語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】『十五の夏』 ~1975年のチェコ(3)~

2019年01月23日 | ●佐藤優
 <この調子だとワルシャワ行きの寝台切符を取るのも相当難しそうだ。とにかく、朝一番で中央駅に行ってみることにした。8時頃に起きて外に出ようとすると、昨日のイタリア人女性がいた。横に10歳くらいの年上の額が広くなった男性が立っていた。僕が「昨晩はどうもありがとうございました」とお礼を言うと、彼女はイタリア語で夫に説明していた。夫は笑って、「この時期にチェコスロバキアを旅行するとたいへんですよ。チェコ人は親切な人たちですけれど、能力を超えて観光客を受け入れてしまっている。それだから、あちこちでトラブルが生じています」と言った。僕はイタリア人夫妻と握手して外に出た。タクシーを拾って、「中央駅に行ってくれ」と頼んだ。
 中央駅の国際列車の切符売り場に行った。幸い行列はなかった。ワルシャワまでの寝台列車の切符を買いたいと言うと、パスポートを見せろという。日本からの観光客の切符はチェドックでしか売ることができないという。悪い予感がした。もしかすると切符はすべて売り切れているかもしれない。そのときは飛行機でワルシャワに向かうしかない。確か社会主義国の航空運賃はそれほど高くなかったはずだ。とにかく、ホテルに戻ってチェックアウトをしなくてはならない。ホテルのチェックアウトは簡単にできた。再びチェドック本社に行った。
 今度は、TRAINと記されたカウンターで半日近く待った。10人くらいが並んでいた。全てを手作業で行っているので、時間がかかるのだ。午後2時くらいに僕に順番が回ってきた。難なくワルシャワ行きの二等寝台切符を買うことができた。列車の出発は午後9時過ぎなので、まだ数時間余裕がある。疲れ果ててしまった。市内観光をしようという気分にもなれない。そこで中央駅のベンチに座って、ひたすらワルシャワ行きの列車を待つことにした。本を読もうと思ったが、力が湧いてこない。ただぼんやりとベンチに座っていた。夕方になるとお腹が空いてきた。食堂を探したが、勝手がよくわからない。ホームの売店でソーセージとシュニッツェルを売っている。そこでソーセージ、シュニッツェルを買った。コーラを飲みたくなったが、売店で売っていない。そこで瓶に入ったオレンジジュースを買った。栓を開けてもらい、飲むとオレンジではなく薬品の味がした。舌がしびれるような感じがする。そこで、ジュースにはほとんど口をつけずに牛乳を買った。牛乳はおいしい。ソーセージはぶよぶよでほとんど味がしない。ただし、シュニッツェルはとてもおいしかった。シュニッツェルと牛乳で生き返る思いがした。
 いったいこれからどうなるのであろうか。僕は不安で泣き出しそうになった。

□佐藤優『十五の夏(上下)』(幻冬舎、2018)の「第二章 社会主義国」の「4」から引用

 【参考】
【佐藤優】『十五の夏』 ~1975年のチェコ(2)~
【佐藤優】『十五の夏』 ~1975年のチェコ(1)~

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