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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~

2016年01月27日 | ●野口悠紀雄
 (承前) 

 (5)過去10年程度の投機の時代が異常だったのだ。よって、
 <例>原油価格が1バレル当たり100ドルを超えるような状況に戻るとは考えにくい。また、株価が急に反発することも考えにくい。一時的にそうしたことがあっても、継続するまい。

 (6)海外から日本への投資も、株式(高リスク資産)から国債(低リスク資産)へと移行している。
  (a)株式市場・・・・外国人投資家は7年ぶりの売り越しになった。→2015年夏の株価下落。
  (b)中長期債への対内投資・・・・増加。この結果、
   ①10年債の利回りは2015年夏以降傾向的に低下。
   ②2年債の利回りは2015年秋以降急速に低下。11月初めからマイナスが続いている。
  (c)国債への資金流入額は株式からの資金流入額よりはるかに規模が大きいので、こうした投資情勢の変化は円高をもたらす。
   ①事実、円はすでに増価している。
   ②2015年9月ごろにいったん円高が進行した。その後円安に戻ったが、2015年12月から再度円高が進行している。

 (7)(6)はユーロ危機の際に起こった資金移動と似ている。今回これと同じような大規模な資金の移動が起こるかどうか、まだ不明である。
 ただし、規模はさておき、株価の下落、円高、国債利回り低下という方向への変化が、今後進行する可能性は十分にある。その規模が大きくなれば、日本経済の動向に極めて大きな影響を与える。

 (8)問題①は、日本経済が新しい均衡に適応する準備をしているかどうかだ。
  (a)もっとも重要な問題は、原油価格をはじめとする一次産品価格の下落を経済成長に結びつける政策を採ることだ。そのためには、日本銀行はインフレ目標を撤廃すべきだ。
  (b)円高が進めば、国内の物価に対しては、さらに下落圧力が働く。日銀の物価目標はますます遠のく。インフレ目標の無意味さが明確になる。

 (9)問題②は、一層の金融緩和を求める声が高まることだ。
  (a)とりわけ危惧されるのは、株価が下落したときに、公的資金による買い支え要求が強まることだ。すでに日銀は、12月の緩和補完措置において、ETF購入の増枠を決めている。
  (b)公的資金による株価支持は、これまでも行われてきた。その結果、すでに公的機関が大量の株式を保有している。株価が下落すれば、これらは巨額の損失を発生させる。
  (c)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年夏の株価下落で大きな損失を出した(2015年7~9月の運用損失はマイナス8兆円、利回りはマイナス5.6%)。今回の株価下落でも損失を出している可能性がある。
  (d)日銀も相当額のETFを保有しているので、(c)のGPIFが抱えている問題から逃れられない。

□野口悠紀雄「リスクオフで株価下落 円高が進む可能性も ~「超」整理日記No.792~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月30日号)
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 【参考】
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~リスクオフ~

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【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~

2016年01月27日 | ●野口悠紀雄
 (1)2016年の世界金融市場は、波乱の幕開けとなった。
 中国株の下落がきっかけになっているのは間違いない。ただし、「中国株の下落だけが原因で、それにつられて世界の株価が下落している」ということではない。
 これは、より広く、投機資金の「リスクオフ」によってもたらされているものだ。その根本には、米国の金融正常化がある。

 (2)投機は、「一定量の資金をさまざまな対象に投資するだけではない。
 短期資金を借り入れて、投機の総額を膨らませて投資する(「レバレッジド投資」)。投資のリスクは増大するが、期待収益率は引き上げることができる。
 金融緩和下においては、短期資金の借り入れが容易になり、その結果投機の総額が増大する。
 米国では、リーマンショック後も金融緩和策が継続されたため、投機は米国住宅価格バブル崩壊後も終わることなく、世界中のさまざまな対象を求めて動いてきた。欧州の住宅、原油、その他の一次産品、国際商品、新興国の株式、新興国の通貨等が対象になった。先進国においても、株式が投機の対象になった。
 ところが、米国の金融緩和政策の終了が示唆され始めた2013年5月ごろから、この動きに変調が生じた。わけても2014年10月に米国が金融緩和の終了を宣言したことで、大きな変化が起こった。
 金融緩和が終了すると、
  →短期資金の調達が困難になる。
  →投資資金の総額が減少する。
  →それまで原油や新興国などに投資されていた資金が回収される。
  →原油価格などの一次産品価格が大幅に下落し、新興国の株価や通貨も下落する。
  →資源や新興国への投資のリスクプレミアムが高まる。
  →危険資産から安全資産への移動がさらに加速される。
 以上は「リスクオフ」と呼ばれる現象だ。
 ただし、これは投資家の戦略がリスクテイクからリスク回避に変わったため生じるのではなく、投資対象のリスクプレミアムが上昇したために生じる現象だ。
 その動きが先進国株価にも及んできている。

 (3)リスクオフの動きは、
  (a)2011年から2012年ごろにかけても顕著に生じた。このときには、南欧国債から資金が逃避し、その利回りが急騰した(「ユーロ危機」)。流出した資金は、日独米の国債に流入し、その利回りを大幅に下げた。日本では円高が引き起こされた。
  (b)2015年夏以降生じている現象は、基本的には(a)と同じ性格のものだ。米国の金融正常化によって、米国の住宅価格バブル以降ほぼ10年間にわたって続いた投機の時代が、いまようやく終了しようとしているのだ。

 (4)(1)の中国の株価下落(今回の世界経済混乱の原因)の背景は次のとおり。
  (a)中国はリーマンショック後に大規模な景気浮揚策を行った。それによって経済成長率を落とさずに済だが、他方において不動産価格のバブルという副産物をもたらした。そのバブルが崩壊し、中国経済は困難な状況に陥っていた。
  (b)長期的観点から見ても、工業化の進展に伴い、これまでのように安い労働力で輸出競争力を維持することが困難になってきた。
  (c)このような意味で中国経済は大きな転換点にあったのだが、中国政府はそうした問題を隠蔽するために、隠蔽するために2015年春から積極的な株価引き上げ策を取った。ところがそれが破綻し、6月ごろから株価の急激な下落が始まったのだ。
  (d)現在の株価下落は、(c)の延長線上にある。それと米国金融正常化の影響と、どちらが重要であるかは判断が難しい。
  (e)明らかなことは、いま生じているのは、一時的な現象ではないことだ。
   ①しばらくすれば元に戻るというものではない。
   ②米国の場合は、明らかに新しい均衡に向かっての動きだ。
   ③中国の場合も、中国政府がしばしば強調する新しい均衡を求めての動きだ。

□野口悠紀雄「リスクオフで株価下落 円高が進む可能性も ~「超」整理日記No.792~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月30日号)
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