語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】エネルギー政策をどう見直すか ~再稼働の論理の破綻(5)~

2012年06月17日 | 震災・原発事故
 (承前)

(5)エネルギー政策をどう見直すか
 (a)「エネルギー基本計画」をゼロベースで見直されることになり、経産省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会のもとに基本問題委員会を設置して議論することになった。5月24日までに24回、会議が開催された。
 しかし、基本問題委員会の基本的問題が解決されないまま、今日に至っている。

 (b)現状のエネルギー政策体制は、国民からの信頼がない。本来ならば、所轄官庁などを含め人心を一新したうえで新しいエネルギー計画を議論すべきだが、旧来のエネルギー基本計画を作成した体制(審議会委員・事務局体制)をそのままに、若干のメンバーを追加した程度では正当性を担保できない。・・・・そう飯田委員は第1回会議で指摘した。そのうえで、特定の利害関係者と事前に謀った「落としどころ」に議論を誘導しないこと、委員会構成の公正・中立性(委員長選任を含む)、事実上の決定権を持つ事務局の審議運営の公正・公平・透明性を確保すること、アリバイや見せかけ、「やらせ」ではない徹底的な国民との対話および国民同士の議論を促す工夫や仕掛けなどを求めた。

 (c)しかし、第1回の会合は、合議で決すべき委員長の選任について、三村明夫・総合資源エネルギー調査会総合部長/新日鉄会長が、自分で自分を基本問題委員会委員長に「任命」することからスタートした。三村は、経団連や新日鉄などの利害を背負っている。新しいエネルギー政策を取りまとめていく立場には不適当だ。
 実体的にも、会議の運営面できわめて問題が多い。委員からの自由で建設的な意見を封じ込め、事務局の筋書きを押しつける強引な運営を行っている。その采配を裏で取り仕切っているのは、事務方(経産省レミングの群)だ。
 事務方が議論を誘導する、それを三村委員長が追認する、というパターンで、実質的議論が阻害されてしまっている【注】。

 (d)(c)のもっともひどい例・・・・「エネルギーミックス」の選択肢」を4つのパターンで提示。
 2030年時点での電力における原発の割合として、当初、①0%、②15%、③20%、④35%の4案が提示された。これは、もともと事務方が委員からアンケートを集め、それを整理して資料にしたものにすぎない。かかる数字遊びには本質的意味はない。本来、政策立案は、個別具体的な議論と検証を経ながら煮詰めていくべきもので、数字はその議論の結果として出てくる。
 が、今なお2030年時点で③や④の非現実的な数字を唱えている委員が多数いること自体、基本問題委員会の基本的問題を象徴している。
 福島第一原発6基+運転開始40年超の炉を廃炉にし、新設なしの場合、2030年度末の原発の設備容量は1,891万kW。
 これに加え、福島第二原発、女川原発、浜岡原発を廃炉にした場合、1,486万kW。
 さらに、柏崎刈羽原発も廃炉にした場合、995万Kw。
 ③のケースで、稼働率80%としても、必要な設備容量は3,000万kW。
 25%のケースで3,600万kW。
 ④のケースに至っては、5,000万kW。
 まったくリアリティがない。これは3・11以前の設備容量よりも多く、論外だ。
 実際には、稼働率は老朽化とともに下がっていくだろうから、2030年段階で6~9%がせいぜいだ。
 「脱原発依存」の方針を前提に議論する以上、運転40年で廃炉、新規増設なしの場合、10~15%を上限の選択肢とし、いかに原発割合を①にしていくかを議論すべきだ。

 (e)原則論に戻れば、(d)のような議論ではなく、どのような理念のもとに、どのような政策を採用しながら進んでいくのかという本質こそ議論しなければならない。

 (f)しかるに事務方は、すでに他の審議会、原子力委員会、国会議員などにも基本問題委員会では4つのオプションが出された、と説明している。
 参考資料のレベルにすら達していない資料を、委員長が異論を排除しながらまともに議論しないまま既定のものとする。このような恥ずべき水準のものを、あるべきエネルギー政策についての選択しとして国民に提示する、という。恥を知れ。

 (g)議論の一例、日本が原子力技術を確保しておくことの必要性・・・・自前の原子炉をついに確立できなかった日本にあるのは一般的な製造技術のみ。原子力にかかわる技術を育成するとしても、それは廃炉と使用済み核燃料の管理のためだ。

 (h)議論の一例、原発輸出への期待・・・・核を持たずにきた国に対して原子力を輸出する無責任さ、自国で脱原発依存を進めながら他国に売り込む矛盾も批判されるべきだが、経済的に得るものは少ない。原子力のコストは上昇し続けている。今回の事故で、さらに跳ね上がる。
 原発輸出に成功しても、建設費の増加などの追加コストのため、原発メーカーが経営危機に陥るリスクは低くない。原子力は、すでに世界的斜陽産業だ。<例>フランスの原発国策企業アレバ社は、フィンランドの原発建設で工期延長と建設費増大のため、経営危機に陥った。

 (i)議論の一例、原子力開発を進める東アジア諸国への対抗意識・・・・近隣諸国と原子力損害賠償の相互協定を結ぶことを提起すべきだ。今回の事故の損害について日本が補償するとともに、今後、中国・台湾・韓国の原発で事故が起きた時の損害賠償の枠組みをつくることで、原発がこの地域に無限定に増えていくことを抑止する枠組みをつくるべきだ。
 
 【注】「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~

 (続く)

 以上、飯田哲也(環境エネルギー研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。

    *

(1)恣意的な議論操作の疑い
 国の原子力政策の根幹を揺るがしかねない大問題が、今、白日の下にさらされつつある。内閣府の原子力委員会で、原発推進派だけを集めた「秘密会議」が今年2月にもたれ、「新大綱策定会議」に使われる議案の原案が事前に配られていたのだ【注】。
 「大綱」は、原子力分野の憲法というべきものだ。
 <原子力政策の基本である大綱を、原発推進派である利害関係者たち自身で書いていた、あるいは事前にチェックしていたとすれば大問題です。壮大なヤラセ、国家的な詐欺だ。東電は、国策に従って原発を進めてきたのだから、事故の責任から免れられるかのような良いぶりをしますが、自ら国策作りに関与していたとすれば、言い逃れはできない。原子力体制は根本から腐っているというほかなく、徹底的な検証が必要です>【金子勝・慶應大学教授/策定会議メンバー】

(2)委員長・委員の中立性の問題
 原子力委員会をめぐって、3人の専門委員が400万から800万円強の寄付を原発関連事業者などから受けていたことで、利益相反が疑われている。

(3)事務局の中立性の問題
 事務局スタッフのうち、8人が東電、関電、東芝、三菱重工などからの出向組で、その給与や社会保障費も出身企業が負担していたことが明らかになっている。

 【注】「【原発】非公開会議による報告書の書き換え ~核燃料サイクル~

 以上、記事「ふざけるな!再稼働」(「週刊朝日」2012年月日号)の「大飯原発再稼働の真相 原子力ムラの“国家的詐欺”を暴く!」に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン