語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】米国による日本人洗脳工作 ~占領政策における宣伝~

2016年01月31日 | ●佐藤優
 『日米開戦の真実』第2部第2章「米国による日本人洗脳工作」は、米国の対日占領政策における宣伝を論じる。

(1)上手に占領するコツ
 占領すると、それまで仇同士であった敵国人民と仲よしにならなくてはならない。誰かを悪者にデッチあげると、征服者・被征服者の双方にとってつごうがよい。
 日本を占領した米軍は、軍閥という悪者をデッチあげた。米軍は日本軍閥と戦ったのであって、決して諸君を敵としたわけではない。諸君が家を焼かれたのは日本の軍閥のためだ、云々。
 かつてイギリスと戦ったインドの藩王国、ネパール、エジプトなどを英国は徹底的に打ちのめさず、余力と名誉を保持させ、英国の世界支配システムに組みこんだ。この英国の手法を、米国は対日占領政策に巧みに取り入れたのである。

(2)神話の誕生
 GHQの指導で行われたNHK「真相箱」工作が、国民は政府・軍閥に騙されていた、という神話を作りだした。「真相箱」とは、1945年12月9日から1946年2月20日までは「真相はこうだ」というタイトルで、その後は同年12月4日まで「真相箱」で、週1回、計51回放送されたNHKのラジオ番組である。聴取者の質問にアナウンサーが答えるという形式をとっていた。
 <例>悪いのは軍閥、そのなかでも陸軍、その親玉が東条英機、国民は東条英機のアヤツリ人形・・・・という構図を提示した。
 「真相箱」がことに重視したのは、ミッドウェー海戦である。ミッドウェー海戦は、当時の日本でほとんど報じられなかった。実は手ひどい負け方をしたのだが、「真相箱」がその内容を教える。そして、大本営発表は、万事ミッドウェー海戦に係る報道のように大嘘だった・・・・という印象を日本国民に植えこむことに米国は成功した。
 <アメリカの宣伝工作終了とともに、日本人はそうした事実を忘れてしまった。宣伝であることを相手に意識させないような工作は謀略として優れている。そして、65年前に日本は勝利する見通しのない米国、イギリスとの無謀な戦争に突入してしまったというのが、われわれの「常識」になってしまった。国際情勢を客観的に認識できない無能な軍閥が、暴力と恫喝で国家権力を恣意的に支配し、その軍閥に大多数の国民が騙され、戦争に突入してしまった、と現在では多くの日本人が信じている>

(3)神話のウソ
 当時の史実に即して実証してみると、国民は相当のことを知らされていた。また、すこし努力すれば、正確な情報を入手することはさほど難しくはなかった。
 <例1>戦前・戦中に内閣情報部(1940年から情報局)が発行していた週報。誰でも購入することができたのだが、当時の国際情勢について正確な情報が記されている。
 <例2>大本営発表を基本データとする大衆向け小冊子『謀略決戦』。ガダルカナル戦後の戦況も、日本が相当守勢に追いこまれていることが見てとれる。
 戦艦大和が沈没したことも、大本営発表は隠していない。大本営発表が国民を騙した・・・・という神話は、無理がある。

(4)神話が隠蔽する歴史
 「真相箱」に代表される米国の宣伝技法は、じつに巧みで優秀だった。
 重大な失敗を犯したとき、誰も自分に責任があると認めたくないものだ。誰かに自分が騙されていた、というフィクションで自分の責任から逃れようとする。占領下の日本人のこうした心理を衝いて、米国は新しい神話を作った。そして、日本人は自ら神話を受け入れていった。
 <日米開戦の真実について、大川が『米英東亜侵略史』で解明した実証的な分析は、戦後GHQとそれに協力した日本人放送作家が作りあげた「真相箱」という神話に回収されていってしまうのである。それとともに大川周明という知識人の存在自体が日本人の記憶から薄れていくのである>

□佐藤優『日米開戦の真実 -大川周明『米英東亜侵略史』を読み解く-』(小学館、2006/のちに小学館文庫、2011)
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