わっているが、今回展示されていた『臨画帖』2帖は横長の折本仕立てで、かなり大きな画面だった。三角形に黒っぽい岩山の頂上から白い滝が流れ下る図を描いたものがある。上下が白い霞に隠れているようにも見えた。これの元絵が、伝・夏珪筆『瀑布図』(南宋~元代)で、黒っぽい岩山の上部がちょん切れた姿になっている。よく見ると、岩山に見えた黒っぽいかたまりは、岩壁の凹みを描いたものだった。そして、同じ図が、狩野惟信の『倣古名画巻』でも模写されているのを見つけた。

 また、探幽の『臨画帖』には、緊張感のある細い描線を駆使した『牛車渡渉図』(南宋時代)の模写もあった。模写のほうが描線がおおらかで柔らかである。え、これら全て出光美術館の所蔵?と思ったら、中国絵画2点は同館所蔵だが、探幽の『臨画帖』は違った(個人蔵?)。

 さらに雪舟の署名のある『倣夏珪山水図』(団扇形の画面に淡彩ののどかな山水図)も『臨画帖』に、いくぶん薄い淡彩で模写されている。この雪舟画も個人蔵らしく、解説には、長らく所在不明だったが、2017年に発見されたものという解説があった。

 ほかにも狩野派が見たとされる、めずらしい古画がたくさん出ていて、狩野派の作品以上に眼福だった。伝・銭選筆『鶏図』は、大きな爪が猛々しく、青みを帯びた羽根がリアルで怖い。相阿弥筆『腹さすり布袋』はどこかで見たような気がした。九博に同じ図様で伝・牧谿筆の作品があるというので、そちらかもしれない。または探幽がたびたび縮図に写しているというので、それかもしれない。伝・牧谿筆『杜甫騎驢図』もよい。省略された筆で的確に形を捉えている。足の細い驢馬が可憐で、詩人の気難しそうな表情が杜甫らしい。探幽の「添図」がまた可愛くて巧い。

 伝・王立本筆『鳳凰図』は室町時代の摸本だというが、明代絵画のあやしい雰囲気をよくつかんでいる。でもちょっと技術が及ばないかな。伝・顔輝筆『寒山拾得図』は、時代は下るがいちおう中国・明代絵画の認定を受けている。伝・牧谿筆『騎驢人物図』は室町時代の墨画。トボけた顔のロバが軽やかな足取りでかわいい。伝・梁楷筆『竹截図』(截竹図ではないのか)も室町時代の墨画で、すぐ原本を思い出せる。

 狩野派は「漢画」の学びに「やまと絵」を加え、レパートリーを広げていく。ここでは華麗な色彩で、四季の風景を装飾的に描いた屏風絵を中心に紹介。伝・狩野長信筆『桜・桃・海棠図屏風』はむかしから好きな作品である。

 最後に狩野派が古画の鑑定に果たした役割を検証するため、また狩野派以外の作品は並んでいた。伝・梁楷筆『猪頭図』(室町時代)は面白いなあ。最近は長谷川等伯筆で定着した『竹虎図屏風』も、探幽は「周文筆」と鑑定して、紙中に書き加えているのだな。『倣玉澗瀟湘夜雨図』と『芙蓉小禽図』は雪村筆と鑑定されているが、解説は疑問を呈している。ふだんはあまり目にすることのない「添書」や「外題」(〇〇筆という見極め付き)が一緒に展示されているのも面白かった。

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