見もの・読みもの日記

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音曲を愉しむ/文楽・近頃河原の達引、壇浦兜軍記、他

2014-01-16 23:28:32 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 新春文楽特別公演(2014年1月11日)

 大阪市から文楽協会への補助金をめぐるゴタゴタがあって、あれで技芸員のみなさんが本気になったと言われるのは心外だが、一文楽ファンである私の行動には、多少の影響を及ぼしている。東京で見られる文楽を、わざわざ大阪まで見に行こうとは思わなかったのだが、最近は積極的に大阪に遠征するようになった。大阪公演のほうがチケットが取りやすいのだ。

・第1部『二人禿(ににんかむろ)』『源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)・九郎助住家の段』『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)・新口村の段』

 今回は、朝、札幌を出て、神戸空港着。国立文楽劇場に直行する。到着したのは12:00少し前で、上演中に客席に入れていただき、ほんとにすいません。ちょうど『源平布引滝』の山場で、瀬尾十郎と斎藤実盛が九郎助夫妻に詰め寄っているところだった。木曽義賢の愛妾・葵御前が生んだ赤子の詮議に訪れた二人。ところが、生まれたのは「女の片腕」だという。荒唐無稽な拵えごとを、故事を引いて「そういうこともあるだろう」と言い繕う実盛。瀬尾十郎が去ってのち、実は九郎助夫妻の娘・小まんの片腕であると語る実盛。みるみる御座船の情景が浮かぶような語りの至芸。咲大夫さん、いいわ~。

 湖で引き揚げられた小まんの死骸が運ばれてくるが、源氏の白旗をあてると一時蘇生するとか、いけすかないと見えた瀬尾十郎が小まんの実の父で、孫の太郎吉に手柄を立てさせ、駒王丸(生まれたばかりの赤子)の家来に取り立ててもらおうと、わざと命を捨てるドンデン返しとか、ありえないんだけど、理性の深層で感動してしまう。こういうのが「古典芸能」の力なんだろう。この作品、『平家物語』の登場人物が総登場するようなストーリーなんだな(→あらすじ)。通しで見てみたい。

 『傾城恋飛脚』は、近代に通じる抒情に満ちた作品(脚本)。そして、蓑助さんの操る梅川も、近代的な女性の個と内面美を感じさせる。

・第2部『面売り(めんうり)』『近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)・四条河原の段/堀川猿廻しの段』『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)・阿古屋琴責の段』

 続けて、第2部も鑑賞。『近頃河原の達引』は、あ、猿まわしの出るヤツね、という知識があったくらいで、たぶん初見。玉女さんの猿廻し・与次郎がよかった。玉女さん、二枚目よりも、こういうコミカルな役に味わいがある。気性のまっすぐな伝兵衛、思慮深く誇り高い遊女のおしゅん。「人の落目を見捨てるを廓(さと)の恥辱とする」という科白は印象的だったけど、やっぱり有名なのか。笑わせながら泣かせる脚本が最高。三味線のツレ弾きはカッコよかった! 何より楽しませてくれたのは二匹の子猿を操っていた黒子さんなのだけど、プログラムには名前がないのね。

 ちょっと調べたら、おしゅん伝兵衛の恋情塚が、京都・聖護院塔頭の積善院準提堂にあると知って驚いた。もと崇徳天皇廟にあったために崇徳地蔵がなまって「人喰い地蔵」と呼ばれる石仏のあるお寺である(※訪問の記録)。『源平布引滝』と『壇浦兜軍記』に挟まれて、平家物語つながり?

 そして『壇浦兜軍記』の阿古屋琴責の段。これも内容は知っていたけど、面白いのかなあ、と疑問で見ようとしたことがなかった。結論をいうと、ストーリーよりも、とにかく耳に面白い。琴、三味線(ツレ弾き)、胡弓の演奏で、目まぐるしく(耳まぐるしく?)楽しませてくれる。特に胡弓は、ほかの演目で、物憂い雰囲気を醸し出すBGMとして(御簾の内で)使われるのは聴いたことがあったが、この作品では、床に出て顔を見せて演奏する。その音色の華やかでスピーディなこと。馬頭琴みたいだと思った。「三曲」は鶴澤寛太郎さん。脇役に徹し、無表情を通しているのがカッコいい! 第1部は下手の端(けっこう前方)で人形の所作がよく見え、第2部は上手の床に近い席だったのもラッキーだった。

 「阿古屋琴責め」は、為政者(人の上に立つ者)の良し悪しを、さりげなく示してもいる。文楽補助金は減額されるのかもしれないが、誰の汚点として歴史に書かれるかは明らかなことだと思う。
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