語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】亡くなっても魂にも個性がある/ウアゲシヒテ「原歴史」 ~「日本」論(6)~

2018年07月06日 | ●佐藤優
 <『遊動論--柳田国男と山人』によると、亡くなっても50年ほどは魂にも個性があるそうです。戒名が付き、向こうの世界に行っても、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんもいろいろ覚えているということです。ところが50年経ってしまうと、祖霊となって個性がなくなってしまいます。何々家、田中家の祖霊、鈴木家の祖霊として、自分たちを守ってくれるという感覚になる。こうした柳田の霊魂観は、立証できません。しかしあったとは想定されうる。これはウアゲシヒテ、「原歴史」です。
 日蓮を追いかけてみると、とても面白いことがあります。「御書(ごしょ)」と呼ばれるテキストの中には、明らかに後世につくられたものがあり、日蓮の真筆ではないものがたくさん含まれています。これをどういうふうに評価するかというと、先ほどのウアゲシヒテ、すなわち「原歴史的」な解説が重要になると思います。実証はできない、もしくは実証では否定されるけれども、教義的には真正だと認める、というものはありうるからです。
 実は、キリスト教の聖書でも、そのようなものはたくさんあります。ヘブライ書やヨハネ第二の手紙に、ヨナね第三の手紙といったものは、真正の文書かどうかよくわかりません。だからルター派の聖書では、ヨハネの黙示録やヘブライ書は、後ろのほうに全部まとめて付けてある。カトリックや改革派、カルヴァン派の聖書とは違います。ルターは、ヨハネの黙示録やヘブライ書などは、本来」聖書」に入れるべき文書と思っていなかったのです。そのため、あえて後ろのほうにまとめているのが、ルター派の聖書です。
 「歴史」と「原歴史」を考えるうえにおいても、キリスト教の研究は重要です。われわれが理性を重視するようになったのは、17世紀からです。18世紀から、啓蒙主義が流行していきます。この啓蒙主義、「アウフクレールング(Aufklkaerung)」もしくは「エンライトメント(Enlightment)」とは、どういう意味でしょうか。
 エンライトメントはライト、光をつけていく。真っ暗な部屋でロウソクを一本つけると、少し周りが見えるようになる。二本つけると、もっと見えるようになる。三本つける、四本つける。どんどん明るくなって、物事が見えるようになる。ロウソクの光にあたるのが知恵です。知恵をどんどんつけていけば、世の中のことが全部わかり、解明できるようになるという考え方です。>

□佐藤優『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』(KADOKAWA、2018)の「第一講 東と西の革命児」の「実証はできないが教義的には真正なもの」を引用

 【参考】
【佐藤優】葬式は宗教の強さに関係する ~「日本」論(5)~
【佐藤優】紅白歌合戦の持つ大きな意味 ~「日本」論(4)~
【佐藤優】歴史的時間の「カイロス」と「クロノス」 ~「日本」論(3)~
【佐藤優】点と線の意味づけによって複数の歴史が生じる ~「日本」論(2)~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~



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