去る2月中旬のこと、1通の興味あるメールが飛び込んできた。
福岡市在住の「S木」さんという方で「突然のメールをお許しください」の書き出しで、大要次のとおり。
AXIOM80(アキシオム80)で検索していたところ偶然に貴兄のブログを発見しました。現在、AXIOM80の音色に惚れ込み愛聴している一人であります。
稼働させるアンプには苦労しながらも、現在は、英国MAZDA製のPP5/400を出力管に、同じく英国PARTRIDGE製のトランスを使用した、シングルアンプで何とか落ち着いています。
ドーム型のPX25にも差し替えてたりしておりますが、やはりナス管の方が、暗さの中にも渋く艶のある英国らしい音がして、AXIOM80には相性が良いように感じております。
大分にお住まいの様ですが、我が家も福岡にございます。後にも先にもAXIOM80の音は我が家のものしか聴いた事が無く、本来の音色で鳴っているのかどうかも良く判らない状態であります。
もし福岡にお出でになられる事などがございましたら、ぜひ我が家の音色もお聴きいただいて、ご評価などいただければ幸いでございます。
まったく「涎(よだれ)」が出てきそうな話である。
アキシオム80はたいへんデリケートなSPユニットなので物凄くアンプを択ぶ。出力菅や出力トランスの良否などいっぺんに照らし出すが、この方は使っている部品がすごい。
まず、出力菅の英国製「マツダPP5/400」は数あるPX25類似管の中でも「最高峰」と言われている真空管。PX25の愛好家にとっていわば垂涎の的の「幻の真空管」でオークションにもまず出ないし、出たとしても無茶苦茶に高価になることだろう。
自分もこれまで噂には聞いているが、もちろん試聴したことはない。
それに、出力トランスも英国の定評ある「パートリッジ」。アンプとスピーカーが英国製の部品で統一されているというのもポリシーが感じられる。
早速、メールでやりとりしたところ、現在は他県に単身赴任されているそうで滅多に福岡の自宅には戻られないとのこと。
そして数回のやりとりをするうち、3月末頃に福岡の自宅に戻られるのでそのときによかったら「ご訪問を」という話になり、結局訪問日を「3月31日〔水)」に決定。
3週間ほど前だったが湯布院のA永氏をお誘いするとご快諾で「一緒に行きましょう」という話になって、いよいよ待ちに待った当日に。
天気が下り坂の「曇り」のなか、別府を12時20分に出発。途中でA永氏と合流。
教えていただいた住所を番地まで打ち込んでカーナビを頼りに進んだところ、ピッタリ1時間50分後にご自宅から100mの範囲内に行き着いた。「S木」さんと携帯で連絡を取り合って見事に合流。
福岡市内中心部の閑静な住宅地に大きくて瀟洒な鉄筋コンクリートづくりの建物で見るからに音楽鑑賞に最適で「SN比」が良さそう~。
S木さんは落ち着いて穏やか、実に気さくな方で初対面のかた苦しさは毛頭感じられない。
早速、リビングルームに設置されている装置の前までご案内される。部屋は明らかに「ライブ」といった環境でスピーカーとの距離はそれほどでもないが天井が高いので狭苦しい感じがしない。
まずは音出しの前に装置の概要をお聞きしたが、当然「アキシオム80」への”こだわり”が中心。
学生時代に「オーディオセンター」でアルバイトをした経験からタンノイやJBLなど沢山のSPを試聴する機会があったが「こんな音のどこがいいのだろう」と、まったく心を惹かれず、たまたま知人宅で聴かれた「アキシオム80」の音色にほれ込み譲ってもらったとのこと。
「このSPを聴くと、もうほかのでは満足できません」とおっしゃるが、自分もその魔力に魅いられた同類項なのでよくわかる。
感性が同じような方と話すとキャッチボールがしやすいので実に心地よいが、アキシオム80の使い方には二通りあって、単独で鳴らすやり方と、自分のように低域を別のSPユニットに任せて中高域だけ使うやり方がある。
S木さんの場合は前者の使い方で、容れてあるボックスのほうはオリジナルのグッドマンのもの。
単独で使う場合は、低域の音声信号を沢山入れるわけにはいかないので聴く対象も室内楽やボーカルが中心となる。
さて、早速「女性ボーカル」を聴かせてもらったが何という抜けのよさ。やはりアキシオムに共通する音だが透明感がことのほか抜群で、中高域の澄み具合は我が家よりも明らかにクオリティが上ではないかと正直思った。
ヒラリー・ハーンのヴァイオリン・ソロ「プレイズ・バッハ」では、「低域の出具合が気になりますがこの程度ですか」と気にされるので、このCDは低域の音声信号が入ってないので「我が家でもこの程度ですよ」と返答。
S木さんのご友人が試聴されるときは「聴取ポイントに座り込むともう動かなくなってなかなか帰ろうとしない」とのことで「さもありなん」。
やはり「PP5/400」は期待どおりで凄かったが、総合的には出力トランスも含めたアンプの品質の成果だろう。このアンプ(モノ×2台)は英国人の専門家の手になるもので世界で4セット作られたうちの1セットで、1997年の世界のアンプ部門でグランプリを獲得されたそう。
シンプルで見るからに「いい音」が出そうなアンプだが1台の重さが30数キロで納得。初段の真空管はオスラムの「MHL4」で、初段菅はやっぱりミニ管よりも大きな管のほうがしっかりした音が出るみたい。オークションでいくら探してもないのが悩みの種だそう。
しばらく聴かせてもらってから、かねての予定どおり持参したPX25の類似管「テスラのRD25A」と軍用の「VER40」を差し替えてもらって比較試聴させてもらうことに。
やはりガクンと差が出るようで、高域の抜けとか透明感が随分と違う。まるでアンプを取り替えたみたい。自分としては”がっかり”の一幕だが、ただし、我が家の場合は低域と一緒に鳴らしているので中低域の厚みとかの面でクロスオーバー部分の”つながり”はいいかもしれないなんて思ったりした。
それにしても「PP5/400」にはまったく脱帽。自分も欲しくてたまらないが入手はまず無理なので、どこか高齢の持ち主を捜し出して、亡くなって家人が哀しんでいる隙に”かっぱらってくる”ほかはない!
不謹慎で物騒な話だが、この話は五味康祐さんの名著「西方の音」に出てくるが、それほどに「いい品物」とは個人の執念によって次代へ引き継がれていくという”たとえ”。
オーディオ談義に話が咲くうちに時間があっという間に経っていく。大都会のラッシュ時のクルマの洪水は田舎の人間にとって「恐怖の的」以外の何物でもないので、名残惜しかったが「別府と湯布院の方にも是非出て来ていただくよう」お願いしながら17時前に帰途についた。
帰りの車中でA永さんともども「今日は大きな収穫だった。ああいう音なら一日中聴いても、疲れないし本当に魅力的。
しかし、さらに低域に目がいきだすといよいよ本格的になる。S木さんはまさに"オーディオの迷路”の入り口に佇んでおられる状態。
ここで、踏みとどまるのもいいし、思い切って前進するのも自由だし・・・」と語り合ったものだった。