(1)原発推進派の魂胆
(a)脱原発に「賛成」44%、「どちらかといえば賛成」36%、合計80%。停止中の原発は「電力需給に応じ必要分だけ再稼働を認める」54%。現在の福島第一原発に「不安」および「ある程度不安」92%。【日本世論調査会調査、2012年3月】
(b)「電力が不足するのなら、安全が確認された原発は再稼働させてもよい」51.5%。【FNN世論調査、2012年5月21日】
(c)(a)と(b)からすると、人々の意識は脱原発に傾いているが、30%は「電力不足で停電するのは困る」と考えている。してみれば、曖昧な脱原発意識の30%を停電という事態に追い込めば、「いやいやながら原発再稼働を容認する」人たちを脱原発の人たちと拮抗させることができる。関西電力の夏場の電力需給逼迫を利用して電力不足の怖さを感じさせれば、キャスティングボードを握る曖昧な30%を「いやいやながらの容認派」に仕立てることが可能になる。
(2)関西電力の電気は足りるか
関西電力は、もっとも原発依存度が高い電力会社で、発電量の4割以上を原発に頼る(2009年度)。しかし、原発の設備量は26%にすぎない。他の発電所を停めてでも原発を優先させているだけだ。
関電は、大飯原発の再稼働を求めるため、夏場の電力需要ピーク時に不足する電力量を過大に見積もっている。
経済産業省によれば、他の電力会社の節電を前提とした融通などがあれば不足は5%程度だ(5月15日、大阪市エネルギー戦略会議)。しかし、共同通信社の調査によれば、経産省の融通電力の数値は同日同時に各社の消費ピークが来ることを前提としており、実績に基づいたうえで、西日本の電力6社が5%強の節電をして融通すれば、原発を再稼働しなくても電力は不足しない。
関電のご都合主義データは、他にもある。関電は、それまでは大飯原発3、4号機が再稼働しても5%不足する、としていたのに、政府の需給検証委員会では一転して「再稼働すれば夏の電力確保に余裕ができる」と述べている。
明らかなことは、「大飯原発の再稼働を企画して、恣意的にデータを変えている」ことだ。当初の関電の推計データは、
(a)需給量が過大だ。猛暑だった2010年の数値を用い、2011年の数値も過去5年平均の数値も使わない。
(b)節電効果を織り込まない。
(c)ピークシフト契約や時間帯別料金制度を導入しようとしない。
(d)冷房過剰の抑制や老朽エアコンの買い換えを予定しない。
(e)節電すれば安くなる料金形態を導入しない。逆に、「はっぴeポイントクラブ」でオール電化を推進し、消費を促進している。
供給量の側には、過小評価がたくさんある。
(a)震災から1年以上経つのに、休止中の火力発電所の手入れをして発電設備を増やそうとしていない。
(b)揚水発電所を肝心な時に十分使おうとしていない。
(c)太陽光など自然エネルギーをほとんど計算に入れていない。
(d)企業の持つ自家発電設備の余剰分買い上げを検討していない。
(e)他の電力会社からの融通電力が不十分だ。
要するに、怠慢のうえにあぐらをかいた電力会社が作るシナリオが「電力不足」だ。
(3)何のための再稼働か
(a)追い詰められた関電は、原発再稼働を電気需要のせいだと言い訳できなくなり、「再稼働は電気需要の問題とは別」だと述べた。
(b)停電と再稼働がからまないにも拘わらず、再稼働を求め続ける理由は、原発の不良債権化だ。再稼働せず、脱原発すれば原発は資産から負債になる。企業会計上、債務超過に陥る。それは困るので、再稼働して時間を稼ぎ、その間に利益を上げて引当金を積み、債務超過にならないようにしよう、というわけだ。
(c)しかし、国民の命と単なる「時間稼ぎ」が比較になるか。それならば、企業会計に例外を設けたほうが、まだマシだ。しかも、今の政策のままでは、負債の増加が避けられない。これまで、再処理して使うという偽装シナリオによって、使用済み核燃料=「負債」を「資産」扱いにして、有害物質を資産計上してきた。そのために動かさなくても維持費だけで毎年1,100億円かかる六ヶ所村再処理工場や、同じく200億円以上かかる高速増殖炉「もんじゅ」を資産計上させてきた。
(d)原発を止める総発電コストが上がるのは、火力発電の燃料代のせいではなく、再処理工場や「もんじゅ」の維持費のためだ。
(続く)
以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。
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(a)脱原発に「賛成」44%、「どちらかといえば賛成」36%、合計80%。停止中の原発は「電力需給に応じ必要分だけ再稼働を認める」54%。現在の福島第一原発に「不安」および「ある程度不安」92%。【日本世論調査会調査、2012年3月】
(b)「電力が不足するのなら、安全が確認された原発は再稼働させてもよい」51.5%。【FNN世論調査、2012年5月21日】
(c)(a)と(b)からすると、人々の意識は脱原発に傾いているが、30%は「電力不足で停電するのは困る」と考えている。してみれば、曖昧な脱原発意識の30%を停電という事態に追い込めば、「いやいやながら原発再稼働を容認する」人たちを脱原発の人たちと拮抗させることができる。関西電力の夏場の電力需給逼迫を利用して電力不足の怖さを感じさせれば、キャスティングボードを握る曖昧な30%を「いやいやながらの容認派」に仕立てることが可能になる。
(2)関西電力の電気は足りるか
関西電力は、もっとも原発依存度が高い電力会社で、発電量の4割以上を原発に頼る(2009年度)。しかし、原発の設備量は26%にすぎない。他の発電所を停めてでも原発を優先させているだけだ。
関電は、大飯原発の再稼働を求めるため、夏場の電力需要ピーク時に不足する電力量を過大に見積もっている。
経済産業省によれば、他の電力会社の節電を前提とした融通などがあれば不足は5%程度だ(5月15日、大阪市エネルギー戦略会議)。しかし、共同通信社の調査によれば、経産省の融通電力の数値は同日同時に各社の消費ピークが来ることを前提としており、実績に基づいたうえで、西日本の電力6社が5%強の節電をして融通すれば、原発を再稼働しなくても電力は不足しない。
関電のご都合主義データは、他にもある。関電は、それまでは大飯原発3、4号機が再稼働しても5%不足する、としていたのに、政府の需給検証委員会では一転して「再稼働すれば夏の電力確保に余裕ができる」と述べている。
明らかなことは、「大飯原発の再稼働を企画して、恣意的にデータを変えている」ことだ。当初の関電の推計データは、
(a)需給量が過大だ。猛暑だった2010年の数値を用い、2011年の数値も過去5年平均の数値も使わない。
(b)節電効果を織り込まない。
(c)ピークシフト契約や時間帯別料金制度を導入しようとしない。
(d)冷房過剰の抑制や老朽エアコンの買い換えを予定しない。
(e)節電すれば安くなる料金形態を導入しない。逆に、「はっぴeポイントクラブ」でオール電化を推進し、消費を促進している。
供給量の側には、過小評価がたくさんある。
(a)震災から1年以上経つのに、休止中の火力発電所の手入れをして発電設備を増やそうとしていない。
(b)揚水発電所を肝心な時に十分使おうとしていない。
(c)太陽光など自然エネルギーをほとんど計算に入れていない。
(d)企業の持つ自家発電設備の余剰分買い上げを検討していない。
(e)他の電力会社からの融通電力が不十分だ。
要するに、怠慢のうえにあぐらをかいた電力会社が作るシナリオが「電力不足」だ。
(3)何のための再稼働か
(a)追い詰められた関電は、原発再稼働を電気需要のせいだと言い訳できなくなり、「再稼働は電気需要の問題とは別」だと述べた。
(b)停電と再稼働がからまないにも拘わらず、再稼働を求め続ける理由は、原発の不良債権化だ。再稼働せず、脱原発すれば原発は資産から負債になる。企業会計上、債務超過に陥る。それは困るので、再稼働して時間を稼ぎ、その間に利益を上げて引当金を積み、債務超過にならないようにしよう、というわけだ。
(c)しかし、国民の命と単なる「時間稼ぎ」が比較になるか。それならば、企業会計に例外を設けたほうが、まだマシだ。しかも、今の政策のままでは、負債の増加が避けられない。これまで、再処理して使うという偽装シナリオによって、使用済み核燃料=「負債」を「資産」扱いにして、有害物質を資産計上してきた。そのために動かさなくても維持費だけで毎年1,100億円かかる六ヶ所村再処理工場や、同じく200億円以上かかる高速増殖炉「もんじゅ」を資産計上させてきた。
(d)原発を止める総発電コストが上がるのは、火力発電の燃料代のせいではなく、再処理工場や「もんじゅ」の維持費のためだ。
(続く)
以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。
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