語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【小林照幸】殺されてゆくペットたち ~動物を愛する者の非情~

2016年02月01日 | ノンフィクション
 (1)ペットが殺されてゆく。
 飼い主に捨てられたペットが、殺されてゆく。
 2004年度には、全国で39万匹余が殺処分された。
 バブル期には、年間60万匹をが殺処分された。

 (2)日本では、少なくとも1,700万匹の犬猫が飼育されているらしい。ペット業界が1兆円産業に成長したのは、飼う人が多くなったからだ。ペットをしてコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼んだりもする。
 かたや、捨てられる犬猫も増えている。
 飽きたから捨てる・・・・オモチャ感覚なのだ。ラブラドール・レトリーバー、ハスキー、ダルメシアンなどブームになった犬が、チワワといった新たなブームの犬が出現すると捨てられる傾向が日本では強い。
 あるいは3月、人事異動の季節には、公的機関に持ちこまれる猫の数が他の月よりもぐんと増える。犬も同様だ。異動した息子夫婦から飼育を頼まれたものの、大型犬なので杖で歩行する老夫婦には飼えない。そこで公的機関に相談するのだが、殺処分と聞いて絶句する・・・・ものの、やはり「引き取り」となったりする。

 (3)『ドリームボックス』は、ある県の動物愛護センター(以下「センター」と略する)に勤める獣医師、主任技師にして狂犬病予防員・動物愛護管理員の日高史朗にスポットライトをあて、その7日間を追跡する。
 わずか1週間の間に、住民の身勝手、無責任がわんさと、霰のようにセンター職員に襲いかかる。
 たとえば、「抑留犬日報」に飼い犬らしきを見つけてセンターを訪れた若い男女。首尾よく見つけた。犬も飼い主に再会して喜び、尻尾をふる。日高もホッとして心の中でつぶやく。これで生き延びることができたね。
 ところが、突然、二人は注文をつけるのだ。あの雑種はいいから、こっちのダルメシアンをちょうだい・・・・。

 (4)吠えてうるさいからゴルフクラブのアイアンで叩いたら足の骨が折れた、安楽死させてくれ・・・・。
 春休みに10日間、ヨーロッパに旅行するから預かれ、県の施設だからタダで泊めろ・・・・。
 散歩に連れていく時間がなくて放し飼いにしていたら、センターが勝手に連れて行き、勝手に殺した・・・・。
 なかには、ひとたび遺棄したものの、思い返して返還を求める者もいる。ただし、電話で話すのは子どもなのだ。母親らしきが、子どもの背後から指示している・・・・。

 (5)ある日、日高は、路上に飛び出したところを車にはねられた大型犬を現場で公用車に積みこんだ。体重が50キロ近くあるロットワイラーである。首輪はなかった。飼育に困った飼い主が遺棄したのだ。
 カナダやオーストラリア、ドイツの一部の都市では、飼い犬にICチップの装着を義務づける。飼い主に最後まで面倒をみる責任を果たさせるべく、飼い主の住所・氏名のデータを記録いたICチップを専用の注射器で背中の皮膚の下に埋めこむのだ。

 (6)動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)は、病気、老衰、飼い主がもう飼えない等による「引き取り」を定める。
 狂犬病予防法は、飼い主に捨てられた犬、首輪が外された徘徊犬、いわゆる野良犬などの「捕獲・保護」を定める。
 「引き取り」「捕獲・保護」された犬猫の多くは、保健所を経由してセンターに運びこまれる。
 「引き取り」は、翌日に殺処分だ。他方、「捕獲・保護」は5日間公示し、飼い主に返還する機会を与える。

 (7)センターは、三棟の建物から構成されている。
 研究棟・・・・会議室、事務室、休息室、更衣室、検査室、手術室。
 管理棟・・・・犬や猫を抑留し、管理する。成犬抑留室(1~5)、小型犬抑留室、猫抑留室、咬傷犬抑留室に分かれる。
 処分棟・・・・「ドリームボックス」と2基の大型焼却炉がある。
 それぞれが扉と廊下によって結ばれるが、管理棟と処分棟を結ぶステンレス製の床の廊下は「自動追い込み通路」と呼ばれている。抑留室から「自動追い込み通路」へ移動させられた犬猫は、動く壁に押されて追いこまれ、鉄製の箱に閉じこめられる。箱は「ドリームボックス」と呼ばれる。箱に炭酸ガスが注入されると、犬猫はたちまち意識不明になり、眠るがごとく死に至る(はずだ)。だから「ドリームボックス」と呼ばれる。
 殺処分は、かつては職員がバットで力任せに殴り殺していた。 
 センターは、毎年15,000匹の犬猫を殺処分している。不思議なことに、犬と猫の割合は3対2で毎年一定している。
 全国のすべての都道府県に、センターと同様の殺処分を行う施設が存在する。

 (8)焼却処分には、毎週900リットルの灯油が使用される。年間46,800リットル、灯油1リットル当たり73円とすると、年間342万円。
 資源の無駄遣い、税金の無駄遣いだ・・・・と日高は何度となく独り言つのだ。

 (9)焼却された犬と猫の骨は、毎日1袋分出る。
 家庭菜園が趣味のセンター所長は、自分の畑に肥料として撒いた。作物の生長のよさに近隣の農家が驚いた。どこのメーカーなのかと問われて説明したところ、当然ながら気味悪がられた。しかし、そこは年季の入った所長のこと。かくかくしかじかで骨になったのだ、肥料とするのが功徳なのだ、と先方を納得させてしまった。いまでは多くの近隣の農家がこの肥料を使用している。
 作物の成長がよいのは、処分された犬や猫の“もっと生きたい! ずっと生きたい”という願いが骨になっても残っているからだ。そう、この所長は言っているらしい。
 犬や猫の無念の死は、人間の無責任が原因である。

□小林照幸『ドリームボックス -殺されてゆくペットたち-』(毎日新聞社、2006)
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