「ここのシステムは来るたびに、しょっちゅうどこか変わってるなあ!」と、忌憚なくおっしゃるオーディオ仲間がいるが、実際その通りだからまったく反論の余地がないところ。
しかし、そもそも、しょっちゅう変わるのがはたしていいことなのか悪いことなのか?
ネガティブに考えれば、移り気でじっくりと腰を据えて音楽を鑑賞していない証拠である、一方、アクティブに考えれば日頃から怠りなく熱心にオーディオ研究に励んでいるということになる。
まあ、一般的には音楽をないがしろにした「音キチ」はあまり好ましいことではないが、自分の場合は音楽優先の気持ちはいっさい失っていないので許してもらおう(笑)。
まあ、そういうわけで頻繁にシステムの一部を変えていて、そのたびにテスト盤としてボーカルを使っている。生物学的にみて人間は人の声を聞き分けることに非常に長けている。これはヴァイオリンやピアノの楽器の種類の比ではない。
ストラディヴァリウスやグァルネリ、そしてスタンウェイやベーゼンドルファーの音を聴きわけるよりも、人の声を特定できる方が生存していくうえではるかに有利だから。
そういうわけで、システムの変化の度合いを調べるために日頃から「美空ひばり」ちゃんや「ちあきなおみ」ちゃんを聴くことが多いが、このほど、たまにはクラシックをと「フィッシャー=ディースカウ」(ドイツ:バリトン)の「菩提樹」(シューベルト)を聴いたところ、一瞬にして場の空気が変わったのには驚いた。
思わず背筋が伸びて姿勢を正した。「これぞクラシック」と身じろぎもせずにしばし聴き入ったが、やっぱり音楽の深みがまったく違うなあ。久しぶりに感涙!
この「菩提樹」は娘が持っていたCD「ヴォーカル大好き」(オムニバス盤)の3曲目だが、これはたしかディースカウにとっての代表的な名盤とされるシューベルトの歌曲集「冬の旅」の中にも収録されていたはずだがと、探してみると5曲目にあった。
そういうことから、今度は「冬の旅」(全24曲)を久しぶりにじっくりと腰を据えて聴いてみた。シューベルト晩年の内面告白とされるこの曲集は彼の恵まれなかった人生を象徴するかのように実に暗い。しかし、その中にもじわっと心に沁みわたってくる独特の優しさと慰めがある。
ディースカウはこの「冬の旅」を7回に亘って録音しているが、手元の盤は彼の声が「美しさと表現力のピークにあった」とされる1965年の3度目の録音のものである。
「冬の旅にはただ叙情的な接し方をはるかに超えたものが必要です。ドラマにも匹敵する、そしてドラマをも含む感情の全てを尽くすことが必要です」(ディースカウ談)
聴けば聴くほどに惹き込まれてしまう名曲・名盤である。
ところで、前述のように「一瞬にして場の空気が変わった」と書いたが、ふと菅原昭二さんの名著「ジャズ喫茶ベイシーの選択」の中にも似たような表現があったことを思い出した。
書棚から引っ張り出して初めの頁から読み進めていくと、ようやく163頁(単行本)に該当箇所が出てきた。抜粋させてもらおう。
『最初のレコードは、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」をかけた。1961年録音のビル・エヴァンスのこのレコードは、演奏もさることながら、「録音」が素晴らしく、おそらく、ピアノ・トリオの「ライブ」録音の最高峰といってよいものだ。A面1枚目のマイ・フーリッシュ・ハートの冒頭のピアノの二音が、空気をいきなりニューヨークのヴィレッジヴァンガードの店内に変えてしまう・・・・。かけると一瞬にして空気が変わる!これがよくできたライブ・レコーディングのレコードを聴く醍醐味でもあるが、これはその中でも格別のもので、まァ、N0.1と言ってもよいだろう。』
「ワルツ・フォー・デビー」を知らない人は(ジャズ・ファンの中では)モグリと言ってもいいだろうが、良くできたレコード・システムで聴くと雰囲気の伝わり方も“ひとしお”だろうなあと、およそ想像がつく。
そういうわけで、今度は久しぶりに「ジャズ喫茶ベイシーの選択」を読み直したわけだが、菅原さんはJBL「375」ドライバーに当初は537-500(蜂の巣)のホーンレンズを付けていたが、すぐに537-512のウィング型ホーンに変えられたと書いてあった。(32~33頁)。
JBLの生き字引とまで言われる菅原さんほどの方があっさり蜂の巣ホーンを見限るとは驚いた。個人的には蜂の巣ホーンは「375」にはベストのホーンだと思っているが何せ「高嶺の花」でまったく手が出ない。そこで我が家の「375」にはやむなく「ウッド・ホーン」を使っている。
しかし、第三システムで現在JBL「LE85」ドライバーにHL87ホーン(小型蜂の巣)を付けているものの、ホーンスロートと小型のウィング型ホーンも別に持っている。
そういうことなら、我が家も小型蜂の巣ホーンから付け替えてみようかなあ。
今回は「ネットサーフィン」ならぬ、「音楽&オーディオ」サーフィンだったが、おかげで愉しみがまた一つ増えてしまった(笑)。