オーディオ装置の中でアンプはスピーカーに次いで重要な機器。
たとえて言えばスピーカーが人間の容姿を表すとすればアンプはそれに魂を吹き込む役目などといわれている。
そういう大切なアンプにもいろんな種類があるが、大きく分けるとデバイス(素子)の違いで、真空管とトランジスター(以下、TR)に分けられる。
この二つのうち果たしてどちらが音の再生に適しているか、これはほんとにオーディオ愛好家にとっては古くて新しいテーマで悩むひとつのポイント。
それぞれに一長一短あって論争は尽きないが結局のところ、使用しているSPの能率や個人の好みの差による使い分けになっている。
とにかく、昔TRアンプが発売されたときは、もうこれで真空管の時代は終わりだといわれたもので、物理特性がトランジスターに比べて数段落ちるし、出力も小さくスピーカーを駆動する力も弱い。
ところが、どっこい真空管はしぶとく生き残って現在でも息を吹き返すまでにはいかないが、一部のファンを魅了しながら命脈を保っている。真空管の供給先も現在では中国製を始めチェコなどのヨーロッパ系も生産していてことかかない。
果たして真空管のどこがいいのかというわけだが、愛用者の立場で言うと、中域から高域にかけてのあの鮮度の高い瑞々しさと独特の艶のあるビロードのような滑らかさが何ともいえず、この味はTRからは出ないのでやむなく使っている。別に懐古趣味ではなく音がいいのでという以外にない。
しかし、当然弱点があってその第一はダンピング特性が良くない。つまり、音の立ち上がりというかSPユニットの収束がいまひとつ非力でこればかりはTRアンプに比べてどうしても見劣りする。とくにこの現象は膨大なエネルギーを要する低域において顕著に表れる。
結局、真空管は低域に弱いが中高域に強い、トランジスターは低域に強いが中高域に弱い、こういう構図が成り立つ。
自分の場合、これまで、低域、中域、高域に音色の統一感ということもあってそれぞれの帯域ごとに真空管アンプを使用してきたが、今回、低域に限って分解能の改善、歯切れのよさなどが欲しくなり、この辺で気分転換も兼ねてTRアンプを導入してみようと思い立った。
とはいっても、何も真空管を追放するわけではなく、そのときの気分によって使い分けようという算段。
ずっと以前に、友人のマッキントッシュのTRアンプを借りて低域に使用したことがあるがこのときは中高域の真空管との音色が合わず断念したことがあるので今回は二度目の挑戦になる。
気に入った音になるかどうか、やってみなければ分からないが、(中高域の)真空管と相性のいい音色のTRアンプなんてそうざらにはない。じっくりと検討した結果、真空管時代に製造された昔のアンプが良かろうということで目を付けたのが、ケンウッドの非磁性体アンプ「L-01A」というアンプ。
このアンプは1979年発売だから約30年前の製品で当然のごとく現在では販売されておらず、オークションが唯一の狙い目。当時の人気製品で、価格は27万円。現在に換算すれば100万円程度だろうか。今でも年間に3~5台出品されているほどのなかなかの人気機種で、程度のいいものであれば約6万円が相場。
オークションで探したところ1台だけあって、8万円で出品されていた。ちょっと相場より高いが、完動品とあって随分程度がよさそう。急いでいたこともあり、仕方なく入札したところ、何と落札期日までに8人もの入札者が入り乱れ、結局意地を張って9万7千円という高値で自分が落札(4月9日23時30分)。随分高くついてしまったが、競争心理というものは見境がつかなくなって我ながら恐ろしくなる。
アンプ到着後さっそく電気技術に堪能な仲間のMさんに頼んで、プリメイン・アンプ形式を、諸悪の根源であるボリュームなどを外してメイン・アンプ形式へと内部を改造してもらった。
点検したMさんによると修理歴が2回あり、最新のものがメーカーによる2004年の修理。こういう年代もののアンプになるとむしろ修理歴がないよりもあったほうがベターだし、それも比較的近年の修理なので逆に一安心。
しかし、一つ問題点があって、本体部分は異常なしだったが、電源部のほうがヒューズを取り外して普通の電線を勝手に挿入するなど随分粗っぽくて危険極まりない改造をしていたそうで、やはりオークションでの中古のアンプはコワい。メカに自信がないと手を出さない方がよさそうだ。
さて、4月15日(水)に改造後のアンプの試聴をMさん立会いのもとに行った。試聴盤は「ちあきなおみ全曲集」。
ちあきなおみ L-01A本体 L-01A電源部
日頃ほとんどクラシックを聴いているが、装置を入れ替えたときのテスト盤としては彼女の歌声が最高。Mさんも同感とのことで、声質の微妙な陰影がほかのどの歌手よりも素晴らしく音質の微妙な判定にピッタリ。
低域の周波数の上限を従来どおり330ヘルツ付近に定めて聴いたが、期待どおりでやや心配していた中高域の真空管の音質とのマッチングもいいようだ。低域の分解能、質感と量感ともに違和感がなくどうやら及第でほっとした。電気信号に素直に反応する印象で、奥深いところでさりげなくドンドンという低音が鮮明に聞分けられ、やはり100ワットの出力の裏づけは頼もしい。
とはいっても、プラスもあればマイナスもある世界なのでこれからいろんな調整が待っているがこれでしばらくは真空管アンプの出番がなさそう。
とりあえず、手っ取り早く出来る範囲から次の箇所をいじって整合性を図ってみた。
1 ちあきなおみの歌声で「サシスセソ」の音が目立って刺激的すぎるので高域用のアンプの真空管をゴールデン・ドラゴンの4-300BCからWE300Bオールドに復帰。
2 機器を結ぶケーブルの見直し
(1) アッテネーターとパワーアンプを結ぶケーブルの入れ替え(低域と中域)
(2) ワディア270(CDトランスポート)とワディア27ixVer3.0(DAコンバーター)をつなぐケーブルを、これまでのバランスコード(PADドミナス)から、ワディア・オリジナルのSTケーブル(グラス光ケーブル)に変更。音質にナチュラルさが出てきて随分の変わりよう。それも、アースがらみの関係でバランスコードをすっかり機器から取り外してしまうのが条件だがこれは大収穫だった。
以上のとおり、低域用のアンプ1台を替えただけで音質全体、とくに高域の音まで変わってくるのにはいつものことながら驚く。
”オーディオは摩訶不思議”の世界であり、現象面ばかりが先行してとても理論が追いつくのが難しいことを再確認した。