語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【官僚】年金で利権を拡大 ~年金積立金管理運用独立法人(GPIF)~

2012年06月23日 | 社会
 1990年代の官民癒着の経済事件に、野村證券の損失補填事件がある。野村證券のTBSへの損失補填が明るみに出たのを契機に、総会屋への利益供与などが証券取引法(現・金融商品取引法)違反に問われた。

 じつは、この事件で真っ先に野村の損失補填先として名が挙がったのは、旧・厚生省所管の年金福祉事業団だった。年福同事業団は、
 (a)1961年に設立。当初、年金制度普及のための啓蒙活動だけを行っていた。
 (b)公的年金の積立金が貯まってくると、運用に手を出した。1980年~1988年、年金受給者の保養施設と称する「グリーンピア」を13ヵ所に設置した。うち8ヵ所は歴代厚生大臣の地元で、建設利権の疑惑が生じた。
 (c)その後、同事業団は住宅ローンの貸付業務に乗り出した。名目は被保険者への貸付だったが、実質的に住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)と同じ業務への進出だった。 
 (d)さらに、1986年から、大蔵省資金運用部から財政投融資を借り入れ、年金運用事業を開始。株式などの運用に手を染め、本格的財テクを始めた。
 (e)大蔵省は、(b)(c)に批判的だったが、理事ポストを餌にぶら下げられると、コロリと一転、(d)の財政投融資貸付を認めた。
 財テク事業運用開始直後の運用成績は、まずまずだった。しかし、これにはからくりがあった。年福同事業団は、運用に失敗すると、「俺たちは役人だ、カネを持ってこい」と強圧的な態度で、臆面もなく補填要求をしていたのだ。野村證券は、役人に睨まれてはまずい、とせっせとカネを貢いでいたが、最終的には大蔵省を巻きこむ大スキャンダルに発展した。

 この事件後、証券会社からの補填がなくなると、年福同事業団の運用成績は急降下した。1986年度~2000年度の15年間の各年度の損益実績は黒字5回、赤字10回、累積損失は1兆7,025億円にのぼった。年福同事業団は、「満腹事業団」と揶揄されるに至った。
 途中から自治体に運営を委託したグリーンピア事業も、膨大な赤字を垂れ流し続けた。2001年の財政改革でグリーンピアの売却・譲渡が決定されたが、投じられた1,953億円のうち48億円しか回収できなかった。
 年福同事業団は解散した。が、解散前に年金運用業務だけ切り離され、2001年度から「年金運用基金」に更衣された。所在地も職員もすべて同じ。単に看板をすげかえただけだった。
 組織の名称を変えただけだから、基金の運用実績もさんざんなままだ。2002年度までの累積利差損は6兆717億円にも達した。

 厚労省は、ふたたび看板を書き換え、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)を設立した。これまた、ヒト、モノ、カネを横滑りさせただけで、実態はまったく変わっていない。
 国が年金運用業務をやるにしても、年福同事業団も年金積立金管理運用独立法人(GPIF)も必要がない。実際に運用しているのは民間金融機関だからだ。運用に回されているのは国民が納めた年金保険料の一部(1割以内)だが、GPIFはその資金の大半を信託銀行や投資顧問会社など民間金融機関に外部運用委託=丸投げしているのだ。間に介在するGPIFは、厚労官僚の天下り先としてだけ存在している。
 運用実績をあげられない無用の機関がしぶとく存在し続けているのは、厚労官僚がかばっているからだし、民間金融機関が(黙っていれば運用委託され手数料が入る以上)黙っているからだ。

 以上、高橋洋一(元大蔵相理財局資金企画室長)『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011)に拠る。
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