数ある楽器の中で弦楽器に次いで好きなのが管楽器だが、これを効果的に使う作曲家といえば私感で言わせてもらうと、ワーグナー、マーラーそしてモーツァルト。
モーツァルトはクラリネット協奏曲をはじめ、フルート、ファゴット、オーボエの各協奏曲ともそれぞれのジャンルの代表的な名曲として今でも君臨している。
そして、この中で一番琴線に触れる楽器といえばオーボエだ。何とも表現できない優雅な音色にいつもウットリさせられる。
オーケストラの演奏会では周知のとおり、演奏が始まる直前にオーボエがまずラの音(A音=標準音)を鳴らし、それに合わせて次々と各楽器がラの音を響かせて、オーケストラ全体の音を合わせていくが、なぜオーボエが最初の標準音を担当するのだろうか?
本題ではないし、長くなるので省略(笑)。ネットに詳しく書いてありますので興味のある方はそちらをどうぞ。
さて、このほどN響のオーボエ奏者の「茂木大輔」さんの著書「続オーケストラは素敵だ」に出会った。
とても面白かった。著者は音楽家にもかかわらず筆力の冴えにも恵まれておられ何よりも文章にリズムと展開力があって、どうやら「天は二物を与える」ものらしい。思わず熱中して瞬く間に読み終えた。
内容のほうも、自分のような楽譜の読めない素人はもちろん音楽評論家でさえも”うかがい”知れない演奏者の視点からの音楽論がなかなか新鮮。
一番興味を持てたのは、「オーケストラ〔以下、「オケ」)の一員からみた指揮者論」だった。
「悪いオーケストラはない、悪い指揮者がいるだけだ」という有名な言葉があるが、オケと指揮者の関係を赤裸々に綴っているのが出色。
学生時代に「指揮者なんてものはただの飾りに過ぎないのに演奏会でもレコードでもたいへんに大きく扱われ舞台でも一番偉そうにしているのはなぜなんだろう?」というご本人の素朴な疑問がまず出発点。
そして、実際にオケで演奏するようになってから「素晴らしい指揮者もそうでない指揮者も両方体験して」具体的な指揮者論が次のとおり展開される。
1 まずテンポが違う。指揮者の基本的な仕事は「拍」を示すことでそれが最も顕著に影響するのはテンポ。このテンポほど音楽の表情を変えてしまうものも外にはない。
2 次に指揮者の動作による音楽の構築。舞台の上でどっちを向いているか、動作全体の大きさ、特に左手はどうしているか。人間は不思議なものでこっちを向かれると思わず真剣になる。また、自分のほうに手をかざされると自然と音は小さくなる。
3 N響定期公演にはそれぞれ3日間午前午後2時間ずつのリハーサルが予定されており、この使い方が指揮者の力量によって大きく違う。」 というわけでサバリッシュ、シュタイン、デュトワといったN響の名誉指揮者たちが続々と出てきて練習の仕方が紹介されるがそれぞれ個性的で各人各様なのが面白い。
以上のとおりだが、指揮者論になるといつも出てくるのが、文学、絵画、彫刻などと違って音楽は(楽譜が大元になっている間接芸術なので)指揮者(演奏者)の数だけ作品があるという話。
これが果たして芸術としていいことなのか、悪いことなのか速断できないが、多様性を楽しめるという点では間違いなくいい。
第一、選択肢が増えるし、それに音楽もオーディオも「標準=物差し」のない世界なので比較することで、より本質に近づけることができるのはたしかである。
たとえば、自分の場合大のお気に入りのモーツァルトのオペラ「魔笛」をCD,DVDなど全部合わせて50セット近く手に入れたおかげで、好きなイメージにマッチした演奏を発掘できたし、その過程を大いに堪能出来たのはありがたかった。
最後に、本書を離れて往年の指揮者「シャルル・ミンシュ」の著書「指揮者という仕事」に「オーケストラ楽員は指揮者に何を期待するか」というアンケート結果があるのでその一部を紹介して終わりとしよう。
☆ 音楽について際立った解釈をして楽員を奮い立たせること。
☆ ソロ(単独演奏)が、りきまないでもはっきり聴き取れるようにオケのバランスをとること
☆ 明瞭なビート(拍子の指示)は基本的な役割
☆ 本番中に事故(演奏者が思わず犯すミス)が起きても気づかない振りをすべき。〔笑)
☆ トスカニーニの時代は去ったことを悟るべきだ。芸術上の独裁者は良くない。
☆ 指揮者は最小限の「発言」で意思伝達が出来るように。トスカニーニは実に非凡でそれをバトンテクニックの技のうちに秘めていた。
☆ リハーサルで奏きそこないがあるたびに冒頭に戻る習慣は、楽員たちの反感を買うだけだ。
☆ 奏者と楽器の両方の能力と限界を知っている専門家であるべき。
☆ 教師であり、指導者であり、最高の専門家であり、そして音楽史上の偉大な作曲家たちの最も深遠な思想が通り抜けねばならない煙突である。
「指揮者=煙突」説はユニークだと思う。
長い、短い、直径が大きい、小さいなど様々な煙突の形状の数だけ指揮者がいるし、それぞれに曲目に応じた個性があって簡単にいい悪いが決めつけられないところに妙味がありそうだ。
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