(承前)
(2)電力は足りないか
政府は、再稼働について言明している。
①安全を最優先し、安全でなければ必要であっても再稼働しない。
②安全であっても必要がなければ再稼働しない。
そして政府は今、すでに「安全」という「確認」はなされたので、残るハードルは必要性だとし、経産省と電力会社の合作による電力不足キャンペーンを演じている。
当初、経産省・関西電力は、大飯原発の再稼働がなければ、平年並み(過去5年の平均)の暑さで15%以上、一昨年並みの猛暑であれば20%程度の電力が不足する、よって再稼働が必要だ、と主張していた。
(a)これは浅はかなトリックで、事故前の実績値で試算している。
事故後を見れば、昨年8月末までに原発は全体の8割が停止したが、節電努力により、猛暑にもかかわらずピーク電力は、東電管内で前年より18%(全国でも13%)も削減された。
昨夏は、大口顧客に対して電力使用制限令が出た。その削減実績は、家庭・中小企業の「電灯」契約が8.2%、小規模工場などの「動力」契約が9.5%、もっとも電力消費量の大きい特別高圧契約が(ピークカット15%もの義務を課されているにもかかわらず削減率がもっとも小さい)5.1%。
したがって、
①政府エネルギー・環境会議の試算・・・・電力需要を昨夏なみに抑制できれば、日本全体の電力需要1億5,661万kWに対して供給力は1億6,297万kWで、636万kWの供給予備がある(予備率4%)。東日本3社、中西日本6社ごとに見ても不足はない。電力会社ごとに見ても、他社からの融通など追加対策が本当に必要なのは関西電力だけだ。
②環境エネルギー政策研究所(ISEP)の試算・・・・昨年なみの節電を(よりスマートな方法で)実施して最大電力を昨夏なみにおさえ、発電設備を再点検して供給力を見直すと、今夏にすべての原発が停止したままでも、電力ピーク時に全国で16%以上、東日本3社で24%以上、中西日本6社で11%の電力需要の余裕を確保できる。
(b)経産省は、オイルショック以来の「我慢して節電」という観念のままフリーズしている(<例>無差別に15%を一律かつ強制的に削減させる昨年の電力使用制限令)。
しかし、こうしたアプローチは、欧米ははるか昔に卒業した。
需要を減らすことは、新しい発電所をつくることと同義なのだ。これは、需要管理=デマンドサイドマネージメント(DSM)と呼ばれる。供給を増やすための資金を需要を減らすために使うか、需要を減らした部分をマイナスの発電「ネガワット」として取引する。村上憲郎・大阪府市エネルギー戦略会議参与の試算によれば、ネガワット取引を駆使することで、関電は500万kWものネガワットを利用できる。
DSMは、21世紀のエネルギー政策の根本概念のひとつだが、日本では致命的に欠落してきた。その状況に多少の変化が見られてきたことは、エネルギー政策の進歩だ。
(c)電力会社には、法的に電力を安定供給すべき義務と責任がある。原発が稼働を停止するリスクは、3・11以前にも存在した(<例>2002年に東電の原発が全基停止した)。にもかからず、関電は電力供給の面でも経営面でも原発に頼りきる「原発一本足打法」の経営を改めずにきた。その経営責任を問わなければならない。
関電は、大阪府市エネルギー戦略会議においても、国の需給検証委員会においても、再稼働なしに安定供給する見通しを示していない。これは、安定供給への真剣な努力をせず、夏期に停電すると脅し、自ら「停電ブラック企業」であると宣言するに等しい。
(続く)
以上、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。
*
関西電力は、もっとも原発依存度が高い電力会社で、発電量の4割以上を原発に頼る(2009年度)。しかし、原発の設備量は26%にすぎない。他の発電所を停めてでも原発を優先させているだけだ。
関電は、大飯原発の再稼働を求めるため、夏場の電力需要ピーク時に不足する電力量を過大に見積もっている。
経済産業省によれば、他の電力会社の節電を前提とした融通などがあれば不足は5%程度だ(5月15日、大阪市エネルギー戦略会議)。しかし、共同通信社の調査によれば、経産省の融通電力の数値は同日同時に各社の消費ピークが来ることを前提としており、実績に基づいたうえで、西日本の電力6社が5%強の節電をして融通すれば、原発を再稼働しなくても電力は不足しない。
関電のご都合主義データは、他にもある。関電は、それまでは大飯原発3、4号機が再稼働しても5%不足する、としていたのに、政府の需給検証委員会では一転して「再稼働すれば夏の電力確保に余裕ができる」と述べている。
明らかなことは、「大飯原発の再稼働を企画して、恣意的にデータを変えている」ことだ。当初の関電の推計データは、
(a)需給量が過大だ。猛暑だった2010年の数値を用い、2011年の数値も過去5年平均の数値も使わない。
(b)節電効果を織り込まない。
(c)ピークシフト契約や時間帯別料金制度を導入しようとしない。
(d)冷房過剰の抑制や老朽エアコンの買い換えを予定しない。
(e)節電すれば安くなる料金形態を導入しない。逆に、「はっぴeポイントクラブ」でオール電化を推進し、消費を促進している。
供給量の側には、過小評価がたくさんある。
(a)震災から1年以上経つのに、休止中の火力発電所の手入れをして発電設備を増やそうとしていない。
(b)揚水発電所を肝心な時に十分使おうとしていない。
(c)太陽光など自然エネルギーをほとんど計算に入れていない。
(d)企業の持つ自家発電設備の余剰分買い上げを検討していない。
(e)他の電力会社からの融通電力が不十分だ。
要するに、怠慢のうえにあぐらをかいた電力会社が作るシナリオが「電力不足」だ。
以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。
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(2)電力は足りないか
政府は、再稼働について言明している。
①安全を最優先し、安全でなければ必要であっても再稼働しない。
②安全であっても必要がなければ再稼働しない。
そして政府は今、すでに「安全」という「確認」はなされたので、残るハードルは必要性だとし、経産省と電力会社の合作による電力不足キャンペーンを演じている。
当初、経産省・関西電力は、大飯原発の再稼働がなければ、平年並み(過去5年の平均)の暑さで15%以上、一昨年並みの猛暑であれば20%程度の電力が不足する、よって再稼働が必要だ、と主張していた。
(a)これは浅はかなトリックで、事故前の実績値で試算している。
事故後を見れば、昨年8月末までに原発は全体の8割が停止したが、節電努力により、猛暑にもかかわらずピーク電力は、東電管内で前年より18%(全国でも13%)も削減された。
昨夏は、大口顧客に対して電力使用制限令が出た。その削減実績は、家庭・中小企業の「電灯」契約が8.2%、小規模工場などの「動力」契約が9.5%、もっとも電力消費量の大きい特別高圧契約が(ピークカット15%もの義務を課されているにもかかわらず削減率がもっとも小さい)5.1%。
したがって、
①政府エネルギー・環境会議の試算・・・・電力需要を昨夏なみに抑制できれば、日本全体の電力需要1億5,661万kWに対して供給力は1億6,297万kWで、636万kWの供給予備がある(予備率4%)。東日本3社、中西日本6社ごとに見ても不足はない。電力会社ごとに見ても、他社からの融通など追加対策が本当に必要なのは関西電力だけだ。
②環境エネルギー政策研究所(ISEP)の試算・・・・昨年なみの節電を(よりスマートな方法で)実施して最大電力を昨夏なみにおさえ、発電設備を再点検して供給力を見直すと、今夏にすべての原発が停止したままでも、電力ピーク時に全国で16%以上、東日本3社で24%以上、中西日本6社で11%の電力需要の余裕を確保できる。
(b)経産省は、オイルショック以来の「我慢して節電」という観念のままフリーズしている(<例>無差別に15%を一律かつ強制的に削減させる昨年の電力使用制限令)。
しかし、こうしたアプローチは、欧米ははるか昔に卒業した。
需要を減らすことは、新しい発電所をつくることと同義なのだ。これは、需要管理=デマンドサイドマネージメント(DSM)と呼ばれる。供給を増やすための資金を需要を減らすために使うか、需要を減らした部分をマイナスの発電「ネガワット」として取引する。村上憲郎・大阪府市エネルギー戦略会議参与の試算によれば、ネガワット取引を駆使することで、関電は500万kWものネガワットを利用できる。
DSMは、21世紀のエネルギー政策の根本概念のひとつだが、日本では致命的に欠落してきた。その状況に多少の変化が見られてきたことは、エネルギー政策の進歩だ。
(c)電力会社には、法的に電力を安定供給すべき義務と責任がある。原発が稼働を停止するリスクは、3・11以前にも存在した(<例>2002年に東電の原発が全基停止した)。にもかからず、関電は電力供給の面でも経営面でも原発に頼りきる「原発一本足打法」の経営を改めずにきた。その経営責任を問わなければならない。
関電は、大阪府市エネルギー戦略会議においても、国の需給検証委員会においても、再稼働なしに安定供給する見通しを示していない。これは、安定供給への真剣な努力をせず、夏期に停電すると脅し、自ら「停電ブラック企業」であると宣言するに等しい。
(続く)
以上、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所長)「破綻した原発再稼働の論理 ~反省なき原子力ムラの暴走をどう止めるか~」(「世界」2012年7月号)に拠る。
*
関西電力は、もっとも原発依存度が高い電力会社で、発電量の4割以上を原発に頼る(2009年度)。しかし、原発の設備量は26%にすぎない。他の発電所を停めてでも原発を優先させているだけだ。
関電は、大飯原発の再稼働を求めるため、夏場の電力需要ピーク時に不足する電力量を過大に見積もっている。
経済産業省によれば、他の電力会社の節電を前提とした融通などがあれば不足は5%程度だ(5月15日、大阪市エネルギー戦略会議)。しかし、共同通信社の調査によれば、経産省の融通電力の数値は同日同時に各社の消費ピークが来ることを前提としており、実績に基づいたうえで、西日本の電力6社が5%強の節電をして融通すれば、原発を再稼働しなくても電力は不足しない。
関電のご都合主義データは、他にもある。関電は、それまでは大飯原発3、4号機が再稼働しても5%不足する、としていたのに、政府の需給検証委員会では一転して「再稼働すれば夏の電力確保に余裕ができる」と述べている。
明らかなことは、「大飯原発の再稼働を企画して、恣意的にデータを変えている」ことだ。当初の関電の推計データは、
(a)需給量が過大だ。猛暑だった2010年の数値を用い、2011年の数値も過去5年平均の数値も使わない。
(b)節電効果を織り込まない。
(c)ピークシフト契約や時間帯別料金制度を導入しようとしない。
(d)冷房過剰の抑制や老朽エアコンの買い換えを予定しない。
(e)節電すれば安くなる料金形態を導入しない。逆に、「はっぴeポイントクラブ」でオール電化を推進し、消費を促進している。
供給量の側には、過小評価がたくさんある。
(a)震災から1年以上経つのに、休止中の火力発電所の手入れをして発電設備を増やそうとしていない。
(b)揚水発電所を肝心な時に十分使おうとしていない。
(c)太陽光など自然エネルギーをほとんど計算に入れていない。
(d)企業の持つ自家発電設備の余剰分買い上げを検討していない。
(e)他の電力会社からの融通電力が不十分だ。
要するに、怠慢のうえにあぐらをかいた電力会社が作るシナリオが「電力不足」だ。
以上、田中優(未来バンク事業組合理事長)「偽装計画停電をくいとめよう」(「世界」2012年7月号)に拠る。
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