語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】エネルギー政策をどう見直すか ~再稼働の論理の破綻(5)~

2012年06月17日 | 震災・原発事故
 (承前)

(5)エネルギー政策をどう見直すか
 (a)「エネルギー基本計画」をゼロベースで見直されることになり、経産省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会のもとに基本問題委員会を設置して議論することになった。5月24日までに24回、会議が開催された。
 しかし、基本問題委員会の基本的問題が解決されないまま、今日に至っている。

 (b)現状のエネルギー政策体制は、国民からの信頼がない。本来ならば、所轄官庁などを含め人心を一新したうえで新しいエネルギー計画を議論すべきだが、旧来のエネルギー基本計画を作成した体制(審議会委員・事務局体制)をそのままに、若干のメンバーを追加した程度では正当性を担保できない。・・・・そう飯田委員は第1回会議で指摘した。そのうえで、特定の利害関係者と事前に謀った「落としどころ」に議論を誘導しないこと、委員会構成の公正・中立性(委員長選任を含む)、事実上の決定権を持つ事務局の審議運営の公正・公平・透明性を確保すること、アリバイや見せかけ、「やらせ」ではない徹底的な国民との対話および国民同士の議論を促す工夫や仕掛けなどを求めた。

 (c)しかし、第1回の会合は、合議で決すべき委員長の選任について、三村明夫・総合資源エネルギー調査会総合部長/新日鉄会長が、自分で自分を基本問題委員会委員長に「任命」することからスタートした。三村は、経団連や新日鉄などの利害を背負っている。新しいエネルギー政策を取りまとめていく立場には不適当だ。
 実体的にも、会議の運営面できわめて問題が多い。委員からの自由で建設的な意見を封じ込め、事務局の筋書きを押しつける強引な運営を行っている。その采配を裏で取り仕切っているのは、事務方(経産省レミングの群)だ。
 事務方が議論を誘導する、それを三村委員長が追認する、というパターンで、実質的議論が阻害されてしまっている【注】。

 (d)(c)のもっともひどい例・・・・「エネルギーミックス」の選択肢」を4つのパターンで提示。
 2030年時点での電力における原発の割合として、当初、①0%、②15%、③20%、④35%の4案が提示された。これは、もともと事務方が委員からアンケートを集め、それを整理して資料にしたものにすぎない。かかる数字遊びには本質的意味はない。本来、政策立案は、個別具体的な議論と検証を経ながら煮詰めていくべきもので、数字はその議論の結果として出てくる。
 が、今なお2030年時点で③や④の非現実的な数字を唱えている委員が多数いること自体、基本問題委員会の基本的問題を象徴している。
 福島第一原発6基+運転開始40年超の炉を廃炉にし、新設なしの場合、2030年度末の原発の設備容量は1,891万kW。
 これに加え、福島第二原発、女川原発、浜岡原発を廃炉にした場合、1,486万kW。
 さらに、柏崎刈羽原発も廃炉にした場合、995万Kw。
 ③のケースで、稼働率80%としても、必要な設備容量は3,000万kW。
 25%のケースで3,600万kW。
 ④のケースに至っては、5,000万kW。
 まったくリアリティがない。これは3・11以前の設備容量よりも多く、論外だ。
 実際には、稼働率は老朽化とともに下がっていくだろうから、2030年段階で6~9%がせいぜいだ。
 「脱原発依存」の方針を前提に議論する以上、運転40年で廃炉、新規増設なしの場合、10~15%を上限の選択肢とし、いかに原発割合を①にしていくかを議論すべきだ。

 (e)原則論に戻れば、(d)のような議論ではなく、どのような理念のもとに、どのような政策を採用しながら進んでいくのかという本質こそ議論しなければならない。

 (f)しかるに事務方は、すでに他の審議会、原子力委員会、国会議員などにも基本問題委員会では4つのオプションが出された、と説明している。
 参考資料のレベルにすら達していない資料を、委員長が異論を排除しながらまともに議論しないまま既定のものとする。このような恥ずべき水準のものを、あるべきエネルギー政策についての選択しとして国民に提示する、という。恥を知れ。

 (g)議論の一例、日本が原子力技術を確保しておくことの必要性・・・・自前の原子炉をついに確立できなかった日本にあるのは一般的な製造技術のみ。原子力にかかわる技術を育成するとしても、それは廃炉と使用済み核燃料の管理のためだ。

 (h)議論の一例、原発輸出への期待・・・・核を持たずにきた国に対して原子力を輸出する無責任さ、自国で脱原発依存を進めながら他国に売り込む矛盾も批判されるべきだが、経済的に得るものは少ない。原子力のコストは上昇し続けている。今回の事故で、さらに跳ね上がる。
 原発輸出に成功しても、建設費の増加などの追加コストのため、原発メーカーが経営危機に陥るリスクは低くない。原子力は、すでに世界的斜陽産業だ。<例>フランスの原発国策企業アレバ社は、フィンランドの原発建設で工期延長と建設費増大のため、経営危機に陥った。

 (i)議論の一例、原子力開発を進める東アジア諸国への対抗意識・・・・近隣諸国と原子力損害賠償の相互協定を結ぶことを提起すべきだ。今回の事故の損害について日本が補償するとともに、今後、中国・台湾・韓国の原発で事故が起きた時の損害賠償の枠組みをつくることで、原発がこの地域に無限定に増えていくことを抑止する枠組みをつくるべきだ。
 
 【注】「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

(1)恣意的な議論操作の疑い
 国の原子力政策の根幹を揺るがしかねない大問題が、今、白日の下にさらされつつある。内閣府の原子力委員会で、原発推進派だけを集めた「秘密会議」が今年2月にもたれ、「新大綱策定会議」に使われる議案の原案が事前に配られていたのだ【注】。
 「大綱」は、原子力分野の憲法というべきものだ。
 <原子力政策の基本である大綱を、原発推進派である利害関係者たち自身で書いていた、あるいは事前にチェックしていたとすれば大問題です。壮大なヤラセ、国家的な詐欺だ。東電は、国策に従って原発を進めてきたのだから、事故の責任から免れられるかのような良いぶりをしますが、自ら国策作りに関与していたとすれば、言い逃れはできない。原子力体制は根本から腐っているというほかなく、徹底的な検証が必要です>【金子勝・慶應大学教授/策定会議メンバー】

(2)委員長・委員の中立性の問題
 原子力委員会をめぐって、3人の専門委員が400万から800万円強の寄付を原発関連事業者などから受けていたことで、利益相反が疑われている。

(3)事務局の中立性の問題
 事務局スタッフのうち、8人が東電、関電、東芝、三菱重工などからの出向組で、その給与や社会保障費も出身企業が負担していたことが明らかになっている。

 【注】「【原発】非公開会議による報告書の書き換え ~核燃料サイクル~

 以上、記事「ふざけるな!再稼働」(「週刊朝日」2012年月日号)の「大飯原発再稼働の真相 原子力ムラの“国家的詐欺”を暴く!」に拠る。
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【原発】原発官僚というレミングの群 ~再稼働の論理の破綻(4)~

2012年06月15日 | 震災・原発事故
 (承前)

(4)原発官僚というレミングの群
 (a)経産省、経産省原子力安全・保安院などに群がる原発官僚は、安全性を無視したまま原発再稼働に向けて突き進むレミングの群と化している。

 (b)世論は、今や当面の再稼働すら反対する。即時脱原発につながる世論が多数となっている。政府への信頼が地に堕ち、原発を安全に稼働させる資格も能力も政府および電力会社にないことを人々は見抜いている。

 (c)経産省官僚のレミング化現象は、菅政権時代から見られた。経産省官僚の当初の目論みでは、もっとも危険な浜岡原発を停止させる一方、玄海原発を皮切りに再稼働を粛々と実現する段取りだった。しかし、住民説明会のやらせ、佐賀県知事の失態、その他の自ら撒いた種によって頓挫し、ストレステストの実施が決まって再稼働はさらに遠のいた。以来、今日に至るまで、枚挙に暇のないほどのレミング的振る舞いが続けられてきた。こうした動きには、3・11の事態を招いたことへの反省が決定的に欠如している。

 (d)自ら責任をとるモラルもなく、これまでのありかたを反省する知的能力もない官僚の群に対しては、政治が手を入れて責任をとらせるべきだ。経産省王国を官僚自治のまま任せていることが、エネルギー政策が前に動かない最大の原因だ。

 (e)斑目春樹・原子力安全委員会委員長、近藤駿介・原子力安全委員会委員長も責任をとっていない。誰も責任を取らなくていいのなら、レミング官僚はこれまでの政策と秩序のまま進んでいくことに躊躇しないだろう。消費増税、八ッ場ダムなども含め、レミング官僚が民主党政権を使い捨てにしようと考えていることは疑いない。支持率が下がり続ける政権末期の今、取れるものは取っておこうとしているのだ。

 (f)政治的知性を欠く政治家とレミング官僚のカップリングによる暴走を止めなければ、再び破滅的事態が起こる。

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

 5月30日の「4大臣会合」で大飯原発再稼働が事実上決まった一方、原子力規制庁設置法案の審議も急ピッチで進んでいる。この動きの中で、崩壊すると信じられていた原子力安全神話と原子力ムラがゾンビのように蘇りつるあることがハッキリしてきた。

 2月に国会提出後、ずっと店晒しになっていたが、法案の審議開始後、わずか十数時間の審議で参考人も呼ばずに衆議院を通るらしい。
 その決定的要因になっているのが、国会の事故調査委員会(黒川清・委員長)の存在だ。国会事故調は6月中に報告書をまとめる予定だが、原子力ムラから見るとかなり厳しい内容になることが分かってきた。わけても、新らたに作られる原子力規制庁は真に独立した規制機関(完全に国際基準に合致)にすべきだと強く提案する見込みだ。
  ・全職員の出身省庁への「完全ノーリターン」ルールの設定
  ・民間人職員も原子力ムラの企業への再就職禁止
  ・外国人を含めて真に能力があり独立して安全規制を実施できる職員のみ採用
などの抜本的改革を迫られる。そんなことになったら、今審議している規制庁案は全く不十分になるのは必至だ。真の安全規制が実施され、日本の原発は一つも動かせなくなる。

 そこで、報告書が出るまでに何としても法案を通してしまいたい、という原子力ムラの意向を受けて、民自の守旧派、さらに公明党まで入って修正が協議されている。
 これを支えるのは、もちろん経産官僚だ。彼らの狙いは、原子力安全・保安院の大半の職員を平行異動させた形だけの原子力規制庁を作ることだ。その後、短期間で「新たな」安全基準を作り、「新」規制機関による「新」基準に基づいた「完璧」な安全審査というお墨付きを与えて、原発全基再稼働に突き進もう、という企みだ。
 規制庁設置法案の国会通過から10日前後で出る報告書に何の意味があるか。国会議員自ら作った組織=国会事故調の存在意義を否定する国会は、自らの存在意義も否定している。

 以上、古賀茂明「「規制庁法案」急進展の舞台裏 ~官々愕々 第21回~」(「週刊現代」2012年6月16日号)に拠る。
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【原発】脱原発で関西電力は倒産 ~再稼働の論理の破綻(3)~

2012年06月14日 | 震災・原発事故
 (承前)

(3)本音は「再稼働か、倒産か」
 (a)再稼働なき電力安定供給は可能だ。
 だが、原発に固執しつづける電力会社は、「再稼働か、停電か」と踏み絵を迫っている。実のところ、彼らは内心で「再稼働か、倒産か」と呟いているのだ。再稼働問題の本質は、電力会社の経営問題なのだ。
 金子勝・慶應義塾大学教授の分析によれば、このまま原発停止が続けば、来春には電力会社(沖縄電力を除く)は軒並み債務超過に陥る。すなわち、倒産する可能性が高い。

 (b)政府のとるべき措置
 関西電力を始めとする電力会社(東電を除く)が深い危機感を抱いていることは疑いもなく事実だ。
 本来であれば、政府はなし崩し的に原発を停止するのではなく、
   ①政治的判断として1~2年原発を停止させるモラトリアムを設定し、そのうえで、
   ②既存の原子炉の安全性確認やエネルギー政策に係る国民的議論を徹底して行い、
   ③その間の燃料費増加などの電力会社の負担増について(交付国債などの形で)政府がいったん立て替える。
 ・・・・といった措置を採るべきだった。こうした措置を採っていれば、「原発倒産」の悪夢に憑かれた電力会社が再稼働と電力料金値上げへ突っ走る状況にはならなかっただろう。

 (c)電力会社の経営危機は、いくつかの原発が稼働したところで、いずれ現実となる。その際、今の東電のような悪しき国有化は避けなければならない。
 今からでも、東電は破綻させ、損害賠償と事故処理は政府が責任を引き取る形にすべきだ。
 損害賠償支援機構は、現在の枠組み(機構が後ろに回る)ではなく、機構そのものが損害賠償することとして、民営化を前提とした新生東電を新設会社でつくり、発送電分離を進めつつ資産を売却し、売却利益が出るならばそれも損害賠償に使えばよい。

 (d)上記の枠組みは、遠からず経営危機を迎える他の電力会社についても通用する。発送電部分と電力会社の持ち株会社に切り分けるホールディングカンパニー方式にしたうえで、10の送電会社と国営東京送電の合併によって「日本送電」をつくることを検討すべきだ。
 こうした方向性は、すでに現実の中から立ち現れている。今夏の中西日本6社間による電力融通は、安定供給のためには従来のような「電力幕藩体制」では不利であることを示している。
 電力融通は、来るべき発送電分離のISO(independent system operator 独立系統運用機関)の原型として、安定供給体制を構築していく第一歩となろう。
 DSMの概念が入ったことと併せ、発送電分離後の事実上のオペレーションが始まっている、と言える。

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

 (a)追い詰められた関電は、原発再稼働を電気需要のせいだと言い訳できなくなり、「再稼働は電気需要の問題とは別」だと述べた。
 (b)停電と再稼働がからまないにも拘わらず、再稼働を求め続ける理由は、原発の不良債権化だ。再稼働せず、脱原発すれば原発は資産から負債になる。企業会計上、債務超過に陥る。それは困るので、再稼働して時間を稼ぎ、その間に利益を上げて引当金を積み、債務超過にならないようにしよう、というわけだ。
 (c)しかし、国民の命と単なる「時間稼ぎ」が比較になるか。それならば、企業会計に例外を設けたほうが、まだマシだ。しかも、今の政策のままでは、負債の増加が避けられない。これまで、再処理して使うという偽装シナリオによって、使用済み核燃料=「負債」を「資産」扱いにして、有害物質を資産計上してきた。そのために動かさなくても維持費だけで毎年1,100億円かかる六ヶ所村再処理工場や、同じく200億円以上かかる高速増殖炉「もんじゅ」を資産計上させてきた。
 (d)原発を止める総発電コストが上がるのは、火力発電の燃料代のせいではなく、再処理工場や「もんじゅ」の維持費のためだ。

 以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

 東京電力の家庭料金値上げを検証する政府委員会(6月12日夜開催)で、原発関連費として年間400億円以上が計上されていることが明らかになった。この費用は、現在運転を停止している福島第一原発の5号機、6号機、福島第二原発の4基の計6基に関わる。
 (a)会計上必要な減価償却費として、今後3年間、平均で年間414億円。
 (b)原子炉を100度以下に維持する「冷温停止」状態を維持する運営費に年間486億。
 合計900億円が盛り込まれている。

 以上、記事「【東電】電気料金原価に原発の関連費400億円を計上! ネットユーザーからは不満の声「払いたくない」「ひどい」など」【楽天ニュース】に拠る。
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【原発】電力は本当に足りないか ~再稼働の論理の破綻(2)~

2012年06月13日 | 震災・原発事故
 (承前)

(2)電力は足りないか
 政府は、再稼働について言明している。
   ①安全を最優先し、安全でなければ必要であっても再稼働しない。
   ②安全であっても必要がなければ再稼働しない。
 そして政府は今、すでに「安全」という「確認」はなされたので、残るハードルは必要性だとし、経産省と電力会社の合作による電力不足キャンペーンを演じている。

 当初、経産省・関西電力は、大飯原発の再稼働がなければ、平年並み(過去5年の平均)の暑さで15%以上、一昨年並みの猛暑であれば20%程度の電力が不足する、よって再稼働が必要だ、と主張していた。
 (a)これは浅はかなトリックで、事故前の実績値で試算している。
 事故後を見れば、昨年8月末までに原発は全体の8割が停止したが、節電努力により、猛暑にもかかわらずピーク電力は、東電管内で前年より18%(全国でも13%)も削減された。
 昨夏は、大口顧客に対して電力使用制限令が出た。その削減実績は、家庭・中小企業の「電灯」契約が8.2%、小規模工場などの「動力」契約が9.5%、もっとも電力消費量の大きい特別高圧契約が(ピークカット15%もの義務を課されているにもかかわらず削減率がもっとも小さい)5.1%。
 したがって、
   ①政府エネルギー・環境会議の試算・・・・電力需要を昨夏なみに抑制できれば、日本全体の電力需要1億5,661万kWに対して供給力は1億6,297万kWで、636万kWの供給予備がある(予備率4%)。東日本3社、中西日本6社ごとに見ても不足はない。電力会社ごとに見ても、他社からの融通など追加対策が本当に必要なのは関西電力だけだ。
   ②環境エネルギー政策研究所(ISEP)の試算・・・・昨年なみの節電を(よりスマートな方法で)実施して最大電力を昨夏なみにおさえ、発電設備を再点検して供給力を見直すと、今夏にすべての原発が停止したままでも、電力ピーク時に全国で16%以上、東日本3社で24%以上、中西日本6社で11%の電力需要の余裕を確保できる。

 (b)経産省は、オイルショック以来の「我慢して節電」という観念のままフリーズしている(<例>無差別に15%を一律かつ強制的に削減させる昨年の電力使用制限令)。
 しかし、こうしたアプローチは、欧米ははるか昔に卒業した。
 需要を減らすことは、新しい発電所をつくることと同義なのだ。これは、需要管理=デマンドサイドマネージメント(DSM)と呼ばれる。供給を増やすための資金を需要を減らすために使うか、需要を減らした部分をマイナスの発電「ネガワット」として取引する。村上憲郎・大阪府市エネルギー戦略会議参与の試算によれば、ネガワット取引を駆使することで、関電は500万kWものネガワットを利用できる。
 DSMは、21世紀のエネルギー政策の根本概念のひとつだが、日本では致命的に欠落してきた。その状況に多少の変化が見られてきたことは、エネルギー政策の進歩だ。

 (c)電力会社には、法的に電力を安定供給すべき義務と責任がある。原発が稼働を停止するリスクは、3・11以前にも存在した(<例>2002年に東電の原発が全基停止した)。にもかからず、関電は電力供給の面でも経営面でも原発に頼りきる「原発一本足打法」の経営を改めずにきた。その経営責任を問わなければならない。
 関電は、大阪府市エネルギー戦略会議においても、国の需給検証委員会においても、再稼働なしに安定供給する見通しを示していない。これは、安定供給への真剣な努力をせず、夏期に停電すると脅し、自ら「停電ブラック企業」であると宣言するに等しい。

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

 関西電力は、もっとも原発依存度が高い電力会社で、発電量の4割以上を原発に頼る(2009年度)。しかし、原発の設備量は26%にすぎない。他の発電所を停めてでも原発を優先させているだけだ。

 関電は、大飯原発の再稼働を求めるため、夏場の電力需要ピーク時に不足する電力量を過大に見積もっている。
 経済産業省によれば、他の電力会社の節電を前提とした融通などがあれば不足は5%程度だ(5月15日、大阪市エネルギー戦略会議)。しかし、共同通信社の調査によれば、経産省の融通電力の数値は同日同時に各社の消費ピークが来ることを前提としており、実績に基づいたうえで、西日本の電力6社が5%強の節電をして融通すれば、原発を再稼働しなくても電力は不足しない。

 関電のご都合主義データは、他にもある。関電は、それまでは大飯原発3、4号機が再稼働しても5%不足する、としていたのに、政府の需給検証委員会では一転して「再稼働すれば夏の電力確保に余裕ができる」と述べている。

 明らかなことは、「大飯原発の再稼働を企画して、恣意的にデータを変えている」ことだ。当初の関電の推計データは、
 (a)需給量が過大だ。猛暑だった2010年の数値を用い、2011年の数値も過去5年平均の数値も使わない。
 (b)節電効果を織り込まない。
 (c)ピークシフト契約や時間帯別料金制度を導入しようとしない。
 (d)冷房過剰の抑制や老朽エアコンの買い換えを予定しない。
 (e)節電すれば安くなる料金形態を導入しない。逆に、「はっぴeポイントクラブ」でオール電化を推進し、消費を促進している。

 供給量の側には、過小評価がたくさんある。
 (a)震災から1年以上経つのに、休止中の火力発電所の手入れをして発電設備を増やそうとしていない。
 (b)揚水発電所を肝心な時に十分使おうとしていない。
 (c)太陽光など自然エネルギーをほとんど計算に入れていない。
 (d)企業の持つ自家発電設備の余剰分買い上げを検討していない。
 (e)他の電力会社からの融通電力が不十分だ。

 要するに、怠慢のうえにあぐらをかいた電力会社が作るシナリオが「電力不足」だ。

 以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。
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【原発】原発は「安全」になったか ~再稼働の論理の破綻(1)~

2012年06月12日 | 震災・原発事故
(1)原発は「安全」になったか
 野田佳彦・首相は、5月17日、大飯原発再稼働すべき理由として「突然停電になった場合には、人工呼吸器に頼っている人の人命にもかかわる」うんぬんと御託を述べた。
 この発言に、再稼働に突き進む原子力ムラの論理の誤りが典型的に表れている。

 (a)電力安定供給と原発再稼働とは、次元の異なる問題だ。そして再稼働は、安全性を優先して議論されなければならない。3・11事故の取り返しのつなかい甚大な被害を前にして、安全性を軽視して再稼働を優先することは許されない。

 (b)完全に信頼を失った原子力安全・保安院が即席ででっちあげた30項目の「安全基準」を信頼する人はきわめて少数だろう。事実、それは信頼に値しない。
   ①まだ事故の検証が終了していない。拙速にすぎる。
   ②地震・津波など狭い範囲の自然災害だけを想定した対策で、人為的ミスやテロ攻撃、飛行機の墜落など、想定すべきことが想定されていない。
   ③そもそも不十分な30項目の安全対策の中でも重要なベントフィルターや免震重要棟の設置、防潮堤の嵩上げなどが将来のこととされ、工事の計画さえ提出すればよい、とされている。その他は、すでに対策のすんでいる措置を挙げているにすぎない(茶番)。これで再稼働を急いで、福島と同様の災害が起きた場合、世界史上もっとも愚かな国として記録にとどめられるだろう。しかも、福島と違って免震重要棟が存在しないので、事故対応作業では福島以上の被曝を強いられることになる。
   ④放射性物質の放出を防げなかった場合が想定されていない。安全神話が崩壊した以上、原発を動かすにあたっては、事故を想定したうえで一般公衆に被曝させない措置をとっておくことが不可欠だ。
   ⑤放射性物質の放出も一般公衆の被曝も防げなかった場合の責任の所在と損害賠償の仕組みに係る対策が、まったく講じられていない。

 (c)3・11から1年以上経ても、原発の安全性と事故対応について政府は何の手も打っていなかった、と言える。驚くべき無能さだ。
 「学習する組織を発展させない欠陥」・・・・これは、福島原発事故を受けてスイス原子力安全検査局が公表した39項目の教訓の筆頭に掲げられた教訓だ。

 (d)茶番に輪をかけたのが、学芸会政治だ。保安院の「安全基準」に対して、原発について全くの素人である野田首相、枝野経産相ら4大臣が「妥当」と判断し、大飯原発についても「安全基準に照らしておおむね妥当」と決めた。
 この「政治的判断」は、国民の「常識」に照らして、全く妥当でない。
 原子力の安全について専門的知識のない政治家が安全性を確認するなぞ、政治的知性の欠落の象徴だ。
 本来ならば、原発の安全性については、原子力ムラとの利害関係がなくて、独立した立場から判断できる専門家に委託して検討させるべきだ。

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

 まだフクイチの事故が収束していないのに、政府は「再稼働」をよく口にできるものだ。
 政府は、現地に経産省副大臣ないし政務官を常駐させる、としているが、副大臣なぞ何もできない。むしろ、副大臣のおもりをするために役人や電力会社から人を出さねばならないことになる。バカじゃなかろうか。
 野田佳彦・首相いわく、「最終的には総理大臣である私の責任で判断する」。どう責任をとるのか。野田総理の責任で事故を防げるのか。
 菅直人・前首相も、枝野幸男・前官房長官も責任をとっていない。
 (a)フクイチの事故が収束し、(b)その原因を徹底的に検証し、(c)今後の対策と運用の見通しを立てて、はじめて再稼働を口にできる。
 4号機の現状が5月26日にメディアに公開されたが、ああの映像からして事故が収束したとは到底見えないだろう。あれでも、用意周到に掃除し、周辺のガレキを片づけたうえで公開している。
 事故発生2ヵ月程度の昨年の今ごろは、まだメディア側の知識も乏しく、東電が適当な説明をしても誤魔化すことができた。しかし、今ではマスコミや世論への誤魔化しは難しくなった。政府や本店にとて、これからどんどん厳しくなる。そんな状況で無理に再稼働しないほうがいい。

 大飯原発に免震棟はない。万が一、事故が起きたときに周辺住民の安全をいかに守るか、明確な方針もない。しかも、放射性廃棄物の最終問題は何の見通しもないまま置き去りにされている。

 以上、記事「ふざけるな!再稼働」(「週刊朝日」2012年月日号)の「福島原発 最高幹部の警告」に拠る。
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【原発】尾瀬は滅びるか ~維持費減額と「風評被害」~

2012年06月11日 | 震災・原発事故
 尾瀬国立公園は、福島県、群馬県、新潟県、栃木県の4県にまたがる。そのうち4割の16,000ヘクタールを東京電力が保有する。
 公園内には、厳しい規制がかけられた特別保護区があり、そのうち東電の保有地は7割にも達する。
 東電は、今年3月まで、自社保有地内の木道、トイレの維持管理に2億円、パトロールや倒木処理などの委託事業に2億円、計4億円を毎年、尾瀬の環境保全のため拠出してきた。
 が、この費用は今年度、木道の整備が縮小されるなど、減額される見込みだ(減額幅未定)。

 戦前、東電の前身は、尾瀬ヶ原と尾瀬沼それぞれに巨大ダムを建設しようとして、一帯の土地を購入した。だが、尾瀬が国立公園に指定されると同時に、群馬と福島の間で水利権問題がこじれ、結局この大規模開発計画は頓挫した。
 東電にとって尾瀬は、不良債権に転じるところだった。が、環境意識の高揚を背景に、東電は“エコ企業”としてアピールするため尾瀬を活用した。
 売上高5兆円超の企業にとって、尾瀬の維持管理費など取るに足らない。しかも、広告と水力などの発電事業に使えるのだ。

 しかし、原発事故で事情は一変した。
 尾瀬一帯にも放射性物質が降下した。
 東電は広告を打てない。

 入山者の安全確保や植生維持管理など最低限のことは続ける。【東電広報】
 東電から、今年も尾瀬を例年どおり保全する、と報告を受けている。特に問題はない。【環境省関東地方環境事務所】

 たしかに、目に見える部分は保全されている。木道整備、植生回復など。昨年7月、尾瀬を襲った記録的な大雨のときも、いち早く木道を改修した。
 しかし、目に付かない部分への対策は後回しにされている。湿原内パトロール、植林事業など。
 これから影響が出てくるだろう。【尾瀬保護財団山の鼻ビジターセンター】

 すでに影響は出始めている。福島県が管轄する一部の木道は、朽ち果てたままだ。。環境被害も目立ちはじめた。木道付近は鹿と熊の踏みあとだらけだ。鹿のミズバショウへの食害も広がっている。このままでは、かつての尾瀬アヤメ平のような植生破壊も起こり得る。
 尾瀬に放射能を降らせた東電にそのすべての責任がある。いまでも放射能の「風評被害」が広がり、地元は踏んだり蹴ったり。対策費を増やしてしかるべきところを、逆に削るとは。【地元の観光業者】
 入山者は減ったが、昨年も30万人が尾瀬を訪れた。地元では放射線量を公表して火消しにやっきになっているが、「風評被害」は今も続いている。

 以上、小田光康(編集部)「尾瀬の自然守れるのか」(「AERA」2012年6月11日号)に拠る。
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【原発】福島県民、東京電力を集団告訴 ~勝俣東電会長の逃げ切りを阻止~ 

2012年06月10日 | 震災・原発事故
 福島県民が、勝俣恒久・会長ら東電幹部の刑事責任を問おうと、6月11日、業務上過失討議などで福島地検に告訴する。
 弁護は、
   ・河合弘之・弁護士(原発差し止め訴訟を多く手がける)
   ・保田行雄・弁護士(薬害エイズ被害者救済などに取り組む)
が行う。

 東電は、賠償もあたかも施しをするかのような不誠実さだ。強制的に被曝させられた事実を明確にし、事故の責任者をはっきりさせねば、福島の復興につながらない。【保田弁護士】

 昨年、広瀬隆らが東京地検に刑事告発した【注】が、事態は進んでいない。そこで、第三者による告発でなく、被災者自身による告訴にした。告訴する相手は数十人規模になる。

 津波対策を怠ったことが、最も明快な刑事責任だ。1997年、「原発震災」の危険性について警鐘を鳴らしている。以降、貞観地震の研究が始まり、東電内でもシミュレーションが行われてきた。事態を回避できる可能性があったはずだ。避難途中に亡くなった双葉病院の患者らの遺族らが加われば、致死罪も問える。【保田弁護士】

 【注】「【震災】原発>勝俣恒久・東京電力会長らを刑事告発
    「【震災】原発>事故の責任者を刑事告発した理由

 以上、記事「ふざけるな!再稼働」(「週刊朝日」2012年月日号)の「勝俣東電会長の逃げ切りは許さない! 福島県民が集団告訴へ 6・11」に拠る。

    *

 昨秋、ノーマ・フィールド・シカゴ大教授が、福島県田村市の山里の自宅に突然訪ねてきた。
 脱原発集会(9月、於東京)でのスピーチに感動した、米国でも話して、と。集会のスピーチ「福島から あなたへ」は、インターネットで何万回と再生された。各国で出版の話が進む。
 講演はシカゴ大で、今年5月5日に実現した。
 福島に生まれ育ちながら、原発には無関心だった。東京の大学を出て故郷に戻り、養護学校の教師に。チェルノブイリ事故が起き、このままでいいのかと疑問が膨らんだ。職員会議で、学校の防災訓練に原発事故の想定を提案したら、爆笑が起こった。孤立感を覚えながら脱原発運動に身を投じ、自力で山小屋を建てて退職、9年前に自宅に小さな喫茶店を開いた。
 太陽光を使い、畑を耕し、自然のものを供してきた。そんな生活のすべてを3・11は奪った。国や東京電力の刑事責任を問うための告訴団長になった。

 以上、本田雅和「〈ひと〉脱原発スピーチが世界に広がる ■武藤類子さん(58)」【朝日新聞デジタル記事2012年6月8日03時00分】に拠る。

    *

 6月11日、福島県の住民1324人が、東京電力幹部や国の関係者ら33人について、業務上過失致死傷などの容疑で告訴・告発状を福島地検に提出した。安全対策を怠った結果、住民を被曝させ、しかも情報を公開せずに「安全」と虚偽の説明を繰り返して被曝被害を拡大した、などと刑事責任追及を求めている。
 告訴・告発した集団は、事故当時県内に住んでいた子どもから80代までの人で、事故で飛散した放射性物質による被曝を傷害ととらえたほか、避難中に亡くなった人なども被害者に含めている。
 告訴・告発の対象は、
  ①東電:勝俣恒久・会長、清水正孝・前会長をはじめとする新旧経営陣と安全対策の責任者ら15人。・・・・地震や津波の危険が指摘されていたのに安全対策を取らなかった。
  ②国など:寺坂信昭・経済産業省原子力安全・保安院前院長や班目春樹・原子力安全委員会委員長、近藤駿介・原子力委員会委員長、山下俊一・福島県立医大副学長/福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、文部科学省の幹部ら18人。・・・・安全対策を怠ったほか、避難に関する情報を適切に公表しなかったことで住民の被曝を招いた。
  ③健康を害する物質を排出したとする公害罪法違反容疑では、法人としての東電も対象とした。
 武藤類子・「福島原発告訴団」団長は、記者会見で、「事故の責任を問わずに福島の真の復興はあり得ない。次世代への私たちの責任を果たす」と話した。今後、第2次の告訴・告発状提出を検討している。
 今回、菅直人前首相ら政治家は対象に含まれていない。告訴団の弁護士は「法的な責任と政治的な責任を混同されるのを避けるため」と説明している。

 告訴・告発状提出に参加した人たちの思いは――。
 「地震と津波が起きるまで国や東電は何をして、何をしなかったのか。裁判の場で明らかにしてほしい」
 「事故が人災だったことを証明し、日本から原発をなくしたい。未来ある子どもたちのためにも」
 「事故で多くの県民が被害を受け、苦しんでいる。本来なら、県や知事が率先して告訴、告発をすべきだ」
 「原発を推進してきた国や東電に謙虚さがあれば事故は起きなかったはずだ」
 「なぜこんな思いをしなければならないのか。多くの学者らが危険を指摘してきたのに、国や東電は津波や事故の対策をとらず、甘く見てきた。交通事故でも加害者は刑事責任を問われるのだから原発事故でも問われるべきだ」

 以上、記事「福島の住民1324人、東電幹部らを告訴」【朝日新聞デジタル記事2012年6月12日03時00分】に拠る。
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【原発】新潟県知事の、「原発再稼働」批判

2012年06月09日 | 震災・原発事故
 大飯原発の安全性に係る野田佳彦・首相の説明について、泉田裕彦・新潟県の知事は、8日夜、談話を発表した。

 「福島を襲ったような地震や津波が起きても事故を起こさない」という限定付きでの「安全宣言」だ。福島を襲ったものとは異なる直下型地震の場合は、またもや「想定外」と言い訳できる説明だ。
 新たな原子力規制機関が、まだできていない。万一の事態が生じた場合の対策も固まっていない。こうした中、新たな「安全神話」を創り出すことになる首相説明だ。極めて無責任。国民生活を人質にし、安全を軽視した宣言だ。

 以上、記事「新潟知事「国民生活を人質」 首相の再稼働説明を批判」【朝日新聞デジタル 2012年6月9日0時44分】に拠る。

    *

(1)新潟県知事コメント
 原子力損害賠償支援機構及び東京電力の総合特別事業計画認定に係る泉田裕彦・新潟県知事のコメント(2012年5月10日)。
 <昨日、政府により、原子力損害賠償支援機構及び東京電力の総合特別事業計画が認定されました。
 当該事業計画の収支見通しでは、来年4月から順次柏崎刈羽原子力発電所が再稼働することを前提として、料金算定がされています。
 国から支援を受けるために計画を作らざるを得ないという状況があったとしても、一昨日の廣瀬常務の原発をゼロにするのはもったいない、という安全を軽視した発言は看過できません。
 加えて、福島原発事故の検証と社内のけじめもつけられていない中で、再稼働に具体的に言及し、それを国が認定するということは極めて遺憾です。
 再稼働が前提であれば、東京電力からの説明を受ける意味を見い出すことはできません。>

(2)補足
 (a)福島第一原発事故の原因究明が先決だ。国会で東京電力福島原発事故調査委員会(国会事故調)が設置されているが、全部究明されるか、不明だ。形式的に報告書が出ようとも、いったい誰が事故を防ぐために準備すべきことを事前に怠ったのか、まず明らかにしなければ、再び同じ事故が起きる。原因を知って対策をたてるのが、まともな人間のやることだ。
 原子力が、人間が想定した事態に対して技術的対応をすれば扱えるものなのか、という問題も含めて判断されなければならないはずだ。
 そうしたプロセスを踏まずに、現在、再稼働をするための論議をしている人たちの神経が、理解不可能だ。

 (b)「冷やす」「閉じ込める」が原発の安全を確保するための基本的原理だ。今回、なぜ「冷やす」のに失敗したか。当時、配電盤が壊れていたから、仮に電源車が配置されていて、それをつないでも動かない。それどころか、つなぐ場所までたどり着けない。だから、電源車は本質的な対策にならない。

 (c)NRCは、9・11後、新たな対策「B.5.b」を追加した。テロが発生したら、数時間以内に全米すべての原発にホウ酸入りの水など冷却セットを送り届ける体制を構築した。ステーション・ブラックアウトが起きたら、最初はとにかく冷やすしかないのだから。
 問題は、保安院が、この措置を東電に伝えていなかった点だ。
 米国側は、この冷却セットを使うよう必死になって各方面に伝えていた。ところが、中国でマスコミを接待して遊んでいた勝俣恒久・東電会長(当時)はも奈良で夫婦してブラブラ観光していた清水正孝・社長(当時)も、知らされていないから何を言われているのか分からなかったらしい。結局使われなかった。こうした問題を、専門家がきちっと詰めなければならない。

 (d)ハード面のみならずマネジメント、特に意思決定についても同様だ。事故直後、武藤栄・副社長(当時)の記者会見で、記者から鋭い質問が出ていた。武藤が海水注入を決断したのは1号機の爆発の前か後か、と。武藤は、「記憶を整理したい」としか答えていない。昨年7月、泉田知事が同じ質問をしたら、「1号機爆発前に決断した」と明言した。しかし、海水注入は、廃炉にする、5,000億円をパーにする、ということだ。そこで、「一存で決断できたのか」と訊いたら、「副社長では決断できない」という答えだった。当然だ。当時、勝俣も清水も本社にいなかった。
 では、誰が夜中に海水注入の決断をしたのか。
 原発が危機的になって、「誰の判断で冷却するのか」という意思決定の仕組みを作らないと、また同じことが起きる。だから、事故原因をまzちゃんと究明すべきなのだ。

 (e)そもそも、今に至るまで誰一人事故の責任をとっていない。
 工場で爆発事故が起きたら、警察と消防の合同現場検証をやって、捜査する。
 今回、まずそれをやるべきだ。やるべきことをやらず、教訓を踏まえた対策を講じていないまま再稼働するのは時期尚早だ。

 (f)原発に使うウラン235は、有限な資源だ。埋蔵量は30~50年しかない。原子力発電は、もともと人類の文明史的に見れば過渡的なエネルギーだ。その辺の議論もきちんとやるべきだ。

 以上、語り手:泉田裕彦(新潟県知事)/聞き手・まとめ:成澤宗男(編集部)「原発の再稼働は容認できない」(「週刊金曜日」2012年6月1日号)に拠る。
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【政治】必要なのは消費増税ではなく「成長のための改革」

2012年06月08日 | 社会
 社会保障と税の「一体改革」と銘打つ以上、日本経済の再生のための全体像が議論されるのか、と思いやき、実はこれはとんでもない錯覚だ。
 経済の根幹は、まず人々が働いて「稼ぐ」ことだ。その後に、税金を取り、社会保険料を徴収し、集めたお金を社会保障などで分配する・・・・という順序で経済システムは回っている。
 ところが、今回の「一体改革」は、その後半部分だけが対象で、しかも最低保障年金などの根本改革は先送りだから、部分の中の「超」部分の改革に過ぎない。
 結局、議論の中心は、消費増税だ。

 「増税の前にやることがある」という批判が高まるのは当然だ。公務員の定員・給与の削減、議員定数・歳費削減・・・・これらも重要だが、取った税金をどう使うか、という部分にすぎない。
 これで、経済全体がすぐ良くなるわけではない。

 ギリシャは、増税して破綻した。マーケットは、借金の大きさと増税だけを見るのではない。
 「稼げるか」だ。
 日本について、最も心配されているのは、ギリシャ同様、「稼げるか」だ。
 日本には、極めて恵まれた条件がある。世界最高の技術、良質な労働力、民間部門の潤沢な資金、近隣に広がるアジアの巨大成長市場・・・・。
 ところが、「稼げるか」と懸念される原因は、「成長のための改革」を実行できない政治に不信を持たれているからだ。
 <例>3大成長分野(①農業・②医療・③再生可能エネルギー)で、資本主義・自由主義の日本の企業は自由に活動できない。

 なぜ改革ができないか。
 これらの分野には、(a)強力な既得権グループ、(b)族議員、(c)官僚・・・・が居るからだ。
 自民党は、これらと一心同体だったから改革できなかった。
 野党時代には「しがらみ」がなかったから(「しがらみ」を持ちたくても相手にされなかったから)、「クリーン」と目された民主党に、国民は期待した。しかし、与党になったとたん、既得権グループが票とカネを持ってすり寄ってきたら、アッというまに自民党と同じ「しがらみ」だらけの政党に変貌してしまった。

 かくて、既得権は安泰だ。与党=民主党の背後に、既得権の守護神=官僚たちが控えているからだ。
 ①農業:減反廃止、個別所得保障の抜本改革、農協の独占禁止法適用除外廃止、株式会社算入の自由化、農地法の抜本的改革・・・・手つかずで横たわっている。
 ②医療:株式会社の算入、混合診療の解禁・・・・いつも高い壁に阻まれている。 
 ③電力:販売自由化の家庭向けへの拡大、発想電分離・・・・決まったのは東京電力の実質国有化=経産省のものにすることだけ。脱原発は風前の灯だ。

 これらの改革が実行できるか、どうか。
 それが日本再生の「踏み絵」になる。

 以上、古賀茂明「「成長のための改革」こそが必要だ ~官々愕々 第20回~」(「週刊現代」2012年6月9日号)に拠る。
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【税】消費増税しなくても財政を黒字にする方法 ~不公平な税をただす会~

2012年06月07日 | 社会
(1)税金とは何か
 税制度の本来の目的は、再分配にある。消費税は、再分配に逆行する。また、所得がなければ消費できない。消費自体には担税力はなく、課税根拠がない。
 (a)基幹税・・・・所得のあるところからとる。所得税、法人税など。
 (b)補完税・・・・基幹税で不足する場合に課税する。財産税、消費税など。  

(2)野田佳彦は財界にもっとも近い首相
 (a)日本経団連は、2011年9月に発表した「経団連成長戦略2011」の中で、社会保障の削減と消費増税が打ち出されていて、「2015年度までに10%まで段階的に引き上げること」を要求している。野田・民主党政権の「社会保障と税の一体改革」は、この財界要求に沿ったもの、言いなりだ。

 (b)「一体改革」案は、小泉純一郎以降の構造改革路線とそっくり同じで、表現が少し違うだけだ。
    ①福田康夫内閣・・・・社会保障国民会議最終報告(2008年11月)
    ②麻生太郎内閣・・・・安心実現会議報告(2009年6月)
    ③菅直人内閣・・・・社会保障・税一体改革案(2011年6月)
   誰が作ったかが問題だ。これらの作成メンバーに同じ顔ぶれが何人もいる。
    ①と③・・・・清家篤・慶應義塾大学教授
    ①と②と③・・・・吉川洋・東京大学大学院教授
    ②と③・・・・成田豊・電通最高顧問、宮本太郎・北海道大学院教授、与謝野馨・前財務相/前特任相
   「一体改革」案は、要するに看板を付け替えただけで、小泉ら自民党政権の構想となかみは同じなのだ。

(3)高額所得者への減税、拡大した格差・貧困
 租税負担率(国税+地方税)は、1990年に比べて2005年は4.5%下がっている。他方、同時期の社会保障負担率は、4.1%上がっている。つまり、税+社会保障の合計負担率は、ほとんど変わっていない。
 この間に行われた税制改革は、個人と法人の最高税率・基本税率が引き下げられ、消費税が1989年に導入された。つまり、高額所得者・大企業は減税となり、庶民には課税最低限が引き下げられる増税となった。貧乏人が金持ちを支える構造となり、富の再分配はほとんど行われていない。
 課税所得2,000万円以上の納税者は、全国に225,243人いる(2009年)。所得申告者全体のわずか3%だ。
 消費税導入前、所得税の最高税率は75%だったが、導入直前には60%に引き下げられた。前記225,243人の減税額は、2兆2,250億円に達する。この額は、小泉政権時代の庶民増税額1兆6,860億円を大きく上回る。
 課税所得5,000万円超の人は、一人当たり年平均で2,578万円超の減税だ。彼らは財界の代表者だ。こういう人たちが、政府の主要な政策審議会メンバーとして税制や財政のあり方を左右しているのだ。

(4)法人税
 表面税率は40%だ。
 (a)企業負担(税+社会保険料)を国際比較すると、OECDの30ヵ国のうちで日本の公的負担率は24番目、スロバキアの次だ。よって、「国際的に見て高い」とは言えない。むしろ低い。法人税の基本税率は、43.3%(1984年)から25%(1999年以降)にまで引き下げられているのだ。

 (b)実際の法人税負担率は、表面税率よりはるかに低い。<例>ソニー12.9%、住友化学16.6%、本田技研24.5%など。租税特別措置で実質的な減税措置を講じているからだ。OECDから、「日本の税制が最も不公平な税制度」と指摘されている(2008年勧告)。
 租税特別措置は、国税が310、地方税が338、合計648種ある。具体的には、次の①、②など。
    ①株式発行差金(株式売却金額と額面との差額、通称プレミアム)が非課税
    ②受取配当益金(企業利益の分配、配当金)が不算入、③各種引当金・準備金
 租税特別措置は、隠れた補助金と言われる。大半が非公開で全体像は不明だ。
 <例>消費税の輸出戻し制度・・・・商品などの輸出にかかる消費税は、全額還付される。輸出事業者自身の消費税はゼロになり、仕入れにかかった消費税はすべて輸出事業者に戻ってくる。もともと仕入れ段階で他の事業者が負担している消費税(輸出事業者が負担していない消費税)をタダ取りするわけだ。合計3兆3,762億円(2010年度、消費税の28%相当)。トヨタ自動車2,106億円、ソニー1,060億円、に三自動車758億円、キャノン722億円、本田技研工業656億円、パナソニック648億円・・・・。 

(5)所得税
 資産課税(株・配当金・土地譲渡など)がかつての4分の1にまで引き下げられている。

(6)結論
 (a)租税特別措置を廃止すれば、消費増税はまったく必要ない。
    ①輸出戻し制度を廃止するだけで、消費税収の3割近くが増える。
    ②(b)の①に課税すると3兆9,000億円、②を廃止すると4兆円、③を廃止すれば、1兆7,000億円の増収になる。合計9兆6,000億円の増収だ。
    ③①+②≒13兆円。財務省が秘匿する租税特別措置の全貌が公開されれば、もっと増える。

 (b)個人利子所得課税、配当課税、有価証券譲渡益課税を是正したり、土地譲渡所得の分離課税を廃止すれば、税収はさらに積み上がる。

 (c)不公平税制をただすためには、法人税・所得税(基幹税)に手をつければよい。消費税(補完税)を上げれば、ますます格差・貧困が深刻になるだけだ。消費増税が社会保障の充実につながるという議論は、原発の安全神話と同じように、庶民を洗脳するプロパガンダだ。

 以上、語り手:富山泰一(不公平な税をただす会事務局長)/聞き手・まとめ:片岡伸行(編集部)「まずは金持ち優遇税制を変えよ」(「週刊金曜日」2012年6月1日号)に拠る。

 【参考】「【税】日本経済を活性化させる3つの税制改正 ~消費増税は不要~
     「【税】税金を払っていない大企業 ~消費税は法人減税に充当~
     「【震災】復興・財政再建・社会保障の財源 ~法人税減税批判ふひたたび~
     「【経済】「消費増税は社会保障に充てる」という説明のトリック
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【税】日本経済を活性化させる3つの税制改正 ~消費増税は不要~

2012年06月06日 | 社会
 社会保障の基本理念は、所得再配分、富の再配分だ。しかるに、社会保障を口実に、「逆進性」の強い消費税の増税が行われようとしている。
 本当に消費増税しか手だてがないのか。否。税の本来の理念は、負担能力に応じた支払いだ。この理念に合わせて、適正に法人税や個人所得税を課税すれば、社会保障の充実、財政の再建は実現可能だ。
 欠陥税制を改革し、財源を確保する方途は、次のとおり。

(1)大企業の内部留保金を復興債に使う。
 日本税制の最大の問題は、税率は高くても、大企業が国税を払わなくて済む奇怪なメカニズムだ。その結果、資本金1億円以上の大企業の内部留保金額は350兆円に達する(2010年)。
 この巨額の内部留保金を復興資金、設備投資、雇用、仕事づくりに活用する道筋をつくることで、日本経済を活性化させる。
 <例>内部留保額の5%相当額の復興債引き受けを求める制度をつくる。17兆5,000億円の財源が確保できる。この場合、内部留保額の範囲を特定の超過額に限定しても、7~10兆円の規模の財源となる。

(2)公開大企業の「受取配当金無税」を廃止する。
 受取配当金の益金不算入制度による課税除外額のうち、巨大企業分が88.0%、27兆9,003億円にものぼる。
 これを法人税の課税対象とする。8兆3,700億円もの巨額の財源となる。
 受取配当金の課税控除が6兆6,026億円、喪失している財源が1兆9,807億円だ(2008年度)。受取配当金の益金不算入制度を廃止し、受取配当金を課税益金として課税すれば、毎年度、2兆円の税収が獲得できる。

(3)個人所税制を見直す。
 合計所得金額が1億円までは累進して再考28.3%だが、100億円に達する超高額所得者の税負担は逆に13.5%と著しく安くなっている。高額所得者ほど株式保有者が多く、分離課税となる株式譲渡所得(キャピタル・ゲイン)が多くなり、いかも優遇税率が適用されているからだ。
 上場株式の譲渡所得や配当に対し、10%(本則20%)とする優遇措置が時限立法で認められてきた。この優遇措置は、2011年12月で廃止されることになっていたが、金融庁が適用期限を2年間延長し、現在も適用されている。証券優遇税制による税収漏れは、年1兆円だ。
 株式譲渡所得の90%は、年収1,000万円超の納税者が得ている。
 さらに、1984年から7回にわたって、高所得者に適用する細工税率を75%から40%まで引き下げ、累進性のきざみを19段階から6段階に減らす減税が行われた。住民税も、最高税率を18%から10%に引き下げ、累進性のきざみを13段階から1段階にした。
 個人所得税の累進税率のフラット化によって、年収2,000万円超の高所得者は、1984年に比べて年5,000億円以上の増収効果を享受している。
 キャピタル・ゲインの優遇税制の廃止+高額所得者の減税優遇措置を廃止すれば、年1兆5,000億円の税収回復が可能になる。

 以上、富岡幸雄(中央大学名誉教授/元国税庁職員)「税金を払っていない大企業リスト ~隠された大企業優遇制のカラクリから」(「文藝春秋」2012年5月号)に拠る。

 【参考】「 【税】税金を払っていない大企業 ~消費税は法人減税に充当~
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【税】税金を払っていない大企業 ~消費税は法人減税に充当~

2012年06月05日 | 社会
(1)大企業ほど負担水準は低い
 (a)日本では、法人税(国税)率が30%だ。これに、法人住民税・法人事業税(所得割)・地方法人特別税(地方税)を合計した「法定実効税率」は40.69%だ。これが、諸外国に比べて高い、と批判され、次のように軽減された。
   38.01%(2012年4月~)
   35.64%(2015年4月~)

 (b)税額はしかし、「課税ベース×税率」で算出される。現実は、課税ベース(課税所得)はタックス・イロージョン(課税の侵食化)やタックス・シェルター(課税の隠れ場)によって縮小され、実際の納税額は軽減されている。 

 (c)さらに大きな問題点は、巨大企業の税負担が極端に軽いことだ。国際課税の血管により、多国籍化した巨大企業は世界的スケールで税逃れし(ワールド・タックス・プラニング)、税源を海外流出させている。結果として、日本の財政は税収減を生じ、歳入調達能力を著しく喪失し、財政赤字の元凶となっている。

 (d)企業が負担する法人税額は、法定税率より、企業利益相当額に対する法人税納付額の割合(「真実実効税率」)によって導き出されるべきだ。法人税の「真実実効税率」は、資本金100億円以上の巨大企業で、わずか15~16%(法人税率の半分)の低水準だ。
 対照的に、「真実実効税率」が最も高い水準にあるのは、資本金5,000万円~1億円未満の中小企業で、28~29%だ。中小企業は、税逃れの温床となっている「海外展開」が、資本力のある大企業に比べて難しいからだ。
 要するに日本の法人税は、巨大企業が極小の税負担、中小企業が極大の税負担、という「逆累進構造」となっている。

 (e)かかる不公平が生じるのは、課税所得が政策税制や法人税制の仕組みの欠陥に加え、税務会計システムのメカニズムなどにより歪められているからだ。
 企業にとって、税負担が下がると、より多くの純利益が手元に残る。自己資本利益率(ROE)などの上昇につながる。企業価値を高める上で税務の重みは増している。グローバル企業ほど、税に対する意識は敏感だ。世界的スケールで巧妙なタックス・マネジメントを展開する節税スキームが横行している。国内源泉所得の海外移転を狙う節税スキームの例を上げれば、次のようなものだ。
   外国子会社設立による「日本の課税権からの離脱」
   海外関連企業との取引による「移転価格操作」【注】

 【注】日本の会社が海外関連企業と国際取引する価格を調整することで、所得を海外移転する。他の企業との取引価格より安い価格で売ることで、日本企業の利益を減らし、海外子会社の利益を増やす。2007年から2010年まで、税務当局の更正処分によって追加課税された金額がもっとも大きかったのは本田技研工業の800億円だ。

(2)課税所得から除外される株の配当
 今の税制では、企業が他社の株式を持っても、その受入配当は益金に算入しなくてよい(「受取配当金の益金不算入」)。配当金収入は、会計上は収益として計上されるが、税務上は益金に算入されない(課税所得を算出する際除外される)。
 <矛盾が生じる例>A社は、その保有する他社株式の配当金を除けば赤字だ。会計上黒字なので、A社は株主に配当できる。他方、税務上赤字なので、A社は法人税を払わなくてよい。・・・・株主にとって大きなメリットのある措置だ。
 事実、大企業は多くの他社株式を保有し、巨額の配当金収入を受け取っている。
 日本における全上場企業のうち、75%近くが法人株主だ。この状況は、ここ20年以上変わっていない。
 このところ、企業にの実績に大きな変化がないのに、受取配当額は2兆5,145億円(2003年度)から急速に増大化し、11兆5,975億円に増加した。
 受取配当額は、過去6年間で45兆7,966億円の巨額に達し、巨大企業(資本金10億円以上の法人および連結法人)分が、じつに88.3%を占めている。
 いかも、受取配当金不算入制度により、課税除外(非課税となる「無税配当」)分が、全法人分として31兆6,938億円ある。このうち、巨大企業分が88.0%の27兆9,003億円にものぼるのだ。

(3)企業の負担は重くない
 (1)と(2)は、氷山の一角にすぎない。法人税課税ベースを下げている要因は次のとおり。

  (a)巨額な受取配当収益を課税対象外としている法人税制
  (b)損金概念の拡大化によるタックス・イロージョンを招く計算構造
  (c)租税特別措置としての政策減税による大企業優遇税死が「隠れた補助金」として肥大化
  (c)多国籍企業の日本の課税権からの離脱と、所得の海外移転による税逃れを許す国際課税の仕組みに内在する欠陥
  (d)国際二重課税を排除するための外国税控除制度の欠陥、タックス・ヘイブンの悪用、海外関連会社との移転価格操作による税源の海外流出
  (e)特殊形態の団体など多様な事業体や組織形態の濫用、民商法の「契約自由の法理」の曲解、悪用による税逃れ
  (f)複雑多様な経済活動に対応する会計操作の悪用、法技術のテクニックを駆使する巧みな税逃れ
  (g)金融派生商品の造出、投資ストラクチャーやオフショア(タックス・ヘイブン)のペーパー・カンパニーなどを利用する税逃れ

 問題は、この課税ベースの低減が大企業、中でも巨大企業に集中していることだ。
 この結果、企業の内部留保金額は急増している。景気後退、経済低迷、従業員給与減少、法人税額下降、にもかかわらず。
 大企業(資本金1億円以上)の内部留保金額は、120兆円(1986年)から350兆円(2007年)へと3倍に増えている。この金額のレベルは現在も維持されている。

 企業は、①法人税、②社会保険料(事業主負担)、③賃金・・・・を支払っている。企業の社会負担の大きさは、①~③の負担レベルで測定すべきだ。
 企業の社会的負担=(①+②+③)の負担÷粗付加価値額の比率で最も高いのは、デンマーク、ついでスウェーデン、英国、仏国、独国、米国だ。日本は、これら主要先進国の比率を3.6~6.3ポイント下回って、最低のレベルだ。
 日本の企業は、付加価値の配分がおかしい。従業員への賃金は上げず、国にあまり税金を払わず、ひたすら株主への配当と内部留保の増大に狂奔している。
 企業は、従業員、消費者、地域社会とも深い関わりをもつ「社会的存在」としての企業の本質と使命を忘れてはならない。
 わけても賃金については、上がらないばかりか、逆に下げられている。資本金100億円以上の大企業の労働分配率(人件費÷付加価値)は、50%(1993年)から下がり続けて41%(2007年)になっている。これら大企業の労働分配率が低下したのは、派遣労働者やパート従業員など非正規雇用者を増やして、まともな賃金を払わず、正社員の賃金をも抑制し、経営合理化の名のもとに人件費総額を減らしてきたからだ。
 こうした法人税の欠陥は、消費増税と密接にリンクする。消費増税の理由が増大する社会保障関係費支出に対処するため、というのであれば。

(4)これまでの消費税は法人減税に使われた
 (a)消費税導入(1989年度)から2011年度までの23年間、消費税の国税分は191兆5,377億円だ。
 (b)国の社会保障関係支出は、1988年度の後、140兆9,189億円増加している。
 (c)(b)より(a)が50兆6,188億円も多いのだから、これまでの消費税収入のすべてが社会保障費増加額と同じ、ではないことが明らかだ。

 では、徴収した巨額の消費税は何に使われたのか。
 (d)法人税は、18兆9,933億円(1989年度)をピークにして減少し、2011年度までに153兆757億円だ。
 (e)所得税の減収額のうち、年所得2,000万円超の高所得者への減税による減収額が毎年2兆円程度、23年間の累計額は46兆円だ。
 (d)+(e)は、199兆円になる。
 国民が収めた消費税額と、落ち込んだ法人税額の合計とはほぼ同じなのだ((a)≒(d))。
 法人税減収の最大の要因は長期不況だが、1998年度から2年続いた法人税率の大幅な引き下げ、2003年度の研究・投資減税など大企業向けの減税措置が重ねて行われたことも、税収減の大きな要因になっている。

 以上、富岡幸雄(中央大学名誉教授/元国税庁職員)「税金を払っていない大企業リスト ~隠された大企業優遇制のカラクリから」(「文藝春秋」2012年5月号)に拠る。
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【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~

2012年06月04日 | 社会
 我々が負担している税金は、次のようなものがあって、総合的に勘案しないと、本当の税負担は見えてこない。

  (a)所得税
  (b)住民税
  (c)消費税
  (d)社会保険料(実質的な税金)
  (e)その他

 税金を総合的に勘案すると、日本では金持ちの負担率は非常に低く、中流以下の負担率はとても大きい。

 <例>
 ●豊田章男・トヨタ社長(年収3億4,000万円) 所得税・住民税・社会保険料の負担率20.7%
   所得税負担率・・・・15.1%
   住民税負担率・・・・4.7%
   社会保険料負担率・・・・0.9%

 ●平均的な会社員(2008年の会社員の平均年収430万円) 所得税・住民税・社会保険料の負担率34.6% 
   所得税負担率・・・・4.3%
   住民税負担率・・・・5.1%
   社会保険料負担率・・・25.2%

 金持ちの税金は、名目上は高く設定されているが、さまざまな抜け穴があって、実質的な課税が低くなっている。
 ①配当所得に対する優遇税制。どんなに収入があっても、所得税・住民税合わせて一律10%でいい。これは、小泉政権の政策による。豊田社長の収入の3分の2は、持ち株の配当による。この配当収入に対して、所得税・住民税はわずか10%で済んでいるのだ。
 ②社会保険料の“掛け金上限制度”。現在の社会保険料は、事業者負担・本人負担合計で約0%だが、社会保険料の掛け金には上限があり、年収1,000万円程度の人が最高額になる。それ以上収入がある人は、いくら多くてもそれ以上払わなくてもいい。だから、年収1,000万円を超えれば、収入が増えれば増えるほど社会保険料の負担率は下がっていく。年収1億円の人の社会保険料は、普通の人の10分の1になる。年収3億円の人は、30分の1だ。

 今の日本の税制では、実質的に逆進課税になっている。こんな国は、先進国では余り例がない。新自由主義の本家、米国の金持ちでさえ、日本よりはrかに多くの税金を払っている。日本は金持ち天国だ。
 そして、収入が低い人たちや毎日生活するのがやっとの人たちには、世界的に見ても高い税負担を課している。これでは格差社会ができても当然だ。
 現在の格差社会は、貧富の二分ではなk、国民全体の生活レベルが下がり、ごく一部の国民だけが多くの富を占めている状態だ。こういう状態が経済をもっとも停滞させる。

 国民全体の生活レベルが下がれば、それだけ社会全体の消費が減る。消費が減れば、経済は縮小し、さらに景気が悪くなる。
 金持ちの収入が増えても貯蓄に回されるから、社会全体の消費は増えない。
 だから、富の一極集中が進めば、消費はどんどん減る。実際、日本のこの十数年の経済状態を見れば、その通りになっている。
 その根本的要因が、金持ち優遇税制だ。
 億万長者を潤すために、国民全体が我慢をしている。それが日本の税制だ。

 ほんの20年前には、金持ちの税金は今よりはるかに高かった。概算でも倍以上の税金を払っていた。その時代の日本は、一億総中流と言われ、格差とはほど遠い国だった。そして、経済も、今よりはるかに活気があった。
 今、日本の税制がしなくてはならないことは明白だ。金持ちからまともに税金をとることだ。少なくとも、トヨタの社長の税率は、平均的な会社員の倍以上になるくらいにはすべきだ。

 以上、武田知弘(経済ジャーナリスト/元大蔵官僚)「トヨタ社長より高い庶民の実質税負担」(「週刊金曜日」2012年6月1日号)に拠る。

 【参考】「【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
     「【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
     「【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
     「【経済】消費税は失業者を増やす
     「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
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【原発】原発は不良債権 ~異常な原子力予算~

2012年06月03日 | 震災・原発事故
(1)東京電力「総合特別事業計画」(5月9日政府/経産省認定)
 電気料金値上げと東電・柏崎刈羽原発の再稼働がセットになっていることも問題だ。が、もっと本質的な問題は、原発事故被災者を見殺しにし、既に実質破綻しているゾンビ企業=東電を国民負担(公的資金+電気料金)でどこまでも救い続けなければならないことだ。
 放射能汚染の賠償費用さえ、電気料金に上乗せされ、国民の負担にされようとしている。
 「失われた30年、40年」になりかねない。

(2)東電の現況
 東電の自己資本は8,000億円だが、イカサマの上に成り立っている。
 東電は、原子力損害賠償支援機構に賠償費用を申請し、交付される。実際には、何ヶ月もかかる。その間、東電は架空の「未収金」という資産を帳簿に載せて乗り切っている。
 すでに2.4兆円が交付されているが、これでは賠償費用を払えない。事故処理費用もまだ膨らむ。今後、銀行からの借り入れと社債発行ができないと、毎年1兆円kらいの借入金の返済が4、5年続く。とても持たない。すでんい日本長期信用銀行と同じ状態だ。しかも、電気料金値上げと原発再稼働がなければ1年で債務超過になる。

(3)事業計画の問題点
 (a)この計画には巧妙なトリックが隠されている。「援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、原子力事業者=東電を債務超過にさせない」ととした2011年6月14日の閣議決定を「参考資料」として掲載している。
 これがなぜ問題か。原子力損害賠償支援機構成立(2011年8月)の際、付帯決議第10条で、この閣議決定の支援の枠組みは「役割を終えた」とされ、「見直し」を求められた。その上で、賠償支援機構法自体に「国民負担の最小化」と「利害関係者全ての負担」が盛り込まれた。
 しかるに、事業計画には、見直しを求められた閣議決定を平然とそのまま掲載している。国会決議を無視したものになっている。
 しかも、これは「参考資料」であって、経産相の認定の範囲ではない、と東電は言っている。つまり、経産相は、事業計画の本文だけを認可した形にしている。
 (b)金融機関が東電に貸し出す際、担保をとれる「私募社債」の発行が検討されている。私募社債は、電気事業法第37条で優先弁済が規定されている。福島県民へn賠償金の支払いより金融機関の返済が優先されている。これでは、被災者救済ではなく、銀行救済だ。金融機関の倫理が問われる。
 (c)放射線量20mSv/年未満は住民全体が「帰宅する」ことを前提にして賠償費用を再計算し、なと4,344億円も削減している。20mSv/年未満で帰宅の人には避難費用も出さない可能性がある。
 (d)除染費用を一切計上していない。除染するつもりはない、ということだ。この再計算も「参考資料」でやっている。
 (e)福島県知事は福島第一、第二原発すべての廃炉を求めているが、第一原発1号機から4号機までの廃炉費用1兆1,500億円しか計上していない。つまり、第二原発を再稼働するか、ツケを先延ばしにする計画だ。

(4)原発は不良債権
 電力不足キャンペーンはまったくの嘘。原発依存度の低い中国電力と原発がない沖縄電力は黒字だ。
 東電の場合、昨年の燃料費値上がり分は、ほとんど家庭用料金値上げですでに吸収している。
 なぜ電気料金値上げを目論むといえば、原発が不良債権化してしまっているからだ。
 原発は、1機数千億円の建設費がかかり、それを借金で建設しているから、多額の返済コストがかかっている。事故の収束もできないので、民間の損害保険会社から損保加入を拒絶されている。しかし、電力会社が潰れないためには、安全性が担保できないその不良債権を無理やりにでも雨後かさなければならない。不良債権化した原発を抱える電力会社の経営が成り立たなくなるので再稼働しようとしている。
 電力会社の決算を見ると、原発依存度によって違うが、すべての原発が止まった場合、各社少なくとも毎年1,000億円から2,000億円の赤字が見込まれる。依存度48%の関西電力に至っては、今年2,500億円の赤字、来年は4,000億円の赤字が見込まれ、数年すると九州電力も自己資本を食い尽くして債務過剰になる。

(5)異常な原子力予算
 こんな事業計画と電気料金値上げを許してはいけない。事業計画にある「社内カンパニー制」などではなく、東電を国有化した上で将来に向けて発電と送配電の所有権を分離して売却、解体していくことが必要だ。それでも、賠償費用、除染費用、廃炉費用に足りない。その分は、原子力予算を組み替えればよい。
 15年も動かず1兆円を費やしている「もんじゅ」。計画から20年経っても稼働できない六ヵ所村の再処理施設には建設費と運転費用合わせて3兆円がつぎ込まれている。核燃料サイクル事業もまた不良債権化している。
 誰も責任をとっていない。
 停止中の「もんじゅ」は、冷却費用だけで毎日5,500万円もかかる。
 福島県民がこれだけ苦しんでいるというのに、どう見てもこの事態は異常だ。

 以上、語り手:金子勝(慶應義塾大学教授)/聞き手・まとめ:片岡伸行(編集部)「原発は不良債権である ~金子勝慶應義塾大学教授に聞く~」(「週刊金曜日」2012年6月1日号)に拠る。
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【原発】4号機が「爆発する危険」の可能性

2012年06月02日 | 震災・原発事故
 政府は、昨年12月に「収束宣言」を出したが、国内はおろか海外でもまったく信用されていない【注1】。
 福島第一の原子炉建屋が再び地震に襲われれば、それらが崩壊して、当初の事故より大規模な放射性物質の放出が起こる【注2】。日本は、動きが遅くて、危険な核燃料棒を原子炉から取り出していない。【ロン・ワイデン米国上院議員】
 (4月に来日して福島第一原発の事故現場を視察した)ワイデン上院議員は、ヒラリー・クリントンらに書簡を送り、4号機の脆弱性を指摘した。同氏は、また大地震が起きたら、オレゴン州や西海岸まで致命的なリスクを与えるような大惨事となるのではないか、と恐れている。【オレゴン州メディア】

 4号機の使用済み燃料が崩壊すれば、最悪の結果を招く。たとえプール自体が倒壊しなくても、冷却システムの損傷や漏水などでプールの水がなくなってしまえば、非常に重大な事態に陥る。【ロバート・アルバレス・元米国エネルギー省長官/使用済み燃料問題の第一人者】

 東京電力によれば、4号機建屋は耐震補強工事を施した結果、震度6強の揺れにまで耐えられる。
 しかし、それを超える地震が起きた場合、どうなるか。東京近郊では、現在M7クラスの直下型地震の危険性が指摘されている。福島第一原発の直下にも、要注意活断層があることが知られている。

 東電の対応は、余りにも遅い。4号機の燃料プールに問題が生じたら、チェルノブイリ以上の大惨事になる。周囲の広大な土地は居住不能になり、その居住不能エリアによって日本は南北に分断される。【アーニー・ガンダーセン・米国スリーマイル島原発事故調査に参加した原子力技術者】【注3】
 実際、昨年3月の事故直後、近藤駿介・原子力委員会委員長が菅直人・首相(当時)に対して密かに提出したシミュレーションでは、福島第一が制御不能となり、4号機プールの燃料がすべて漏出した場合、①半径170km以内は強制移住、②同250km以内も非難が必要・・・・との衝撃的な結論が示されていた。①は、岩手、宮城、山形、新潟、群馬、栃木、茨城、千葉、埼玉までの広範な土地が含まれる。②となれば、東京、神奈川、山梨、長野の一部なども避難区域に入ってしまう。3,000~4,000万人もの人々が自宅を捨てて逃げ出さねばならなくなる【注4】。

 4号機の燃料プールには、使用済みと未使用のものと、合計1,500本、400トン以上の大量の燃料棒が置き去りになっている。
 東電は、まず原子炉建屋に放射性物質飛散防止の巨大な覆いを被せ、ついでプールの底に沈んでいるガレキを撤去、その後来年末から燃料棒を取り出す、と計画している。が、この予定通り進むのか、現時点では誰も断言していない【注5】。
 プールの中には事故の影響で大量のガレキが沈んでいる。燃料棒が詰まった「燃料集合体」を吊り下げるラックなどが破損している可能性がある。水中に置いたまま、特殊な容器「キャスク」に収めねばならないが、燃料集合体が破損している場合、専用のキャスクを作り直さねばならない。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
 高放射線量の環境で、ガレキを除くための設備を作り、安全かつ完全にガレキを撤去した後に始めて燃料棒の取り出しにとりかかるのだ。
 核燃料は、ただクレーンを作って引っ張り上げればよい、というものではない。万が一、燃料棒が空気中に露出すれば、近寄った人間が即死するほどの放射線を発するのだ。来年末に燃料棒取り出しにかかる、という東電の見通しは甘いのではないか。【アルバレス元長官】
 だが、この極度に困難な作業は、時間との勝負でもある。震災の余震は、今後100年以上続く、という京大防災研究所の研究がある。4号機のプールに燃料棒が残っている間に次の巨大地震が起きたら、一撃で日本は終わる。
 燃料プールが倒壊したり、水が漏出したりすれば、燃料棒の金属被覆(ジルコニウム)の温度が上がり、摂氏800度くらいで発火、火災が発生し、放射性物質を撒き散らす。4号機で火災が発生すれば、チェルノブイリの10倍のセシウム137が撒き散らされることになる。【アルバレス元長官】
 この爆発的火災がひとたび発生したら、コントロールは全くできない。逃げ出す以外に方法はない。

 フクシマの問題は、4号機の危機を軸に、国際的に広がりつつある。4号機の燃料プールが崩壊したら、日本だけの問題で済まなくなっていることを今や世界中が知っている。そして、各国は日本政府に疑いの目を持っている。このままでは自分たちも日本の巻き添えにされる。そんな危機感が燃え広がっている。日本政府はそれに気付いていない。【村田光平・元駐スイス大使】
 この4月、村田、小出、アルバレスら日米の識者、72のNGOは、潘基文・国連事務総長および野田佳彦・首相に対して、次のような趣旨の緊急書簡を送付した。
 (1)国連は福島第一4号機の使用済み燃料プールの問題を取り上げる原子力安全サミットを計画すべきだ。
 (2)同4号機に関して独立アセスメントチームを作り、プールを安定化するための国際的支援をコーディネートし、起こり得る大惨事を防ぐべきだ。

 【注1】「【震災】原発>「年内に冷温停止」は虚構 ~地下ダムと石棺が必要~
 【注2】「【震災】原発>倒壊の危険にある4号機
 【注3】「【震災】原発>途方もないフクシマの潜在的リスク ~米国技術者の緊急提言~」「【震災】原発>いまだ収束せず ~米国が恐れる「核燃料火災」~
 【注4】「【震災】原発>250km圏内は避難対象 ~機密文書「近藤メモ」~
 【注5】「【震災】原発>「廃炉」という地獄 ~40年後~

 以上、記事「福島第一原発4号機が「爆発する危険性」をどう考えるべきか」(「週刊現代」2012年6月9日号)に拠る。
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