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♪「ねこのばば」畠中恵著 新潮文庫
「しゃばけ」「ぬしさまへ」と続く「妖(あやかし)」シリーズの第三弾。
最初の「しゃばけ」から、面白く読んだけど
三作めの「ねこのばば」は、やっぱり一番良い出来だ。
江戸の廻船問屋兼薬種問屋の若だんな一太郎は、病弱で寝たり起きたりの18歳。
いつも二人の手代にあれやこれやと面倒を見てもらいながら、生活している。
この手代の仁吉と佐助は、それぞれ白沢、犬神という妖怪。
そのほかにも若だんなの部屋にはいろいろな妖が出入りする・・・。
シリーズ一作目の「しゃばけ」と較べると、ストーリーが成れてきて
登場人物の輪郭もしっかりしてきた。
そのため話しの幅が広がって、江戸人情噺の趣を呈してきた。
もちろん、若だんなの謎解きもますます冴えてきたし
妖たちとの軽妙でコミカルな掛け合いも楽しいのだが
じわりと心に沁みるエピソードが心憎い。
特に最後の「たまやたまや」なんて、読み終えた瞬間に目頭が熱くなった。
若だんなの幼馴染の妹が嫁ぐことになった。
お春は若だんなに想いを寄せていたが
こちらは、妹のようにしか見れなかった。
しかし、お春の白無垢姿を目にした途端
後悔の念が若だんなの心内にほろ苦く沸き立つ・・・。
『花嫁の列が進み始める。若だんなは一歩踏み出して、止まった。
もう駕籠には、声も届かない。遠ざかってゆく後ろ姿はやがて、
道の先に消えていった。』(完)
今回は「茶巾たまご」「花かんざし」「ねこのばば」
「産土(うぶすな)」「たまたまや」という5つの短編を集めている。
それぞれの噺が趣き深い。
単行本は既に第五作まで出版されているが、文庫の発刊が待ち遠しい。