このほど、およそ1か月半ぶりくらいに我が家に試聴にお見えになったオーディオ仲間のKさん(福岡)。
Kさんはアメリカの「71 → 45 → 50 → 2A3」系統の古典管やSPユニットのローサーやグッドマンをこよなく愛される方だが、音を良くする方法についても日頃からいろいろと示唆を与えていただいている。
それに加えて試聴の際に持参されるCDが実にバラエティに富んでいて、いつも楽しみ~。
今回は持参されたCDを中心に振り返ってみよう。
はじめに歌手の「加藤登紀子」さん。
「彼女の繊細なビブラートがかかった声を十全に再生できるかどうかはシステムの能力如何にかかっています。つまらないシステムだと何の変哲もない歌手になってしまいますから他家を試聴するときのテスト盤にはもってこいですよ。」と、Kさん。
「いやあ、本当にしんみりと聴きこませる歌手ですねえ。微妙な声の震わせ方が絶妙で、聴いているうちに思わず哀愁の世界に引きずり込まれてしまいます。通常の歌謡曲の歌手として簡単に括れる存在ではないですね。」と、今やゾッコン。
使ったシステムはCDトランスポート「ヴェルディ・ラ・スカラ」(dCS) → DAコンバーター「エルガー プラス」(dCS) → パワーアンプ「71Aプッシュプル」 → スピーカー「フィリップス」
次にムラヴィンスキー指揮の「悲愴」(チャイコフスキー)の登場。
ボーカルでいかんなく実力を発揮した「フィリップス」がオーケストラになると途端にやや色褪せてしまう(笑)。
そこで今度はグッドマンの「AXIOM150マークⅡ・イン・ウェストミンスター」の出番となった。
「やっとウェストミンスターらしい大型スピーカーの本領が発揮できましたね。低音域が締まっていて音声信号への追従性がとてもいい感じです。これならどんなソースでも対応できますよ。これまで聴かせていただいたウェストミンスターの音ではこれがベストです。今だから言えますけど、ウェストミンスターはそもそも箱のツクリに問題があるそうですよ。」と、Kさん。
「購入してからもう20年以上になりますが、このエンクロージャーとユニットにはほんとに苦労しました。どうしても好みの音が出てくれないので内部の構造を変えたり、ユニットをトッカエヒッカエしましたがようやくグッドマンの150マークⅡで落ち着きました。それでも、弦楽器はいいんですけどピアノの再生となるとまだ不満なところがありますけどねえ。」
次のCDはやおらカバンから取り出された「マタイ受難曲」(クレンペラー指揮:輸入盤)。バッハとは相性が悪くて犬猿の仲ということを知っていて、こういう嫌がらせをするのだからKさんも底意地が悪い(笑)。
小池都知事が念仏みたいに唱えている「都民ファースト」ならぬ「お客さんファースト」なのでお望みどおり3枚セットのCDの内、最後の3枚目を試聴。
「アレッ、なかなかいいですね!いつも1枚目や2枚目を聴いてどうも“線香臭くて”アカンと放り出していたのですが、これならそこそこ聴けますよ。」
「マタイの聴きどころは何といってもラストの方ですよ。私はいつも3枚目しか聴きません。シュワルツコップの訥々とした歌い方にはいつも魅了されます。」
ちなみに我が家にもクレンペラー指揮の「マタイ受難曲」があるが、国内盤だった。参考までにKさんの輸入盤と聴き比べてみたがやはり微妙な違いがあった。国内盤はやや音が間延びした印象がする。丁度レコードの回転をちょっと遅くした感じで、Kさんも同様のご感想だった。
次に往年の名ヴァイオリニスト「エルマン」(1891~1967)のご登場。「粘っこく、重厚でヴィオラやチェロの響きを髣髴とさせる」音色は俗に「エルマン・トーン」と称されたという。
ヴァイオリンの独演ともなると、さすがにグッドマンの「AXIOM300」の出番となる。ここからDAコンバーターが変わっていつも繋いでいるのはワディアの「27ixVer.3.0」なので、まずこれで聴いてみた。
CDトランスポート「dCS」 → DAコンバーター「ワディア」 → パワーアンプ「PX25シングル」 → スピーカー「AXIOM300」
エルマンのふくよかで柔らかいヴァイオリンの音色が何とも麗しい。昔のモノラル録音なので、かえってそれが功を奏しているようだ。
しばらくエルマンを堪能してから、今度は「AXIOM300」でオーケストラを試したくなって再び「悲愴」の登場。
しばらく「PX25」アンプで聴いてみたが、ここで話題沸騰中のデモ用の「6FD7」アンプに交換してみた。テレビ用の真空管を使ったミニアンプだが見かけによらず凄い実力の持ち主である。
「何ですか、これは! ウェストミンスター以上の低音が出るじゃないですか。」と驚かれるKさん。
PX25アンプの中高音域の艶のある音色はさておいて、中低音域のエネルギー感に関しては「6FD7」アンプの方が上だった。
ふと思いついて「ここで実験をしてみましょうか?」と提案。
DAコンバーターの「dCS」(イギリス)と「ワディア」(アメリカ)の英米対決である。
デジタル機器の分野では長らく隆盛を誇ってきたワディアだがdCSの登場によって「奈落の底に突き落とされた!」と揶揄されたほどの両者の関係だが、実際に目の前で試聴して比較するに如くはない。
その結果だがワディアはアメリカというお国柄を反映しているせいか陽気さ、伸び伸びとしたおおらかさになかなか捨て難い味があった。
一方dCSの方は細かい音をよく拾うなど緻密な再生に関しては一枚上だが、やや神経質な傾向が垣間見える。
「dCSはデジタルっぽい、ワディアはアナログっぽくて対照的ですね。」(Kさん)と評されるのも仕方がない。全体的に「ワディア」の善戦が目立ち、2倍近い値段ほどの差は感じられなかった。
ただし、使ったパーアンプが「ワディア」とはことのほか相性がいい「6FD7」アンプというアメリカ勢同士だったので、少し割り引く必要があるのかもしれない。
5時間ほどの試聴を終えて辞去されるとき、「これまでに比べると格段に音が良くなってますよ。」
現役時代と違って、音楽&オーディオに没頭する時間が長くなったので、音が良くなって当たり前なのかもしれないが、いろんなお客さんがお見えになって他流試合をしているので、きっとそれが一番功を奏しているに違いない。
つい最近のブログにも記したように「プレイヤーは審判役を兼ねてはいけない」のだ(笑)。