語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】国民主権から外国投資家主権へ ~ISD条項~

2013年11月08日 | 社会
 (1)ISD( Investor-State Dispute Settlement )は憲法を破壊する。

 (2)ISD条項は、協定に反する加盟国の制度や慣行によって外国投資家が損害を被ったときに相手国政府を国際仲裁に訴えることを認める制度だ。
 多国籍企業と日本政府の間の紛争は、本来、日本の司法の管轄下にある。日本の裁判所の判断に服するのが当然だ。しかるにISD条項は、外国投資家が日本の裁判所を回避して国際仲裁に訴えることを認める。
 国際仲裁の実態は、「投資家私設法廷」だ。
 仲裁人は、事件ごとに専任され、裁定を下せば解散する。その場限りの私設法廷であり、仲裁人は誰にも責任を負わない。仲裁人は、グローバル市場原理主義を基本原則とする「国際経済法」に堪能なビジネスロイヤーなど一握りの人物に限られている。
 国家の制度や慣行といった公的なものを裁くには、あまりにもお粗末な仕組みだ。

 (3)国家間の紛争を強制的に解決する制度は基本的に存在しない。
 国際司法裁判所制度では、被告とされた国家は裁判に応じるか否か、原則として自由だ。
 WTOの紛争解決制度もWTO協定に反するか否かを判定するにとどまる。仮にWTO協定違反と認定されても、最終的には国家間の交渉で解決せざるを得ない仕組みだ。

 (4)ISD条項は、外国投資家に対して、国家を強制的に裁判に引き出す権利を認める。しかも、具体的な損害賠償や補償を直接に命じ、裁定には、相手国の国内裁判所を通じて強制執行ができる効力が与えられている。
 ISD条項は、国家を超える強力な法主体性を外国投資家に認める。
 この法廷では、政府(自治体を含む)のあらゆる政策、制度、慣行が提訴の対象になる。
 多国籍企業の利益を違法に侵害した、と判断されれば、莫大な賠償を命じられる。
 相手国に対する威嚇訴訟も可能だ。
 日本国内での法的紛争であるのに、国際法によって、日本の裁判所の関与が排除される。こうした例外は、今のところ、①外交官特権と、②日米地位協定による在日米軍内部および公務中の犯罪に限られる。
 ところが、TPPによる例外は、多国籍企業が関わるあらゆる場面に適用される。極めて広範囲なものだ。
 このような例外を認めることは、「すべて司法権は最高裁判所と系列の裁判所に属する」旨を規定する日本国憲法第76条第1項に反する。

 (5)わが国の裁判所は、基本的人権の最後の砦たる役割を担う(違憲立法審査権など)。
 一方、投資家私設法廷の基本ルールは、多国籍企業の利益を国民の生命や健康より優先する。
 わが国の裁判所を回避して投資家私設法廷に訴えることを認めるISD条項は、日本国憲法の基本的人権尊重原則を、多国籍企業の利益を最優先するものに書き換える。日本国民は、多国籍企業の利益に反しない限度での人権しか認められなくなる。人権は副次的な価値へ貶められる。

 (6)国会や内閣による政策決定は、ISD条項によって、常時、多国籍企業の監視下に置かれることになる。
 萎縮効果によって、国会の政策決定は、外国投資家の利益を害さないことを第一に配慮したものとなる。
 ISD条項は、国会を外国投資家の監視下に置くことによって、国民主権から外国投資家主権へ、憲法を書き換える。
 国民主権、基本的人権尊重、平和主義は、日本国憲法の3大原則だ。ISD条項は、これらの最初の2つを書き換えてしまう。

□岩月浩二(TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表)「ISD条項は憲法を破壊する 国民主権から外国投資家主権へ」(「週刊金曜日」2013年10月18日号)
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