CD番号 469820-2(8枚組セットのうちの1枚)
レーベル ドイツ・グラモフォン
指揮者 コード ガーベン
管弦楽団 北ドイツ放送交響楽団
曲目 モーツァアルト・ピアノ協奏曲13番(K.415)
演奏者 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(ピアノ)
(イタリア:1920~1995)
モーツァルトのピアノ協奏曲は全部で27曲あるが、通説では、大きな飛躍を遂げたハ短調の20番を境にしてそれ以降の作品と19番以下とでは質的に大きな開きがあるといわれている。
じぶんも、これまで20番以降は随分愛聴してきたが、19番以下は全くといっていいほどのノーマークで、手持ちではアシュケナージの弾いた18番、19番を持っている程度だった。
ところが、通説とはまことに当てにならないもので、つい最近13番を付随的に手に入れて聴いてみたが思わぬ収穫だった。実に叙情味があって20番以降と遜色がないほど美しい。特に第2楽章は、詩情味溢れる世界が繰り広げられる。
この13番はK.415で、あの名曲の誉れ高い「フルートとハープの協奏曲」はK.299であり、単純に年代順とモーツァルトの成熟度との比例度からいえば、この13番が名曲であっても少しも不思議はないのだが、どうやらこの「13」という比較的若い番号に幻惑されていたようで、やはり、モーツァルトの音楽に先入観は禁物だった。
ただし、どんなに名曲でもピアニストによってこうはいかないことは明らかで、ピアニストのミケランジェリだからこそ可能に出来た表現の世界だと思う。
ミケランジェリはあのホロヴィッツやリヒテルに並び称される大ピアニストだがミスタッチが非常に少ないことでも有名で、ライブでもその真価が十分に発揮される。
この録音もライブだが、それが実に功を奏しており観衆との一体感の中で生命感が吹き込まれたようなみずみずしいピアノの音がホールトーンの中で実にきれいに流れていく、特にピアニッシモの美しさは格別だった。オーケストラもピッタリ寄り添うようで息が実にピッタリ合っている。
ミケランジェリの魅力については「ピアニストが見たピアニスト」(青柳いずみこ:白水社)に詳しく記載されているが「楽器に何か細工をしているようなこの世ならぬ神秘の響き」の秘密は「ドからソまで届く巨大な左手と並外れた聴覚のなせる技」とある。
とにかくピアノという楽器の表現力には今更ながら魅了され、やはり楽器の王様であるとの感を深くした。
ところで、ピアノの場合は演奏家とピアノと調律師は三位一体の関係にあるといわれているが、ミケランジェリの調律は一時期日本人の村上輝久氏があたっていた。ミケランジェリとの出会いから彼の演奏旅行に同行していく経緯は「いい音ってなんだろう」(刊行:2001年、(株)ショパン)に詳しい。
67年のドイツの新聞紙上で「全てのピアノをストラディバリウスに変える東洋の魔術師」とも報じられるほどで、ミケランジェリ以外にもリヒテル、ギレリスといった錚々たる巨匠に重宝され、まつわる裏話も面白い。