語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【派遣】原子力損害補償業務はホームズの赤毛組合? ~中高年派遣社員物語6~

2017年02月26日 | ノンフィクション
 (1)あなただったら、どうする?
 研修を受けることが仕事だったら。
 しかも、時給1,500円と高額だったら。

 (2)1ヵ月間の短期業務で、東京電力の仕事をしたことが筆者=森川海守氏にはある。応募者は50人くらいの中高年。仕事は、福島の原発事故(2011年3月)で避難を強いられた16万人の避難者に対する補償業務だ。
 まず、セキュリティ対策や補償業務等に係る説明を1週間受けた。翌週も研修、翌々週も研修。結局、研修だけで1ヵ月が終わった。まるでシャーロック・ホームズの赤毛組合であった。
 赤毛組合とは、銀行強盗を企む盗賊が考えた組合で、赤毛の人だけが加入できる。組合職員に欠員ができたという新聞広告で、赤毛の人をおびき出し、組合の仕事をさせ、その留守中にくだんの赤毛の人が住む家から銀行に通じる地下道を掘る。ところが、いよいよという時に解雇されたので、不審に思ったその赤毛の人がベーカー街221Bを訪れたことで、真相が判明。犯罪者は逮捕された。

 (3)赤毛の人が組合の仕事としてやっていたのは、大英百科事典を書き写すだけ。これだけで高額の給料が保証された。
 東京電力の補償業務も同じではないか。
 仮に採用者1人に1日1万円、派遣会社の社員5人に2万円払うとして、1日60万円。1ヵ月を25日と計算して、大まかに1,500万円がまるまる無駄になったといえる。

 (4)それから1年後、はたらこねっとで探した仕事は、同じく60人と大量募集の同業務。研修後はテストがあり、結果が悪ければ解雇される。しかも、1ヵ月毎の更新だ。筆者はなんとか1ヵ月の更新を得たが、務めて1ヵ月を過ぎた時に、30代のフロアマネージャーから呼び出しがあった。彼から、一言。仕事が遅い、と。唖然。
 3週間の研修を終え、やっと実務に入ったばかり。仕事は避難者からの請求に基づき、被害額を算定するというもの。マニュアルがあり、難しくはないものの、請求書は毎日30件程度。しかも、請求書1件の作業は午前中いっぱいかければ十分。
 筆者がいたフロアでは、60人の派遣社員がいたが、どうも、半数以上に仕事が十分にはないようなのだ。研修が終わって配属された部署で、筆者が請求書に関わったのは4件のみ。その段階でクビだと言い渡された。それから約1カ月間、パソコン上にある研修プログラムで暇をつぶす羽目となった。

 (5)同僚に聞いたところ、30人いた同期入社が、1年経っても残っていたのは2、3人だったという。筆者の推測だが、国と東電との間で、1ヵ月間に費用はこれぐらいで、研修に何人雇う、という契約をしているのではないか。中高年は予算消化のために使い捨てにされているのではないか?
 フロアには、プライバシー漏洩に目を光らせる派遣会社職員が10人以上。
 暇な仕事と、多数の監督者の数から、国民の税金や電気料金を食い物にする実態が透けて見える。補償業務に係る費用を精査した上で、東電の役員、職員の給料を削る企業努力が必要だ。

□森川海守「原子力損害補償業務はホームズの赤毛組合? ~中高年派遣社員物語6~」(「週刊金曜日」2017年2月17日号)
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 【参考】
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